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音楽ソヴィエト史。 [2012]

さて、夏休みも終わり、2012年度も後半戦、世界経済もヴァカンスから目覚めて、再び浮かび上がるのが、ユーロ危機。で、スペインの銀行、バンキアに大規模資金注入... というニュースを見ていてふと思い出す。バンキアの熊のマーク、どこかで見たぞと... そーだ、イル・フォンダメントによる、知られざる「スペインのモーツァルト」、アリアーガを発掘する2タイトルに付いていた!時折、取り上げられる、交響曲(FUGA LIBERA/FUG 522)ならともかく、マニアックな声楽作品集(FUGA LIBERA/FUG 515)なんて、スポンサーがいなければ、リリースできないシロモノだったか... ニュースで、バンキアの熊のマークを見て、いろいろ考えてしまう。ユーロ危機のクラシックの影響。いや、すでに、クラシックのリリースは、かなり減って来ているように感じるのだけれど...
そんな景気の悪いユーロ圏の一方で、香港拠点のNAXOSの充実が、近頃、凄い。徹底してクラシックを網羅する廉価盤、というイメージから、メジャー・レーベルにも負けないクウォリティで、メジャー・レーベル級のプロジェクトを次々に繰り広げ、21世紀のクラシックにとっては頼もしい限り。そんなNAXOSからの、新たに始まったプロコフィエフのシリーズと、好調なショスタコーヴィチのシリーズを取り上げる。
マリン・オルソップと、彼女が首席指揮者に就任したばかりのサン・パウロ州立交響楽団による、プロコフィエフの交響曲のシリーズ、第1弾、5番(NAXOS/8.573029)。ヴァシリー・ペトレンコと、彼が率いるロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニック管弦楽団による、ショスタコーヴィチの交響曲のシリーズ、第7弾、2番、「十月革命に捧ぐ」と、15番(NAXOS/8.572708)を聴く。


ブラジル発、いともカラフルなる、オルソップのプロコフィエフ!

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サン・パウロ州立響というと、前々首席指揮者、ネシュリングとの、ブラジルならではの数々のアルバムが注目され、広いクラシックの世界にあって、おもしろいポジションを獲得しつつあった。が、ネシュリングはポストを解任(2008)されてしまい、ガックリ... それから4年、今や世界が注目するマエストラ、オルソップが首席指揮者に就任。ちょっと意外な組み合わせに驚かされつつも、また何かおもしろいことになる?そんな期待を抱きたくなる新コンビ。早速、プロコフィエフの交響曲のシリーズがスタート!
その第1弾は、ソヴィエトへ帰ったプロコフィエフが、第2次世界大戦中に作曲した交響的組曲『1941年』(track.1-3)と、5番の交響曲(track.4-7)。ナチスに攻め込まれ危機的状況下での『1941年』と、ナチスが敗走を始め勝利が見えて来た頃の5番の交響曲(1944)。ということで、ちょっとした第2次世界大戦史の雰囲気も... そういう括りで聴くプロコフィエフというのが、また新鮮ではあるのだけれど、オルソップ+サン・パウロ州立響によるプロコフィエフは、そうした近代の陰惨な歴史のヘヴィーな面に囚われない。オルソップは、彼女ならではのクリアかつ、まったく気負わないスタンスで、さっくりと作品を捉えて。そうして際立つ、かつてパリを沸かせたロシア・アヴァンギャルドのアンファン・テリヴルのカラフルさ!そのカラフルさに、奇妙な楽観主義が漂って、社会主義リアリズムの軽さのようなものが強調されるのか... ソヴィエトは消滅し、プロパガンダとしての性格が完全に失われた21世紀、そういうトーンで改めてプロコフィエフを聴くと、得も言えずポップ!特に、重戦車が進軍してゆくような5番の交響曲のステレオタイプなイメージは、カラフルさでまた一味違ったものに... 随所に散りばめられていた、どことなしにユーモラスなフレーズは浮かび上がり、それらがスパイスとなって、作品全体をグロテスクなダーク・ファンタジーのように響かせてしまうおもしろさ。特に、終楽章(track.7)の、パーカッションが飄々とリズムを刻みつつ熱狂するフィナーレ。愉快かつカタルシスを味わう不思議感。オルソップならではのセンスが、プロコフィエフの最も有名な交響曲を、奇妙で楽しいものに変身させてしまう。
そんなオルソップのセンスは、また、サン・パウロ州立響のカラフルさを活かすものであって... 新首席指揮者の求めるクリアさにきちっと応えつつ、それぞれのメンバーが朗らかに音符を捉え、そこから生まれる独特のカラフルさが印象に残るサン・パウロ州立響。オルソップに率いられることで、オーケストラの性格がよりポジティヴに引き出され、そうして紡がれるサウンドのヴィヴィットさは、魅了されるばかり。そんなサウンドによる、南米からのロシア・アヴァンギャルド、社会主義リアリズムというのが、思い掛けなく刺激的だったり。そして、第2弾はどうなるのか?今から楽しみでならない!

