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1846年、エリヤ... [2012]

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エリヤが来て、メシアが来る...
というのが、旧約聖書の流れなのだけど、『メサイア』を聴いてから、『エリヤ』を聴いてみる。って、何だか、随分と『聖書』の世界にはまってしまったようだけれど... よくよくその物語を見つめると、下手なSFよりずっとドラマティックでエンターテインな印象を受ける(特に旧約... )。例えば『エヴァンゲリオン』が、そうした世界を拠り所に独自の物語を描き出したように、想像を掻き立てる様々なドラマやミラクル(時々オカルトも... )が詰まっていて。どうも、一般的には、説教臭い大昔の本... なんてイメージを持たれかねないのだけれど、実は非キリスト教徒でもおもしろい。いや、非キリスト教徒だからこそ、フルに楽しめるのか?そんな『聖書』の世界を描く数々のオラトリオ... 話しが話しだけに、オペラよりも凄い情景が描き出され、迫力満点だったり。そして、旧約から新約へと橋渡しされるあたりを歌うメンデルスゾーンの『エリヤ』。三大オラトリオの一角を占める傑作!もちろんスペクタキュラーなシーンだってある。そんな『エリヤ』を、ピリオド・アプローチにして、特大規模で挑む!?
signumに移って以降、次から次へとアルバムを繰り出し、再びその存在感を増しているイギリス、ヒリオド界の第2世代、ポール・マクリーシュと、彼が率いるガブリエリ・コンソート&プレイヤーズに、さらに2つのコーラス、3つのユース・コーラスを招いて、壮大に繰り広げられるメンデルスゾーンのオラトリオ『エリヤ』(signum CLASSICS/SIGCD 300)を聴いてみる。

ピリオドというと規模の小さいイメージがある(実際、かつてのオーケストラは規模が小さかったのだから、それは当然なのだけれど... )。そして、規模が小さいからこそ、モダンのオーケストラではなかなか難しい小回りの利くフットワークの軽さと、そこから生み出されるクリアな響きが、作品本来の姿を呼び覚まして... そんなピリオドのイメージも、少し古くなりつつあるのか?マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによる、ベルリオーズのレクイエム(signum CLASSICS/SIGCD 280)は、その規模に驚かされた。そもそも規模のデカい作品ではあるのだけれど、それをピリオドでやり切るとは... そのマクリーシュが、ベルリオーズのレクイエムに続いて、メンデルスゾーンの『エリヤ』を取り上げる。やはり、特大規模で...
かつては、OVPP(One Voice Per Part)、1パート1人という最もタイトな規模で、バッハのマタイ受難曲(ARCHIV/474200)に挑み、話題を呼んだマクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズだが、100人を越えるオーケストラを編成して、コーラスは、自前のガブリエリ・コンソートに、さらに2つのコーラス、3つのユース・コーラスも加えて、300人を越える大合唱!まったく、ミニマムからマキシマムへ、その振れ幅の大きさにクラクラしてしまう。というより、ピリオドの特殊性を考えれば、大丈夫なのかと心配になるのだけれど、マクリーシュとしては、ベルリオーズ同様、『エリヤ』が初演された1846年に立ち返るという、極めてシンプルなピリオドのロジックで作品と向き合ったに過ぎないのだろう。規模こそ気合入りまくりの一方で、そこから繰り出される音楽というのは、不思議と肩の力が抜けていて、思い掛けなくナチュラル。もはや指揮者の思惑が入り込めない状況(小回りの利かない特大さ!)を作ってしまい、素直にスコア上を転がってゆくような感覚?それでいて、本来、転がすのも難しいほどの特大規模が、一度、転がり始めると、どんどん勢いを増して転がり。圧巻なのがコーラス!
やっぱり、オラトリオの聴かせどころはコーラスか... それを300人で歌い上げるのだから、凄い。もちろん、300人ともなれば、精密な室内合唱のようにはいかない部分もある。が、300人を活かし切るマクリーシュ。ディティールではない、音楽の大きな流れをしっかりと捉えて生まれる荘重さ、何よりもその数で押し出される圧倒的なパワー!数が生む本物の迫力は凄いなと、つくづく思い知らされる。一方で、気付かされるのが、その数に振り回されることなく、きっちりとドラマが紡ぎ出されるようになっているメンデルスゾーンのスコア!けして、茫洋としたドラマが展開されるのではない、巧みにその数を誘導する展開があって、改めてメンデルスゾーンの仕事ぶりに感服させられたり。そうしたメンデルスゾーンのスコアを信じ切って、一歩引いたところからきっちりと特大を制御するマクリーシュ。その作為の無さが、かえって作品を浮かび上がらせて、聴き応えのあるものに...
そこに、活き活きとした表情をもたらすソリスト陣も欠かせない。やわらかなジョシュアのソプラノ、艶やかなコノリーのメッゾ・ソプラノ、明るくロマンティックでもあるマーレイのテノール、いつもながら深く雄弁なキーンリーサイドのバリトンと、ベテランを取り揃えての、手堅くも、ベテランなればこその情感に溢れる数々のナンバーには聴き惚れてしまう。迫力のコーラスに埋没することなく、朗々とエリヤの物語を歌い綴る彼らの姿は、メンデルスゾーンが描くスケールの大きい古代世界の情景の中で、のびのびとしていて、とても気持ちのいいもの。そんなソリスト陣の魅力も、マクリーシュの『エリヤ』にとってとても大きいものとなっている。
しかし、やっぱりマクリーシュだ... その無理の無い素直な展開... だからこその感動があって。規模、云々を越えたピリオドの新次元に、感服させられる。

McCREESH ● Mendelssohn 1846

メンデルスゾーン : オラトリオ 『エリヤ』 〔英語版〕

ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
サラ・コノリー(メッゾ・ソプラノ)
ロバート・マーレイ(テノール)
サイモン・キーンリーサイド(バリトン)
ジョンティ・ワード(ボーイ・ソプラノ)
ウィリアム・ホワイトヘッド(オルガン)
ヴロツラフ・フィルハーモニー合唱団、チータム室内合唱団
ノース・イースト・ユース合唱団、タプロー・ユース合唱団、アルスター・ユース室内合唱団
ポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート & プレイヤーズ

signum CLASSICS/SIGCD 300




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