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フランス革命とオペラと、オペラ・コミックとナポレオン... [2006]

7月4日がアメリカの独立記念日で、7月14日がフランスの革命記念日...
7月というのは、何気に政治的な月なのか?日本でも、この間、何か割れたみたいだけれど... アメリカの独立や、フランスの革命のような花々しさはまったくないのが日本であって... 生来の政治下手なのだろうね、この国は... 政治家たちの政治力の無さに、脱帽させられます。というようなことをグダグダ言っていると、気が滅入るだけなので、音楽!アメリカの独立記念日を前にアメリカの音楽を振り返ったのに続き、今週末のフランスの革命記念日、パリ祭りを前に、革命期のフランスのオペラを聴いてみようかなと... ということで、2006年にリリースされた、ディエゴ・ファゾリス率いるイ・バロッキスティによる、ゴセックのオペラ『共和制の勝利』(CHANDOS/CHAN 0727)と、ヴェルナー・エールハルト率いるラルテ・デル・モンドによる、メユールのオペラ・コミック『怒りんぼう、あるいは短気な人』(CAPRICCIO/60128)を聴き直す。


18世紀末、社会主義リアリズム?ゴセック、『共和制の勝利』。

CHAN0727.jpg
何とも物々しい序曲の始まり... 大砲を思わせる大太鼓の音に、風雲急を告げる劇的な出だし!ベートーヴェンの「ウェリントンの勝利」を思わせて、チャイコフスキーの「1812年」にもつながってゆくようで、騒乱の緊張感が音となり、ただならない迫力を見せるのだが、その後で、どうも牧歌的な情景が広がってしまう。で、幕が上がれば、オペラというよりは、何かの式典でも始まったかのようなコーラス(track.4)... 続く、市長のレチタティーヴォ(track.5)は、まさに式典の挨拶?そうか、これは機会音楽なのだなと認識する。第1共和政が成立(1792)し、国王がギロチン(1793)に掛けられ、恐怖政治に突入した頃、1794年に初演された『共和制の勝利』。王侯の結婚式にオペラが用意されたように、共和制の勝利にもまたオペラが用意された。そんな印象だろうか。すると、1場などは、革命賛歌によるカンタータといった雰囲気で、ドラマはどこかへ行ってしまい、セレモニアル。そうしたあたりに、ちょっと戸惑わされるのだけれど、そこから、俄然、キャッチーなメロディに彩られ始める!
2場、それはもう腰を抜かすというか、何と言うか... ヴォー!ヴォー!ヴォー!ヴォー!ヴォヴォヴォヴォ、ヴォォォォー!何が起こったのかと耳を疑う、"Vous, gentilles fillettes, et vous, jeunes garcons... "(track.8)のギャグめいた歌い出し。"Vos!(みんな!)"のヴォー!のようだけど、一度聴いたら、頭の中でグルグルしてしまうこのフレーズ。てか、すぐに一緒に歌えそう!そして、そういうキャッチーさが、やがて『フィデリオ』へとつながる頃のオペラ、例えばケルビーニの『二日間』といった、古典派から一歩を踏み出そうとする力強い音楽と結び付きグングン盛り上がってゆく!改めて聴いてみて、あれこんなにも聴き応えあった?くらいに驚き、魅了されてしまう。恐るべし、共和制の勝利... 18世紀末の社会主義リアリズム... 革命政府のプロパガンダ... フランス革命の血みどろの顛末と、王政を倒しての皇帝の登場というトホホな結末を知る我々からすると、滑稽にすら感じる能天気さであることは間違いないのだけれど、「革命」という偉業を無抵抗に受け入れるからこそ生まれる曇りの無いパワフルさ、輝き、そしてキャッチーさは、ショスタコーヴィチを聴くよりずっとハッピーにしてくれる。そういう点で、ゴセックはショスタコーヴィチを先取りし、ショスタコーヴィチを越えている?
そんな『共和制の勝利』を、活き活きと響かせるファゾリス+イ・バロッキスティ。彼らならではの、どの音符も疎かにしない丁寧かつ力強いアプローチが、このオペラの特殊性を乗り越えて、音楽そのものを輝きに充ちたものとし、ゴセックによる18世紀末の社会主義リアリズムに、独特なポップ感を生み出す。また、櫻田亮(テノール)はじめ、歌手陣も総じて魅力的な歌を聴かせ... 忘れてならないのが、大活躍のコーラス!やはり、革命は群集が主役、共和制の勝利を盛り上げる。そのコーラス、ルガーノ・ラディオ・スヴィッツェラ合唱団、カリカントス合唱団による歌声は誠実で、力強く、革命のオペラの魅力をより引き出す。そんな、すばらしい歌、演奏がこのオペラの独特な存在感を、21世紀に、おもしろいものとして蘇らせる。

