SSブログ

リスト、エラール、マルティノフが見出す、瑞々しいベートーヴェン! [2012]

ZZT301.jpg12pf.gifRGS6.gif
あのベートーヴェンの交響曲を、ピアノで...
そういう意外性にとても惹かれるのだけれど、有名なリストによるピアノへのアレンジは、何となく苦手。最後の古典派としての端正さと、19世紀的剛健なサウンドを響かせるベートーヴェンの交響曲を、伝説のヴィルトゥオーゾ、リストの煌びやかさで捉えてしまうと、ゴージャス過ぎる?シンフォニックであることを、類い稀なるヴィルトゥオージティで見事にカヴァーしようという姿勢に、何か過剰な印象があった。が、そんなイメージを変えてくれる演奏... ロシア発の次なるピリオドの担い手、鍵盤楽器奏者、ユーリ・マルティノフによる、リストがベートーヴェンの交響曲をピアノのためにアレンジしていた頃、1837年製、エラールのピアノで聴く、リストによるベートーヴェンの「田園」と、2番の交響曲(Zig-Zag Territoires/ZZT 301)を聴く。

リストが愛用していたというエラールのピアノ... そのピアノでリストの作品(ここではリストによるアレンジになるわけだけれど... )を聴くということは、リスト自身の両手から繰り出されていた音に肉薄すねもので、いつものモダンのピアノでは味わえない感覚が間違いなくある。その感覚というのは、ピアノという楽器の洗練の過程で失われてしまった旨味のようなものだろうか?マシーンとして、極めてクリアなサウンドを実現できてしまうモダンのピアノとは違う、楽器としての至らなさ、不器用さが、思い掛けない効果を生むリストの時代のピアノ... モダンのピアノにすっかり慣れてしまった耳から振り返る、1837年製、エラールのピアノというのは、まさに洗練の過程の姿。しかし、そうした過程にあって、最高の音楽を目指したリストがいて。過程という制約の中で、制約を物ともしない、いや越えてさえいるリストの音楽は、実は、制約があってこそ絶妙なバランスを見せるのかも。そして、その絶妙なバランスを改めて認識させてくれる、マルティノフの演奏。
1837年製、エラールのピアノの、独特の重み... たっぷりと水分を含んだように重い、一音一音... モダンのピアノのクリアな響きが、如何にドライで、軽いかということを思い知らされる。そうして奏でられる、ベートーヴェンの「田園」(track.1-5)... ただならずしっとりとした一音一音が描き出す「田園」の風景は、雨上がりの土の匂いを放つ、もわっとした蒸気を感じさせ、今まで知り得なかった濃密さに、グイグイと惹き込まれてしまう。それは、印象主義の音楽でも聴くような感覚すらあって、そうした未来を予兆させるようなあたりに、リストらしさも感じ... 聴き知ったはずの「田園」が、まるで違う作品のように聴こえ出す。ベートーヴェンにして、リストの音楽に成り得ているおもしろさ。交響楽を如何にピアノに落し込むか... という次元を越えて、「田園」をよりヴィジュアライズしようとするリストの挑戦的な姿勢を見出し、ベートーヴェンでは成し得ない瑞々しさ... リストによって得られた「田園」の新たな瑞々しさに圧倒される。その瑞々しさを徹底して引き出すのが、マルティノフのパワフルなタッチ!楽器の制約というものをしっかりと読み切っての、より大胆なアプローチが、リスト版のベートーヴェンの交響曲の隅々までを鮮やかに響かせ、リストによるアレンジのおもしろさをこれでもかと知らしめてくれるかのよう。
続く、2番の交響曲(track.6-9)では、より古典派的な初期の交響曲ということで、「田園」とはまた一味違う音楽を楽しませてくれる。それは、ベートーヴェンにより忠実なアレンジというのか、18世紀的な快活さを活かしつつ、ベートーヴェン的なエモーショナルさで勢い付け、中期の情熱的なピアノ・ソナタを聴くような感覚がある。またそうしたあたりに、ベートーヴェンの新たなピアノ・ソナタを発見したかのような新鮮さがあって、刺激的... そして、印象に残るのが終楽章(track.9)!ベートーヴェンにしては思い掛けなく洒脱な音楽が繰り広げられるのだけれど、リズミックに次から次へと音が弾ける楽しさに、マルティノフの見事なテクニックがはまり、胸すくような盛り上がりを見せ、圧巻!ピリオドの制約の中で、臆することなく自由闊達に音楽を繰り出すマルティノフの大胆さに、すっかり魅了されてしまう。マルティノフを聴くのはこのアルバムが初めてだったのだけれど、新たな個性の登場に、ワクワクさせられる。で、次は何を聴かせてくれるのだろう?

YURY MARTYNO ― BEETHOVEN ― LISZT SYMPHONIES Nº 2 ET 6

ベートーヴェン : 交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68 「田園」 〔リストによるピアノ独奏版〕
ベートーヴェン : 交響曲 第2番 ニ長調 Op.36 〔リストによるピアノ独奏版〕

ユーリ・マルティノフ(ピアノ : 1837年製、エラール)

Zig-Zag Territoires/ZZT 301




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。