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God Bless American Music. [2006]

7月4日は、アメリカの独立記念日... ということで、「アメリカ」を聴いてみる。
クラシックにおけるアメリカの存在を、改めて見つめてみると、なかなかおもしろい。ヨーロッパの伝統を受け継ぐ優等生としてのアメリカらしさと、ヨーロッパの伝統とはまったく違うフィールドにある素朴さが育んだアメリカらしさ。さらにはアフリカからの文化、世界中からの文化を吸収し、独特のアメリカらしさを織り成して... あるいは、そういう全てのアメリカらしさの裏で広がるアンダーグラウンドなセンスもあって... それらを許容する懐の深さとしてのアメリカらしさ。アメリカらしさというものをすぐにイメージできたとしても、アメリカそのものを俯瞰すれば、それは極めて多層的で、捉えどころなくも感じ... 人工的に作られた国家が育んだ文化のあり様というのか、クラシックというジャンルに限らず、未だ知ることのない生まれ故郷を求めて彷徨うような感覚に、「アメリカ」の魅力を見出す。あれだけタフでありながら、どこか足下が覚束なく、一見、豪快でナイスガイ然としながら、深くナイーヴなものを感じ、そうしたあたりに、不思議と共感してしまう。アメリカの音を聴いていると、なぜか胸が締め付けられるような瞬間がある。という「アメリカ」を、様々な方向から、聴いてみようかなと... 多少、唐突ではあるのだけれど...
2006年にリリースされた、アンドルー・リットンが率いたダラス交響楽団による、アイヴズの1番と4番の交響曲(hyperion/CDA 67540)、マリン・オルソップが率いたボーンマス交響楽団による、バーンスタインのセレナード(NAXOS/8.559245)、ホアン・パブロ・イスキエルドの指揮で、ラテン・アメリカ四重奏団らによる、クラムの『ブラック・エンジェルズ』(mode/mode 170)、アノニマス 4が懐かしきアメリカを歌う、"GLORYLAND"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907400)を聴き直す。


古き良きアメリカを折り重ねて結ぶ、アイヴズ...

CDA67540.jpg
再生ボタンを押して流れ出す、あまりにライトな音楽に面喰う。これが交響曲か?と... そんなアイヴズの1番の交響曲(track.1-4)、久々に聴いたから、余計に... けれど、そこからがアイヴズ芸術の凄いところで、じわりじわり"いかにも"交響曲な大仰さを織り成してゆく。アイヴズの1番の交響曲は、学生時代の習作ではあるけれど、様々なイメージが折り重なり圧倒的な音楽を響かせる後年のスタイルを予兆させる感覚があって興味深い。そして、そのアイヴズ芸術の集大成とも言える4番の交響曲(track.5-8)を続いて聴くのだけれど...
街を歩いていて何気なく聞えてくるメロディや喧騒が次々に重ねられ、多重録音のような実験的なサウンドを生み出すアイヴズならではの音楽。その錯綜したイメージが以前は苦手だったけれど、慣れてしまえば、アイヴズのイマジネーションの凄さを思い知る。ラヴェルと同世代の作曲家が、ミュージック・コンクレートの考え方を先取りするような、先進的な世界を切り拓いていたとは、本当に驚かされる。それでいて、重ねられてゆく古き良きアメリカの風景のノスタルジックさと、重ねられて生み出されるうねりの迫力と、うねりの先に極めてスケールの大きいセンチメンタルが滲む感動は、他の作曲家の作品ではけして味わえない。古い記録フィルムを素材に、「アメリカ」という壮大な映像叙事詩を見せられるような聴き応え。この映像的な感覚に改めて魅了される。
その映像的なあたりを瑞々しく捉えるリットン!この人ならではの現代的なセンス、優れたバランス感覚が、複雑なスコアを見事に捌き、アイヴズ芸術の興味深さを卒なく浮かび上がらせる。そして、リットンにしっかりと応えるダラス響... ひとつひとつのパーツにしっかりと向き合いつつ、古き良きアメリカのトーンを大切に、立体的なアイヴズ芸術に、ノスタルジックな風合を加えて印象的。

IVES SYMPHONIES 1 & 4
DALLAS SYMPHONY ORCHESTRA / ANDREW LITTON


アイヴズ : 交響曲 第1番 ニ短調
アイヴズ : 交響曲 第4番
アイヴズ : 宵闇のセントラル・パーク

アンドルー・リットン/ダラス交響楽団
ダラス交響楽団合唱団

hyperion/CDA 67540




ライトなアメリカの饗宴、バーンスタイン...

