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ハンガリーの近代とバロック。 [2012]

いやぁー、オリンピックもいろいろあるものですね。
4年間の努力と、強い思いと、さらには、それらを取り巻く思惑もあって、オリンピックで沸点を迎える。良くも悪くもあらゆる点でパワーが漲っている!一部、「無気力」もあったようですが... 連日、そのパワーを目の当たりにしていると、さすがに疲れてくる?ということで、気分転換。ヴェネツィアでのヴァカンスから、ハンガリーで夏休み?ハンガリーの土に根差したパワフルな音楽を聴いてみようかなと。
ということで、マリン・オルソップ率いる、ボルティモア交響楽団の演奏で、民俗音楽研究家、バルトークの代表作、管弦楽のための協奏曲と弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽(NAXOS/8.572486)。それから、トーマス・ヴィンマー率いる、古楽アンサンブル、アクセントゥス・アウストリアによる、民俗音楽を大胆に取り入れて、バロック期のハンガリーの音楽風景を鮮やかに描き出す興味深いアルバム、"Serenata Hungarica"(deutsche harmonia mundi/88697911052)を聴く。


素朴で、深い、ハンガリー性... オルソップのバルトーク。

8572486.jpg
バルトークの代表作、管弦楽のための協奏曲と、弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽。改めて聴くまでもないように思いつつも、オルソップならばどんな感じだろう?というより、おもしろいはず... 彼女の『青髭公の城』はおもしろかった... なんて、いろいろ考えてしまうのが、クラヲタの悲しい性か... なんて、少しひねつつ、再生ボタンを押した、オルソップ+ボルティモア響のバルトーク。やっぱりおもしろい... おもしろいというより、何だろう?また一味違う感触?管弦楽のための協奏曲(track.1-5)、1楽章の、ハンガリー平原を包む霧のような序奏から、何か土の臭いがしてきそうで、その雰囲気たっぷりなサウンドに魅了されてしまう。
管弦楽のための協奏曲という作品は、モダン・オーケストラを象徴するような存在に感じる。大きな規模で、オーケストラ・メンバー、ひとりひとりのポテンシャルが試される、オーケストラというものを味わい尽くす作品。が、オルソップは、オーケストラのメンバーを駆って、派手に盛り上げることをしない。全体をストイックに響かせて、一回り小さい音楽のように仕上げる。それは、不思議と力が抜けて、軽い。もちろん、クリア。バルトークが用意した様々な仕掛けも、飄々となぞり、どこか冷めてさえいる。が、何とも言えない仄暗さが漂う。すると、近代音楽の良くも悪くもあるヘヴィーさは、さっと消え、バルトーク芸術の核たるハンガリーのフォークロワが、すーっと表面に浮かび上がってくる。それは、プリミティヴがのたくるのではない、プリミティヴがごく自然なものとして出現するような感覚。「クラシック」、「オーケストラ」という、ある種の贅沢さを超越した素朴さと、深さが、じわっと広がる。
この、独特のトーンを生み出すオルソップの音楽性に、改めて感心させられる。徹底してスコアを読み切って、しっかりと音を整理して、力むことなく、オーケストラを新たな次元へと導く... ボルティモア響も、きっちりとその次元に至って、揺るぎなく音を繰り出す。その淡々とした姿が、また職人気質にも思え、何かこう、渋い。これが、弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽(track.6-9)となると、丁々発止のスリリングさが出てきて、また魅力的。パーカッション、チェレスタ、さらにはピアノが活躍して、そのヴィヴィットな響きに、ガムランの影響が言われるわけだけれど、やっぱりバルトーク芸術というのは、ハンガリーの土に根差している... ということを強く印象付ける仕上がり。オルソップ+ボルティモア響は、バルトークのこのハンガリー性を、近代音楽に昇華されたものとしてではなく、バルトークの血肉として、切っても切れない普遍のものとして、音にする。その率直さに、見えてくる、アジア所以のハンガリーの感性に、共鳴してしまうのか。不思議な感触がある。