PROKOFIEV: Symphony No. 5

プロコフィエフ : 交響的組曲 『1941年』 Op. 90
プロコフィエフ : 交響曲 第5番 変ロ長調 Op. 100

マリン・オルソップ/サン・パウロ交響楽団

NAXOS/8.573029




21世紀から見つめる、ヘヴィーなヴァシリーのショスタコーヴィチ。

8572708
ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲のシリーズも、とうとう第7弾... 最初は、随分と若いマエストロ(また、ヴァシリーが童顔なものだから... )に、大きな仕事を任せたものだと思ったけれど、NAXOSの目の付けどころは確かだった!シリーズはリリースを重ねるごとに、想像以上の充実した演奏と、新しいショスタコーヴィチ像を切り拓き、評価は高まるばかり... 今やヴァシリーは大ブレイク!メジャー・レーベルからもデビューするに至り、次世代マエストロとして、大いに期待される存在になったわけだが、やっぱりヴァシリーのベースは、ショスタコーヴィチの交響曲のシリーズ。2番、「十月革命に捧ぐ」(track.1-3)と、15番(track.4-7)を取り上げる第7弾もまた、すばらしい仕上がりを聴かせてくれる。
その1曲目、「社会主義リアリズム」という名の検閲が始まる以前、アヴァンギャルドなショスタコーヴィチがインパクトを生む2番、「十月革命に捧ぐ」。これまでのヴァシリーによるショスタコーヴィチ像というのは、現代っ子感覚で、ステレオタイプをばっさりと斬り捨てて、歴史や背景に縛られることなく、ショスタコーヴィチの音楽を、ただ音楽として見つめる姿勢が新しいショスタコーヴィチ像を切り拓いて、驚かされ魅了されたわけだが、この2番での聴き応えは、またちょっと違ったものに聴こえる。ステレオタイプに回帰するような感覚があるのか?十月革命(1917)という歴史をつぶさに見つめ、その重みを真摯に捉え、ヘヴィーな音楽を展開してみせる。とはいえ、これまで通りのクリアさをロイヤル・リヴァプール・フィルに求め、そうして生まれる精緻さ、切れ味の鋭さは、これまで以上に極まってもいるのだけれど... 作品の性格なのだろうか?切り離せない歴史の重みを素直に受け入れて、ズシリと迫るものがある。下手に、作品を分かり易く聴き易いものにしようとしない、ヴァシリーの冷徹な姿勢に、このシリーズのさらなる深化を見る思い。このシリーズの挑戦は、まだまだ続いているのだなと、感服。
そんな2番、「十月革命に捧ぐ」の後で、ショスタコーヴィチの最後の交響曲、15番が、また独特の迫力を見せる... 迷いなく革命を賛美できた若きショスタコーヴィチの純真な音楽の後で、検閲下のギリギリの綱渡りを渡り切ったショスタコーヴィチの酸いも甘いも知り尽くした音楽の迫力。飄々として、白けたような展開と、そこから滲み出る人生の不可解さ、ままならなさ... ショスタコーヴィチが最後の交響曲にして辿り着いた境地を、若きマエストロは楚々と描き切って、得体の知れないドラマを綴ってしまう。30代の半ばを過ぎたばかりのヴァシリー(b.1976)だが、すでにショスタコーヴィチの真髄に共感できるのか?これまでの現代っ子感覚とは一味違う、達観した視点が興味深かった。いや、恐るべしヴァシリー・ペトレンコ...

SHOSTAKOVICH: Symphonies Nos. 2 and 15

ショスタコーヴィチ : 交響曲 第2番 ロ長調 Op.14 「十月革命に捧ぐ」 *
ショスタコーヴィチ : 交響曲 第15番 イ長調 Op.141

ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー合唱団 *

NAXOS/8.572708




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