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われら死者の復活を待ち望む。 [2012]

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新しいシーズンが始まる... そして、新しい体制も始まるわけだ...
ジュン・メルクルに率いられ、おもしろいポジションを築いたリヨン国立管。ドイツ出身のマエストロと、パリではないフランスのオーケストラのコラヴォレーションは、透明感を湛えつつ独特のトーンを生み出し、その新しい感覚に魅了されずいられなかった。が、このコラヴォレーションも昨シーズンまで。リヨン国立管は、スラトキンと新たなシーズンを始めることに... もちろん、スラトキンはスラトキンで、また魅力的な演奏を聴かせてくれるだろうけれど、メルクルとの演奏を、もう少し聴いてみたかった... リヨンの政治が発端の交替だっただけに、余計に感じてしまう。何より、メルクル+リヨン国立管の最後のアルバムとなったメシアンの充実ぶりを聴けば、残念でならない。
という、ジュン・メルクルと、彼が率いたリヨン国立管弦楽団による2枚目のメシアン、「われら死者たちの復活を待ち望む」、他、2作品(NAXOS/8.572714)を聴く。

メルクル+リヨン国立管というと、やっぱりドビュッシーのシリーズ。フランスの印象主義に新しい感覚を吹き込んで、特に『海』(NAXOS/8.570759)など、独特のクリアさで斬新だった。また、ラヴェルの『ダフニスとクロエ』(NAXOS/8.570992)では、印象主義の漠然としたイメージを裏切る、濃密で躍動するシアトリカルな音楽を繰り広げ、おもしろかった。そして、メルクル+リヨン国立管で忘れられないのが、シュヴァネヴィルムス(ソプラノ)が歌う『ミのための詩』をメインにしたメシアン (NAXOS/8.572174)!エキセントリックなイメージの強いメシアンに、古典の風格を纏わせて、瑞々しくも落ち着いたサウンドが、深く印象に残る... となると、期待が募る、彼らの2枚目のメシアン。「われら死者の復活を待ち望む」(track.1-5)をメインに、「輝ける墓」(track.6)、「聖体秘蹟への讃歌」(track.7)の3曲が取り上げられるのだが...
まず、1曲目、「われら死者の復活を待ち望む」(1964)が、ただならない。アンドレ・マルローの委嘱による、第二次世界大戦の犠牲者を悼む作品は、聖書から引用されたタイトルを持つ5曲からなる、歌のないある種のレクイエム。が、メシアンならではのカトリック神秘主義が炸裂して、とにかく異様... 木管と金管による重々しいサウンドに、ゴングやタムタムといったパーカッションが加わり、ガムランを思わせるエキゾティックさが漂い、さらには、鳥のさえずりを木管が歌って、まさに典型的なメシアン・ワールド。"カトリック"、"アジア"、"鳥"と、メシアンならではのカクテルで、他にはないブっ飛んだ音楽を繰り広げる。そんな作品を、メルクルは、重いテンポで、じっくりと鳴らす。地の底から鳴り響くようなその佇まいは、ヨーロッパ文明の最も深いところに眠る、太古の巨石文明の秘儀を蘇らせるかのよう。近代音楽において、希有な個性を発揮したメシアンだが、メルクル+リヨン国立管は、鳥やら、ガムラン風やらの、その個性に足を取られることなく、どっしりと構えて、一音一音を丁寧に、着実に鳴り響かせ、ただひたすらに落ち着いた音楽運びで、聴く者を呑み込んでゆく。下手に手を施すではなく、またメシアンにすら捉われないどこか突き放したスタンスが、作品の持つ本当の凄さ、ただならなさを解き放ち。それは、間違いなくメシアンでありながらも、ひとりの作曲家の創造を越えて、より大きなインパクトを生み、圧巻。
そんなメシアンを聴いた後での、1930年代の若きメシアンの作品、「輝ける墓」(1931)、「聖体秘蹟への讃歌」(1932)は、良い意味で、その保守性が際立っていて、思い掛けなくクラシカルな感覚が新鮮!いや、ここでも、メルクル+リヨン国立管のメシアンへのスタンスは変わらないのか、彼らのニュートラルな姿勢が、作品そのものを素直に響かせて。ジョリヴェらと"若きフランス"を結成(1936)し、新奇な近代音楽のあり様に疑問を呈し、新たな芸術音楽を模索した生真面目さ、若さゆえの頑なさというのか、そうしたものがポジティヴに描き出され。それは、ストラヴィンスキー... あるいは、そうしたロシア・アヴァンギャルドを遡って、ムソルグスキーあたりの、多少、グロテスクで、色鮮やかなおとぎの世界に迷い込んだような感覚になるからおもしろい。というより、もはやメシアンも古典なのだなと、感慨深いものがある。いや、古典になってこそ、初めて作品に向き合えた気さえして来る。そうした聴き応えに、メルクル+リヨン国立管の充実ぶりを感じずにいられない。
メルクルならではの指向と、それに卒なく応えるリヨン国立管の瑞々しさ。やっぱり、彼らが紡ぎ出す音楽というのは、素敵だ。だからこそ、メルクルがリヨンを去ったことが残念でならない... そして、ドビュッシーに続いて、メシアンもまたシリーズ化できたならば、ドビュッシー以上の収穫となったように思えて... それだけの聴き応えが、このアルバムには間違いなくあった。

MESSIAEN: Et exspecto resurrectionem mortuorum

メシアン : われら死者の復活を待ち望む
メシアン : 輝ける墓
メシアン : 聖体秘蹟への讃歌

ジュン・メルクル/リヨン国立管弦楽団

NAXOS/8.572714




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