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"PSALMS" [2012]

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10月になって、台風が行って、秋はより身近に...
が、世の中は、紅葉なんてスっ飛ばして、もう第九の案内に、クリスマス関連のリリースと、すでに年末を見据えている。そして、その忙しなさに、中てられてしまう。いや、毎年、中てられる。資本主義の、あまりに"time is money"な季節の運び方に、季節感そのものが狂ってしまう。近頃、ふと思うことがある。世の中、あまりにタイトになり過ぎているのではないだろうか?少しスロー・ダウンしてみると、意外と景気は良くなるのかもしれない。って、そう単純なものではないのだけれど、そんなことを思いたくもなる世の中でして。
さて、かなり、濃く、『聖書』の世界を聴いて来たので、少しスロー・ダウン?というか、爽やかな秋空のようなア・カペラのコーラスを聴いてリフレッシュしてみようかなと... ダニエル・ロイス率いる、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団が歌う、メンデルスゾーンとクレークの詩篇で編まれたアルバム、"PSALMS"(ONDINE/ODE 1201)。って、やっぱり『聖書』の世界が続く。

ロマン派の優等生、メンデルスゾーン(1809-47)と、合唱王国、北欧を代表する作曲家のひとり、クレーク(1889-1962)。メンデルスゾーンと北欧という組合せが、とても新鮮で... というより、こういう組合せがあったかと、その意外性に興味を引かれる。が、これこそが絶妙な組み合わせであって。ロマン派にして、まだまだロマン主義が瑞々しさを失っていなかった頃のメンデルスゾーンと、北欧ならではの清廉さ、フォークロワな素朴さを結び、激烈な近代という時代にあっても清らかなロマン主義を歌い上げたクレーク。メンデルスゾーンからクレークへという流れは、思いの外、ナチュラルにつながってしまう。
が、やはり19世紀の作曲家と20世紀の作曲家、北ドイツに生まれた人とバルト(エストニア)に生まれた人、という違いは浮かび上がる。またそこがおもしろい。ア・カペラの鮮烈さが際立つ、1曲目、メンデルスゾーンの「主に向かいて歓呼の声をあげよ」の歌い出し... 大聖堂の高窓から降る陽の光が、石で造られた空間を凛と見せるかのような、気持ちの良さ!メンデルスゾーンの音楽のくもりの無い響きは、ア・カペラだからこそ際立ち、その天国的な佇まいに圧倒される。続く、2曲目、クレークの『ダヴィデ詩篇』からの「わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか?」(track.2)は、北欧ならではの清らかさを感じながらも、ズーンと大地から響くような感覚があって、メンデルスゾーンには無い湿り気を感じ、どこか仄暗さも。海の水気を吸ったフィヨルドを渡る風に吹かれるような心地に... クレークの故郷、エストニアは、フィヨルドのあるスカンディナヴィア半島の対岸ではあるのだけれど... この自然を喚起させる感覚が北欧ならではの音楽か。特に印象的なのが、アルバムの最後、クレークがア・カペラ用にアレンジした宗教的な民謡(track.13-17)。ア・カペラの透明感と、フォークロワの素朴さが共鳴して生まれる、独特の瑞々しさは、心に沁み入り、懐かしさがこみ上げるような不思議な心地にさせられる。のだが、それは、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団の温もりのあるハーモニーが生み出すところも大きい。
1981年にカリユステが創設し、一躍、合唱界の寵児に成長したエストニア・フィルハーモニック室内合唱団も、ヒリアー、そしてロイスと、ヨーロッパを代表する合唱界のマエストロたちの下、よりインターナショナルな存在として、風格すら出て来たように感じるのだけれど。この"PSALMS"では、彼らの揺るぎない自信が溢れ、フレッシュさばかりでない、深みと落ち着きが、作品ひとつひとつの魅力をしっかりと引き立てる。そこに、ロイスのカラーというのか、スーパー・クリアなハイテク室内合唱に留まらない、風合のようなものを大切にする志向が、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団に、室内合唱にしてより大きなスケール感を与え。まるで抱かれるような感覚は、壮麗であり。また、しっかりと地に足の着いた存在感というか、安定感から生み出される得も言えない温もりが、聴く者の心をほっとさせもする。懐の大きなハーモニーに、惹き込まれてしまう。また、そんなハーモニーがあってこそ、メンデルスゾーンとクレークの音楽が互いに響き合い、それぞれの個性を引き立てつつ、より魅力的な1枚のアルバムにまとめられて... "PSALMS"の、その詩篇の意味を越えて、深い感動が広がる。やっぱり、人の声は凄い!ア・カペラのパワー、というより魔法?に、改めて魅了される。

PSALMS: MENDELSSOHN ・ KREEK
ESTONIAN PHILHARMONIC CHAMBER CHOIR ・ REUSS


メンデルスゾーン : 詩篇 第100篇 「主に向かいて歓呼の声をあげよ」 Op.69-2
クレーク : 『ダヴィデ詩篇』 から 詩篇 第22篇 「わが神、なにゆえわたしを捨てられるのですか?」
メンデルスゾーン : 3つの詩篇 Op. 78
クレーク : 『ダヴィデ詩篇』 から 詩篇 第141篇 「主よ、わたしはあなたに呼ばわります」
クレーク : 『ダヴィデ詩篇』 から 詩篇 第104篇 「わがたましいよ、主をほめよ」
クレーク : 『ダヴィデ詩篇』 から 「幸いなる人」
クレーク : 『ダヴィデ詩篇』 から 詩篇 第137篇 「われらはバビロンの川のほとりにすわり」
メンデルスゾーン : オラトリオ 『エリヤ』 Op. 70 から 第2部 「山に向かいて目をあげよ」
メンデルスゾーン : オラトリオ 『エリヤ』 Op. 70 から 第1部 「それ、主汝のためにみ使いたちに命じ」
メンデルスゾーン : 2つの宗教的合唱曲 Op. 115 から 第1番 「死せる者は幸いなり」
クレーク : 宗教的な民謡 から "Kui suur on meie vaesus"
クレーク : 宗教的な民謡 から "Jeesus koige ulem haa"
クレーク : 宗教的な民謡 から "Armas Jeesus, Sind ma palun"
クレーク : 宗教的な民謡 から "Oh Jeesus, sinu valu"
クレーク : 宗教的な民謡 から "Mu suda, arka ules"

ダニエル・ロイス/エストニア・フィルハーモニック室内合唱団

ONDINE/ODE 1201




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