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ヴァインベルク。ソヴィエトの音楽の洗練。 [2012]

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結構、行き当たりばったり(あるいは、お財布の都合... )で、何を取り上げるかを決めているのだけれど、ここのところは、近現代モノが続く。ま、そうしたあたりが「好き」ということも大きいのだけれど。一方で、2012年のクラシックは、20世紀前半、「近代音楽」の頃がおもしろい気がする。何かと興味深いリリースが多い気がする。例えば、ショスタコーヴィチの影にすっぽりと隠れてしまったソヴィエトのもうひとりの作曲家、ヴァインベルク... かなりマニアックではあるのだけれど。よって、けして目立つものではないけれど。静かに、それでいて着実に盛り上がっているヴァインベルク・ルネサンス... いや、それだけの魅力があるヴァインベルク!
ということで、CHANDOSのヴァインベルク担当(?)、トルド・スヴェドルンドの指揮、イェーテボリ交響楽団による、ヴァインベルクの20番の交響曲と、クレース・グンナルソン(チェロ)をソロに迎えての、チェロ協奏曲(CHANDOS/CHSA 5107)を聴く。

モイセイ・ヴァインベルク(1919-96)。
漠然とソヴィエトの作曲家というイメージがあったのだけれど、ワルシャワ生まれのユダヤ系ポーランド人... ワルシャワ音楽院で学び、ちょうど第二次世界大戦が始まる1939年に卒業。ナチスのポーランド侵攻により、ソヴィエトへ亡命。ソヴィエトで作曲家としての活動を始め、まもなくショスタコーヴィチ(1906-75)に見出され、その影響を受けつつ、ユダヤ人としての民俗性、ソヴィエトが抱える多様な民俗性、ロシア伝統のロマンティックさを巧みに織り成して、ソヴィエトならではのサウンドを響かせる。その作品は、ショスタコーヴィチの時代のソヴィエトを知る、ショスタコーヴィチではない貴重な作品であり、また、ショスタコーヴィチとは一味違う洗練を感じさせ、ショスタコーヴィチばかりでないソヴィエトの音楽の魅力をたっぷりと聴かせてくれる。
というヴァインベルクを、ヴァインベルクのスペシャリストとも言えるスヴェドルンドの指揮、イェーテボリ響の演奏で聴くのだけれど... まずは前半、20番の交響曲(track.1-5)。ヴァインベルクの番号付きの交響曲、最後の作品。にしても、"20"!ショスタコーヴィチの"15"越えにまず驚かされるのだけれど、最後だけあって、集大成といった重みがドンと腹に響いてくるような作品。で、ショスタコーヴィチを思わせる荘重で沈痛な1楽章に始まり、とにかく重い。が、沈痛な中にも透明感を感じさせる美しいハーモニーも浮かび上がり、重くありつつ、もうひとつ違う表情を加えて。清らかさと、重さとが重なり、独特のヴィヴィットなサウンドを紡ぎ出す。かと思うと、4楽章(track.4)、力強く叩かれるティンパニのリズムに乗ってブラスが歌い、シンプルでバーバリスティックなあたりが大いに盛り上がって、パワフル!ダークに荒ぶる様は、ショスタコーヴィチに負けていない... そして、終楽章、ラメント(track.5)では、まさにオーケストラが悲歌を歌い、じわじわと感動を呼び起こす展開が印象的。
それにしても、この作品が1988年の作品だという事実に驚かされる。西側では、もはや「前衛」が息切れをして、「ポスト・モダン」なんて当たり前のように言われていた頃に、まったく異なるベクトルで音楽が生み出されていたことに、軽い衝撃を覚える。いや、それだけソヴィエトが閉ざされていたことを象徴しているわけだけれど... しかし、完全にソヴィエトが歴史となった21世紀、その閉ざされてこそ生まれ得たソヴィエトのスタイルというものが、やたらヴィヴィットに響いておもしろい。何より、ヴァインベルクの交響曲に、ショスタコーヴィチひとりが突出していたのではない、スタイルとしての「ソヴィエト」の、独特な魅力というものを再発見する思い。
さて、後半... グンナルソン(チェロ)のソロによるチェロ協奏曲(track.6-9)。20番の交響曲が重かった分、重みから解放されてのメロディックなコンチェルトに、まず一息つく。とは言っても、うら寂しい旋律をチェロが歌い始まるその音楽は、雪に覆われた寒々としたロシアの厳しさを歌うようで、その仄暗さが何とも言えない心地に... 続く2楽章(track.7)は、クレズマー風のキャッチーさが、パぁっと色を散らして... とは言っても、やっぱりうら寂しいのだけれど... 色彩は豊かでも、仄暗いシャガールの画面のような、そんな感覚?しかし、ユダヤならではのトーンというのは、心を惹きつける。この人懐っこさは、ちょっとヤミツキ。一転、3楽章(track.8)は、しっかりと弾けて、終楽章(track.9)は、明るく楽しげで... 重苦しい冬から、一斉に生命が蘇る力強い春へ、季節のうつろいを綴るようなチェロ協奏曲は、チェロの歌に彩られて、魅力的。また、グンナルソンのチェロがよく歌い... うら寂しさから、踊るように楽しげなあたりまで、表情が豊かで、作品をより引き立てる。
そして、スヴェドルンドの指揮、イェーテボリ響の見事な演奏!スヴェドルンドは、イェーテボリ響をよく鳴らし、イェーテボリ響は、きっちりとヴァインベルクの音楽を構築してゆく。彼らの生み出すパワフルにしてクリアなサウンドは、ヴァインベルクのソヴィエト流の洗練を際立たせ、ショスタコーヴィチの影響ばかりでない、そこから一歩進んだ音楽性をしっかりと響かせる。鬱屈としていながら、表情豊かな、その独特の音楽を、スケールも大きく、鮮やかに繰り広げて、見事。

WEINBERG: CELLO CONCERTO/SYMPHONY NO. 20

ヴァインベルグ : 交響曲 第20番 Op.150
ヴァインベルグ : チェロ協奏曲ハ短調 Op.43 *

クレース・グンナルソン(チェロ) *
トルド・スヴェドルンド/エーテボリ交響楽団

CHANDOS/CHSA 5107




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コメント 2

木曽のあばら屋

こんにちは。
ヴァインベルクいいですよね!
私もショスタコーヴィチ関連ということで聴きはじめたのですが、
いまではむしろヴァインベルクのほうにはまってしまいました。

第20番、荘重な傑作ですね。
チェロ協奏曲は、これが確か4番目の録音、
20世紀チェロ協奏曲の隠れた人気作です。
by 木曽のあばら屋 (2012-09-18 22:54) 

genepro6109

こんにちは、
コメントありがとうございます!

さて、ヴァインベルク。ホント、いいです!俄然、魅了されまくってます。
20番、初めて聴きましたが、じわじわと感動が湧き起こる感覚が好きです。いや、はまりますよ。わかります。
そして、チェロ協奏曲は4度目の録音なのですか?!
隠れた人気作も、隠さず人気作になる日も近いかな?なんて、希望を込めて...

しかし、こういう発掘というか、再発見というか、クラシックもまだまだ新鮮に聴けるおもしろさがある!なんて、近頃のヴァインベルク・ルネサンスに刺激を受けております。



by genepro6109 (2012-09-19 02:36) 

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