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猿山より、ないしょの手紙... [2006]

さて、9月に入って、幾分、気温が下がった?
ふと空を見上げると、いつの間にやら天高く、流れてゆく雲も、どことなしに秋を思わせることも。けど、まだ暑い... 徐々に秋の気配は感じても、すっかり秋になるまでにはまだ遠い。蝉はまだ元気に鳴いてるし。なんてことを考えると、ドっと夏バテ感に襲われて、グダグダになりそうなので、ここで少し、ピリっとした音楽を聴くことに。キュっと締まったクァルテットで、デュオで、刺激的な近現代音楽を聴いて、シャキっとする。
2006年にリリースされた2タイトル... 今、若手がおもしろい"弦楽四重奏"にあって、ローカル性を個性に注目を集めるチェコ期待の次世代弦楽四重奏団、パヴェル・ハース四重奏団による、ヤナーチェクとハースの2番の弦楽四重奏曲(SUPRAPHON/SU 3877-2)。渋くも、若手では味わえない風格ある響きで魅了する、ドイツのベテラン、ヴァイオリニスト、フランク・ペーター・ツィンマーマン、オーストリアのベテラン、チェリスト、ハインリヒ・シフによる、バッハと近現代音楽を並べた意欲作、ヴァイオリンとチェロの二重奏曲集(ECM NEW SERIES/476 3150)の2タイトルを聴き直す。


鮮やかなるチェコ、驚くべきパヴェル・ハース四重奏団のデビュー...

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パヴェル・ハース四重奏団のデビュー・アルバムだった、ヤナーチェクとハースの2番の弦楽四重奏曲... あれから、6年、彼らの祖国、チェコの国民楽派、その名に冠したハースの作品を中心に、4タイトルをリリース。どのアルバムも高い評価を得て、今や確固たる地位を築いた観のあるパヴェル・ハース四重奏団。もはや「若手」とも言い難いようなところもある。そして、今、改めてデビュー・アルバムを振り返るのだけれど。最も印象に残るのは、やっぱりこのデビュー・アルバム。とにかく、全てが、驚くほどヴィヴィット!
1曲目、ヤナーチェクの2番の弦楽四重奏曲、「ないしょの手紙」(track.1-4)の、最初の一音から、衝撃的なほどに瑞々しいサウンドが溢れ出す。「弦楽四重奏」なんていうと、どうも通好みな渋いイメージが強いのだけれど、パヴェル・ハース四重奏団の若さが、「弦楽四重奏」を驚くほどスリリングなものとしていて。若いからこその、マキシマムに作品と向き合って生まれる、はち切れんばかりの色彩感、むせ返るようなブルーミンなサウンドに、クラクラしてしまうほど... そして、「ないしょの手紙」に籠められた、少し異様(38歳年下の若き人妻への、音楽によるストーキング?)にも思える作曲家の恋心のほとばしり... そのあたりが、演奏者たちの若さと見事に共鳴し、より際立つヤナーチェク独特の音楽世界。マーラー(1860-1911)と同世代であるヤナーチェク(1854-1928)だが、その音楽は、まったく独自の道を歩んで、ずっと先を捉えていたのか。ドイツ―オーストリアのすぐ傍にあって、チェコのローカル性のただならない個性に、今さらながらに感心し、魅了されずにいられない。
2曲目、そのヤナーチェクの下で学んだハース(1899-1944)の、2番の弦楽四重奏曲、「猿山にて」(track.5-8)は、終楽章で、パーカッションが加わってしまうという異形の作品。で、これがおもしろい!ユダヤ系であったがために、ホロコーストの犠牲となったハース。その作品は、ナチスにより「退廃芸術」の烙印を押されたわけだが、両大戦間の刺激的な音楽状況を反映する「退廃芸術」ならではの気分に充ち、その当時の最新モードたるジャズを大胆に取り入れつつ、チェコならではの色彩感に彩られて、また個性的な音楽を生み出している。何より、クラシックの辛気臭さから見事に逸脱して、カッコいい音楽を繰り広げる!圧巻は、パーカッションが加わる終楽章、ワイルド・ナイト(track.8)。斬新で、刺激的で、ロックな感覚すらあったりで、ゾクゾクさせられ... いや、こういう作品が活きるのもパヴェル・ハース四重奏団の若さなればこそ。コリン・カリーのパーカッションも冴えて、スリリング!こんなにも、インパクトのある室内楽は、なかなか他には無い。かも。