François-Joseph Gossec Le Triomphe de la République

ゴセック : オペラ 『共和制の勝利』

ロレット : サロメ・ハラー(ソプラノ)
自由の女神 : アントネラ・バルドゥッチ(ソプラノ)
副官 : ギュメット・ロランス(メッゾ・ソプラノ)
トマ : 櫻田 亮(テノール)
将軍 : クラウディオ・ダヌーザー(バリトン)
じいさん : フィリップ・フッテンロッハー(バス)
市長 : アルノー・マルツォラッティ(バス)

ルガーノ・ラディオ・スヴィッツェラ合唱団、カリカントス合唱団
ディエゴ・ファゾリス/イ・バロッキスティ

CHANDOS/CHAN 0727




新たな時代を迎える... メユール、『怒りんぼう、あるいは短気な人』。

60128
フランス革命が終焉を迎えようとしていた頃、1801年に初演されたメユールの『怒りんぼう、あるいは短気な人』。王をギロチンに掛け、全ヨーロッパを敵に回したフランス共和国... その窮地を救い、勝利へと導きつつあった第一統領、ナポレオンに捧げられたオペラ... ナポレオンの肖像をあしらったジャケットから想像するその音楽は、ベートーヴェンの「英雄」あたりを思わせる?なんて期待してみたら、とんでもない肩透かしを喰らう。ゴセックの『共和制の勝利』からは打って変わって、政治からは程遠い他愛の無い恋愛騒動を描く。怒りんぼうの金持ちパンドルフと、その思惑に従わない息子、リザンドルの恋の行方に、従者、スカパンの恋も絡んで、ロッシーニの『セヴィーリャの理髪師』的な展開を見せる物語。ま、オペラにはありがちな形で、ナポレオンなんてこれっぽっちも関係ない... 初めて聴いた時は詐欺に遭ったような気すらしたけれど、改めて聴き直すと、イタリアのオペラ・ブッファではない、フランスのオペラ・コミックの軽やかでキャッチーな魅力を再認識させられる。
ブフォン論争の最中、イタリアのよりメロディックな姿勢に影響を受け誕生したフランス語による歌芝居、オペラ・コミック。その黎明期の作品、ルソーの『村の占い師』(1752)などを聴くと、イタリアの影響を受けたとはいえ、間違いなくフランスらしさ(独特のメローさと、ポップな色彩感... )というものに貫かれていて、リュリ以来のフランスの伝統、トラジェディ・リリクの対岸で、もうひとつのフレンチ・スタイルを見出すことになるわけだけれど。それから半世紀を経てのメユールによる『怒りんぼう、あるいは短気な人』は、古典派の時代のオペラ・ブッファの雰囲気を取り込んでいて、そこからロッシーニを先取るような溌剌とした音楽を響かせる。前半の区切りとなる四重唱"O ciel, que faire"(track.10)や、フィナーレ(track.20)のコーラスを背景に登場人物たちが歌いつないで盛り上げてゆくあたりは、完全にロッシーニを思わせる。とはいえ、ロッシーニのオペラ・デビュー(1810)はまだ先であって... つまり、『怒りんぼう、あるいは短気な人』で聴こえるロッシーニ風は、オペラ史におけるロッシーニが登場する下準備の頃を浮かび上がらせるのか?革命以前、18世紀、モーツァルトらが活躍したオペラ・ブッファの時代から、ナポレオン以後、19世紀、ロッシーニらが活躍する時代の間の空白を埋めるようで、興味深い。
そんな『怒りんぼう、あるいは短気な人』を、丁寧にかつ表情豊かな演奏で響かせるエールハルト+ラルテ・デル・モンド。エールハルトならではのコントラストのきつい音楽作りは抑えられ、歌手たちをしっかりと支え、オペラのオーケストラとして実に器用に立ち回る。そうして活きてくるキャラクターたち... 台詞に中断される音楽に、あまり唐突な感じはなく、全てがナチュラルにまとめられるあたりは、歌手たちの表情付けの巧さと、オーケストラの控え目ながら、きっちりと背景を描き出す力量があってこそ。歌、演奏、相俟って、すばらしいアンサンブルを聴かせる。で、オペラの後で、『怒りんぼう、あるいは短気な人』の序曲を改編したパリの大オーケストラによるバレエの序曲(track.21)が取り上げられるのだけれど、ここではエールハルト+ラルテ・デル・モンドによる雄弁な演奏が繰り広げられ、彼らならではのアグレッシヴな魅力を楽しませてくれる。

Etienne Henri Méhul
L'Irato ou l'Emporté

メユール : オペラ・コミック 『怒りんぼう、あるいは短気の人』
メユール : パリの大オーケストラによるバレエの序曲

スカパン : ミリェンコ・トゥルク(バス)
リザンドル : シリル・アヴィティ(テノール)
イザベル : ポーリーヌ・クルタン(ソプラノ)
パンドルフ : アラン・ビュエ(バス)
ネリーヌ : スヴェニャ・ヘンペル(ソプラノ)
バルアール : ゲオルグ・ポプルッツ(テノール)

ボン室内合唱団
ヴェルナー・エールハルト/ラルテ・デル・モンド

CAPRICCIO/60128




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