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ウィーン、闇鍋、HK グルーバー、 [2006]

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メシアンの極めてシリアスでミステリアスな作品を聴いた後で、ブレイク!
現代音楽の変なおじさん、HKグルーバー、ハインツ・カール・クルーバー(b.1943)。音楽の都、ウィーンに生まれたからこそ?まともに音楽と向き合えなくなったか?というくらい、ふざけた音楽を聴かせてくれる存在は、実はかなり貴重... アカデミズムが管を撒き、「難解」の一言で説明(いや、説明にはなっていない!)されてしまう"ゲンダイオンガク"には、HKグルーバー級のふざけた姿勢がなくては、現状は、もはや、突破できないのかもしれない。なんて、堅苦しく考えることもなく、単純にヘンテコでおもしろいHKグルーバー作品を素直に楽しむ。
2006年にリリースされた、近現代音楽のスペシャリスト、ヤルヴィ家の末息子、クリスチャン・ヤルヴィと、彼が率いたトーンキュンストラー管弦楽団の演奏に、HKグルーバー自身が歌ってしまう"ZEITSTIMMUNG"(BIS/BIS SACD 1681)を聴き直す。

またしょうもない音楽で、とっちらかっているのだろう... なんて思いながら聴き始めて、ちょっと驚かされた、様になっている音楽。いや、雰囲気すらあって、思い掛けなく魅了されてしまった"ZEITSTIMMUNG"。気鋭の若手パーカッショニスト、グルビンガーが冴えたパフォーンスを繰り広げる、パーカッションとオーケストラのための協奏曲「ラフ・ミュージック」(track.1-3)に、HKグルーバーがシャンソニエとして例の如く歌いまくる、アルバムのタイトルにもなっている"ZEITSTIMMUNG(時勢)"(track.4-16)。HKグルーバー作品としては、定番になりつつある?ヨハン・シュトラウス2世の無窮動(track.17)のエンドレスなあたりを巧く引き継いで、盛りだくさんな展開で大いに盛り上げてしまうシャリヴァリ(track.18)と、鬼才、HKグルーバーを知るには過不足の無い構成。それを、近現代音楽に優れたセンスを発揮するクリスチャン・ヤルヴィのスマートな指揮が、思い掛けなく充実したものとして響かせて... キワモノとして聴いていたはずが、予想外に聴き入ってしまう凄い1枚。そして、今、改めて聴き直すのだけれど、何だかもっと凄く感じてしまう"ZEITSTIMMUNG"。
それは、演奏!かのHKグルーバーの作品を、こんなにも上質な音楽として、たっぷりと聴かせることができたソリスト(歌い手さんも含めて... )、指揮者、オーケストラのテクニックと音楽性が凄いのかも... まず、1曲目、「ラフ・ミュージック」(track.1-3)のグルビンガー!イメージが溢れ返るHKグルーバーの音楽世界を、見事なテクニックで、風を切るが如く颯爽と叩き、3楽章構成のしっかりとしたヴォリュームを誇るコンチェルトを一気に走り抜ける。そのスタイリッシュで鮮やかなこと!オヤジ・ギャグが管を巻くようなテイストのはずも、現代っ子ならではのクールさで走り抜ければ、作品がただならずカッコよくなってしまうというおもしろさ... HKグルーバーはこんなにもカッコよくていいのか?ってくらいに... 続く、"ZEITSTIMMUNG"(track.4-16)では、希代のシャンソニエっぷりを聴かせるHKグルーバー自身も驚くべき存在感を放つ。1920年代のベルリンのカバレットの匂いだろうか?表情豊かに、独特の雰囲気を纏い、とめどもなく溢れるドイツ語の粋なあたり... これまた40分弱の大作だが、HKグルーバーの与太話に付き合わされるているようでいて、巧く煙に巻かれているのか飽きさせない。
そして、ほとんど闇鍋状態のスコアと真摯に向き合い、丁寧に音としてゆくトーンキュンストラー管の生真面目さ、何が出てくるかわからない闇鍋の、出てきたもの全てに応え得る器用さが、作品を思い掛けなく瑞々しいものとし、単なるキテレツではない魅力を見事にすくい上げる。そんなトーンキュンストラー管のがんばりを、見事にドライヴし、洗練されたものへと導くクリスチャンの的確かつ無駄の無いスマートな指揮ぶり!さすがは近現代音楽のスペシャリスト... 一方で、彼の明晰さなればこそ、洗練され過ぎなのでは?という節もなくはないのだけれど。いや「洗練されたHKグルーバー」に異化効果を見出すのかクリスチャン?キテレツが洗練されてしまって、またキッチュ... そんな印象もあり、それがまたHKグルーバーの遊びを盛り上げるのか?で、遊びつつも、つい聴き入ってしまう見事な演奏であって... 何だか、狐につままれたような気分。何とも奇妙な心地に...
しかし、こんな心地にさせられる作品が他にあるだろうか?と思うと、HKグルーバーは希代の作曲家に思えてくる。それでいて、クリスチャン+トーンキュンストラー管の洗練された演奏で改めて聴けば、より大きな視点で見つめ直す機会にもなり... HKグルーバーの、この闇鍋感、もしやマーラーの系譜?この錯綜したイメージのまとまり切らなさは、かつての超多民族国家、ハプスブルク帝国の首都、ウィーンそのものか?最後に取り上げられるヨハン・シュトラウス2世の無窮動(track.17)と、切れ目なく続けられるHKグルーバーによるシャリヴァリ(track.18)を聴いていると、その独特な音楽世界に「ウィーン」の存在(ウィーンの鐘が派手に鳴らされて... 最後にウィーンを舞台とした『ばらの騎士』の破片が響く?)を意識させられる。さらには、マーラーが悪戦苦闘し異端の交響曲を生み、HKグルーバーをも生んだことになるウィーン特有の気質... 闇鍋?と、これまでにないイメージが膨らむ。そうして、ちょっと腑に落ちるところもある。

HK Gruber ・ Zeitstimmung

HKグルーバー : ラフ・ミュージック 〔パーカッションとオーケストラのための協奏曲〕 *
HKグルーバー : Zeitstimmung 〔シャンソニエとオーケストラのための〕 *
ヨハン・シュトラウス2世 : 無窮動 Op.257
HKグルーバー : シャリヴァリ

マーティン・グルビンガー(パーカッション) *
HK.グルーバー(シャンソニエ) *
クリスチャン・ヤルヴィ/トーンキュンストラー管弦楽団

BIS/BIS SACD 1681




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