BARTÓK: Concerto for Orchestra

バルトーク : 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 Sz.106
バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 Sz.116

マリン・オルソップ/ボルティモア交響楽団

NAXOS/8.572486




バロック期、ハンガリーをごった煮!"Serenata Hungarica"。

88697911052
トランシルヴァニアのカイオーニ神父の写本をはじめとして、バロック期に採譜されたハンガリー王国各地のフォークロワな音楽と、ハンガリーを支配したハプスブルク家の2人の宮廷楽長、シュメルツァー(1623-80)、フックス(1660-1741)の作品を並べる意欲的なアルバム、"Serenata Hungarica(ハンガリー風セレナータ)"。ワールド・ミュージックへと踏み込んで、古楽の生々しい姿を掘り起こしてきた、ヴィンマー+アクセントゥス・アウストリアならではの1枚は、「ハンガリー」と一言では片づけられない、多様なテイストを盛り込み、刺激的。そもそも、ハンガリー自体が多様であったのだなと... ツィゴイネルワイゼンに象徴されるようなロマの音楽はもちろん、バルトークが収集したハンガリーのフォークロワな音楽、ハンガリーの周辺の国々の音楽... そもそもハンガリー自体が今よりも大きく、スロヴァキア、クロアチアまでを含み、ルーマニアの3分の1(トランシルヴァニア)もハンガリーであったわけで... さらに、バロック期においては、ハプスブルク家とオスマン・トルコがハンガリーの支配権をめぐって対峙していたこともあり、トルコ風も... ヴィンマー+アクセントゥス・アウストリアは、東ヨーロッパの十字路としてのハンガリーの姿をクローズアップし、極めて多彩なサウンドを繰り出してくる。
フックスのパルティータ(track.2)、シュメルツァーのバレッティ(track.3)と、折り目正しいバロックから、広大なハンガリーに踏み入って、艶やかに奏でられるロマ風のヴァイオリンが印象的な、シェプシセントジェルジの写本からの4つの舞曲(track.4)。フックスの派手にトルコ風なシンフォニア(track.6)がきて、ウードがまったりと奏でられる"Arazbar"(track.7)では、半音階の独特の優雅さがまさにトルコ。続く、カイオーニ写本からの5つのダンス(track.8)では、アラベスクにリズムが爆ぜ。最後は、ツィンバロンが見事に掻き鳴らされ、トランシルヴァニアの陽気なダンス(track.11)で盛り上がる!何より、ヨーロッパとオリエントのごった煮的なハンガリーの姿を再発見。そして、それら全てを事も無げにカヴァーしてしまうアクセントゥス・アウストリア!
ハンガリーというひとつの地に、かなりの幅のある盛りだくさんの音楽を、次から次へと展開するその勢いが凄い。そのあたり、これまでのアクセントゥス・アウストリアとは一味違うのか?豪快に鳴らし、その豪快なサウンドがまた、ハンガリーのごった煮感を際立たせていて、おもしろい。そうして生まれるテンションのただならなさ... 力強い一音一音は、腹に響くよう。

Serenata Hungarica

カイオーニ写本 より ポーランド舞踊
フックス : パルティータ K.329
シュメルツァー : バレッティ
シェプシセントジェルジの写本 より 4つの舞曲
カイオーニ写本 より "Dade Zingaricum"
フックス : シンフォニア ハ長調 「トルコ風」
トルコの古典音楽 : "Arazbar"
Anna Szirmay Keczer 写本 より 5つの舞曲
Janos Madach-Rimay 写本 より "Pongeset koboznak"
カイオーニ写本 より "O, mely csudalatos Isten"
カイオーニ写本 より トランシルヴァニア舞曲

トーマス・ヴィンマー/アクセントゥス・アウストリア

deutsche harmonia mundi/88697911052




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