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旅の手帖。 [2006]

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さて、秋は旅行シーズン!とは言うものの、実はピンとこない...
夏のヴァカンスに、冬のスキー・リゾートなんて洒落込まなくとも、ゴールデン・ウィークに盆に正月と、旅行は季節を問わない。というより、秋こそ抜け落ちている?数年前には、シルバー・ウィークなんて、盛り上がったこともあったはずだが、どこかへ行ってしまった。となると、秋は旅行をしないシーズン?芸術の秋、読書の秋と、何となしに内に籠るのが秋の作法のようにも感じるのだけれど。ということで、内に籠って旅をする?
秋は音楽による旅行シーズン... 旅する音楽シリーズをやってみようかなと、ふと思い付く(いや、いつも"オモイツキ"なのだけれど... )。その第1回として、ルネサンスからバロックへと移ろう頃、イギリスからアラビアまでを旅したという、フランスの作曲家、テシエの音楽を聴く。それは、各地の音楽が詰まった旅の手帖。
2006年にリリースされた、ヴァンサン・デュメストル率いる、古楽アンサンブル、ル・ポエム・アルモニークによる、"Charnets de voyages"(Alpha/Alpha 100)を聴き直す。

"Charnets de voyages(旅行手帖)"、その解説の日本語訳を改めて読み直すと、このアルバムが如何に凝ったものかを思い知らされる(訳者の情熱も凄い!)。まずこのアルバムの核となる作曲家、シャルル・テシエ(1550年頃に南仏で生まれ、その死の年はよくわかっておらず、1610年以降とのこと... )。仕事を求めてヨーロッパ各地の宮廷を巡り、さらには地中海を渡りアラビアも旅したとのこと... そうしてめぐり合った様々な音楽を曲集としてまとめ出版し、その当時、ルネサンスからバロックへと移ろう頃、広くヨーロッパで支持されたらしい。そして、テシエによって集められた音楽というのが、ルネサンスのスタイル(ポリフォニー)と、初期バロックのスタイル(モノディ)が混在した16世紀から17世紀へ、世紀が改まる頃のヨーロッパのリアルな音楽シーンを伝える貴重な資料にもなって... フランドル楽派全盛のルネサンス期、モンテヴェルディが活躍した初期バロックという教科書的音楽史の裏を突くような、多様な音楽の広がりを、この旅の手帖は見事に捉える。
そうした中で、ひと際、異彩を放つのが似非外国風音楽... 始まりの擬トルコ語=トゥルケスクによるシャンソンなどは、実際のトルコの音楽ではなく、テシエによる創作トルコ歌謡といったところだろうか?また、スイスのイタリア語圏のヴィラネッラ(track.3)では、ドイツ訛りのイタリア語で「スイス」が強調されているとのこと。ヤリ過ぎ感ありありの、くど目のアクセントは、現代人の耳にもユーモラス... そんな、珍奇なエキゾティシズムがスパイスとなって、虚と実が入り混じる不可思議な音楽博物誌が繰り広げられて、おもしろい。一方で、イタリア語によるヴィラネッラ「理想郷の麗しき女」(track.8)では、南米のバロック(インディオの文化を吸収した... )を思わせるトーンが聴こえて来て、地中海どころか、大西洋も渡ってしまう?いや、チャコーナなど、南米の舞曲が大西洋を渡って来て、当時のヨーロッパのポップ・カルチャーで一大ブームを巻き起こした事実もあるわけで、そうしたあたりを垣間見せるところもあるのか。テシエという存在に焦点を合わせることで、ヨーロッパの1600年前後のより詳細な姿が露わになる"Charnets de voyages"。ハイ・カルチャーと、ポップ・カルチャーに素直に刺激を受けるフレキシブルなハイ・カルチャーを並べて、ごった煮的に多彩な音楽を詰め込んで生まれる時代の気分というのか、フランドル楽派に、モンテヴェルディだけでは知り得ないリアルな音楽シーンの息遣いが伝わり、刺激的。
そして、そのリアリティを生む、デュメストル+ル・ポエム・アルモニーク!器用にも多彩な歌の数々を歌い分ける歌手たち、実直に古楽器と向き合いヴィヴィットなサウンドを奏でる器楽アンサンブル... 彼らの丁寧さが、ひとつひとつの作品に活き活きとした表情を与えるあたりは、魔法を感じてしまう。古楽なればこその粗削りさとは一線を画す、見事に洗練されたハーモニーを生み出し、洗練されつつもけして冷たい音楽にはしないその驚くべき音楽性は、"Charnets de voyages"に混在するポリフォニーとモノディという性格の違いを巧みに乗り越えて、やわらかなサウンドで結ぶ。すると、1600年前後の過渡期が放つ微妙な匂い/臭いのようなものを浮かび上がらせて、音楽だけではない、時代の気分を堪能させてくれて、魅了されずにはいられない。何より、恐ろしくマニアックな内容でありながら、教科書的な音楽史から逸脱することで、思い掛けなく魅力的な音楽が繰り広げられるという妙。教科書的でないと、音楽史が辛気臭くならないという皮肉。場合によっては現代的ですらある瞬間があって。不思議な音楽旅行に誘ってくれる...

TESSIER Carnets de voyages
Le Poème Harmonique - Vincent Dumestre


テシエ : 擬トルコ語(トゥルケスク)によるシャンソン 「ヘ・ヴェル・アケウル」 と 「タル・リシ・マン」
テシエ : スペイン語によるエール 「わたしのより熱いものはなし」
テシエ : スイス・イタリア語によるヴィラネッラ 「おいらの愛しき女たち」
フィリドールの曲集 から 田舎のブランル
フィリドールの曲集 から ロレーヌのブランル
ハスラー : お嬢さん、あなたが美しいから
ヘッセン・カッセル方伯モーリッツ : グリエルモ・ケウデリオ氏のパヴァーナ
テシエ : イタリア語によるヴィラネッラ 「理想郷の麗しき女」
テシエ : イタリア語によるヴィラネッラ 「この命、きみに捧げたい」
テシエ : エール・ド・クール 「もう、航海はたくさんだ」
ダウランド : エセックス伯のガリアード
ダウランド : 迸れ、この涙
フィリドールの曲集 から レ・ガスコン
テシエ : フランス語によるシャンソン 「あまりに長く処女でいすぎたわ」
テシエ : フランス語によるエール・ド・クール 「俗世の炎が」

ヴァンサン・デュメストル/ル・ポエム・アルモニーク

Alpha/Alpha 905

10月、音楽で旅をする...
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