Janáček: "Intimate Letters", Haas: String Quartet No. 2 | Pavel Haas Quartet

ヤナーチェク : 弦楽四重奏曲 第2番 「ないしょの手紙」
ハース : 弦楽四重奏曲 第2番 「猿山より」 〔パーカッション付き〕 *

パヴェル・ハース四重奏団
ヴェロニカ・ヤルツコヴァ(ヴァイオリン)
カテリナ・ゲムトロヴァ(ヴァイオリン)
パヴェル・ニクル(ヴィオラ)
ペテル・ヤルシェク(チェロ)

コリン・カリー(パーカッション) *

SUPRAPHON/SU 3877-2




摩訶不思議なカレイドスコープ。ツィンマーマン、シフの二重奏曲集。

4763150
ヴァイオリンとピアノ... チェロとピアノ... ならば、いくらでもある。けど、ヴァイオリンとチェロという組合せは、なかなか無い。となると、どんな感じだろうか?そもそも、作品があるのだろうか?と、いろいろ興味を掻き立てられるアルバム、フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)と、ハインリヒ・シフ(チェロ)によるヴァイオリンとチェロによる二重奏曲集。実際に聴いてみると、地味?それでいて、何となく掴みどころが無いような(聴く側の器量の問題もあって、掴み切れなかった... )、そんな印象があった。が、久々に引っ張り出して来て、改めて聴き直してみると、不思議な魅力があるのだなと、聴き入ってしまう。
まず、取り上げられる作品の個性的。オネゲルの6番のソナチネ(track.1-3)、マルティヌーの1番の二重奏曲(track.4, 5)と、パリの擬古典主義を彩った作曲家による華やかな作品が並び、最後はラヴェルによる名作、ヴァイオリンとチェロのためのソナタ(track.9-12)。そこに、まさしく"ゲンダイオンガク"なピンチャーの作品(track.7)が挿まって... さらには、その前後にバッハの『フーガの技法』から2つのカノン(track.6, 8)と、その狙いが掴み切れない独特な配置。フランスのポップな近代音楽に、古今ドイツの厳しい音楽が対峙し、摩訶不思議なカレスドスコープを繰り広げる。そして、その摩訶不思議さを聴き込んでみると、フランスとドイツがそれぞれに作用し合い、異化効果を生み出すのか?オネゲルやマルティヌーからは、彼らが活躍したパリの洒落た気分に流されない、ドイツ流の確固たる音楽を見出し、バッハ、ピンチャー、バッハの後で聴くラヴェルでは、思い掛けなくガツンと来る聴き応えに、フランス離れした構築性を見出し、少し驚いてみたり。一方、ピンチャーの特殊奏法には、フランスの印象主義的な曖昧模糊とした雰囲気を感じ、このアルバムに独特のピークを作り出す。
それにしても、空を掴んで、形を成し得てしまうような、フランク・ペーター・ツィンマーマン、ハインリヒ・シフの音楽性に感服。その一言である。音楽と長年向き合い、それがどういうものか、思索を続けて来たベテランだからこそ得られた霊感で、作品、ひとつひとつをつなぎ、何気なく聴く者には摩訶不思議に映るものを、魔法を掛けるかのように1枚にまとめてしまう力量。フランク・ペーター・ツィンマーマンの、揺るぎない存在感、限りなくクリアな美音。ハインリヒ・シフの、ヴァイオリンに融けてしまうように寄り添う存在感、渋く深い音色。二重奏にして、ひとつの楽器のように呼吸を重ね、そこから、弦楽コンソートのような広がりを生み出すただならない音楽性は、本物の音楽のあり様を知らしめてくれるのか。恐いくらいのオーラを放っている。

FRANK PETER ZIMMERMANN / HEINRICH SCHIFF
HONEGGER / MARTINŮ / BACH / PINTSCHER / RAVEL


オネゲル : ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ 第6番
マルティヌー : ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 第1番 H.157
バッハ : 『フーガの技法』 より 12度のカノン
ピンチャー : "treatise on the veil" のための スタディ I
バッハ : 『フーガの技法』 より オクターヴのカノン
ラヴェル : ヴァイオリンとチェロのためのソナタ

フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)
ハインリヒ・シフ(チェロ)

ECM NEW SERIES/476 3150




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