8559245
五嶋みどりが伝説を作った作品、バーンスタインのセレナード... そういう興味本位から聴いてみると、思い掛けなくバーンスタインの音楽に魅了されてしまう。プロコフィエフの2番のヴァイオリン協奏曲を聴くような、程好くモダニスティックで、擬古典主義風でポップでもあって、何よりエレガントなセレナード。プラトンの『饗宴』に想を得て綴られる5つの楽章は、エロース=愛についての対話を音楽にするだけあって、独特の雰囲気がある。またそこには、「ギリシアの愛」も多分に含まれるわけで、バーンスタインの指向も作用して、他のバーンスタイン作品以上に、魅惑的なものを感じてしまうのは気のせいだろうか?久々に聴いたからだろうか?
バーンスタイン門下のひとり、オルソップの指揮、彼女が率いたボーンマス響による、セレナード(track.1-5)、ファクシミリ(track.6)、ディヴェルティメント(track.7-14)... バーンスタインのセンスを感じさせるライトな3作品を取り上げた1枚は、肩の力の抜けた趣味のいい構成。オルソップのこなれた指揮ぶりと、ボーンマス響のヨーロピアンな雰囲気が、よりバーンスタインのセンスの良さを引き立ていて。アメリカが強調されるのではない、ニューヨークあたりの上流の人々の、ヨーロッパ趣味を思わせて、優雅な心地にさせてくれる。が、けして本物ではないヨーロピアンであって... エッセンスとしてのヨーロピアンのライトさの魅力は、アメリカ視点だからこそ生み出し得る絶妙なもの。オルソップはその絶妙さをそっとすくい上げ、巧い... また、セレナードでのクイントのヴァイオリン・ソロが、なかなか素敵で... ほんの少しノスタルジックな匂いを漂わせながら、やわらかな音色で歌うあたり、大人の雰囲気で包んで、印象的。そうして、上質なアメリカ音楽を楽しませてくれる。

BERNSTEIN: Serenade / Facsimile / Divertimento

バーンスタイン : セレナード 〔ヴァイオリン、弦楽オーケストラ、ハープ、パーカッションのための〕 *
バーンスタイン : ファクシミリ 〔オーケストラのためのコレオグラフィック・エッセイ〕
バーンスタイン : ディヴェルティメント 〔オーケストラのための〕

フィリップ・クイント(ヴァイオリン) *
マリン・オルソップ/ボーンマス交響楽団

NAXOS/8.559245




アンダーグラウンドから悪魔を創り出すアメリカ、クラム...

mode170
ライトなバーンスタインからは一転、アンダーグラウンドな魅力に彩られたクラムの『ブラック・エンジェルズ』(track.6-18)。暗黒界からの13のイメージ... だなんて、まったく、完全に逝ってしまっている。象徴主義とか神秘主義のレベルではない。"13"という不吉な数字に執着(様々な言語で、日本語も含めて、13までを声にして数えたり... )し、とにかく悪魔的なサウンドを追求、やりたい放題にやり尽くすのだけれど... このアルバムで取り上げられるのは、指揮を務めるイスキエルドのアレンジによるヴァージョン。オリジナルの弦楽四重奏から、さらに弦楽オーケストラを加え、音に厚みを持たせ、雰囲気は増している。そして、弦楽合奏のヴィヴィットさが、クラムのキテレツさから、独特の美しさを引き出していて、シューベルトの「死と乙女」の引用など、印象的だったりする。どれほど真面目に音楽をやっているのか!?と思わせつつ、じわりじわりとその異様な世界に引き込んでしまう。悪魔的、魅入られる音楽?クラムの戦略にすっかり乗せられてしまっているのか?
その『ブラック・エンジェルズ』の前に取り上げられる、2台のアンプリファイド・ピアノとパーカッションのためのマクロコスモス、第3集、「夏の夜の音楽」(track.1-5)も、夏の夜というだけに、怪奇なイメージを喚起させられるのだけれど(夏=怪奇という構図は果たして日本以外でも通用するのか?)。まず、響きが綺麗なことに驚く。アンプリファイド・ピアノの、いつものピアノとは一味違う表情の幅に、新鮮な美しさを感じ。怪奇なイメージに美しさを見出す感覚は、どこか日本的?そのあたりを、おもしろく感じる。で、これもまたアメリカであって、その幅、スケール感に感服させられる。一方で、クラムが放つ異質さの中にもまた「アメリカ」の姿を見出すのか、真に悪魔と向き合うのとは違う、悪魔を創り出すホラー映画的なノリが、興味深い。

CRUMB: Black Angels; Makrokosmos III
Cuarteto Latinoamericano, Carnegie Mellon Philharmonic / Izquierdo


クラム : マクロコスモス 第3集 「夏の夜の音楽」

指揮 : ホアン・パブロ・イスキエルド
ルス・マンリケス、ウォルター・モラレス(ピアノ)
Nena Lorenz、Brian Spurgeon、Michael Passaris、Mark Shope(パーカッション)
アンドレス・クラデラ(声、他... )

クラム : 暗黒界からの13のイメージ 『ブラック・エンジェルズ』 〔イスキエルド編曲による、弦楽四重奏と弦楽オーケストラ版〕

指揮 : ホアン・パブロ・イスキエルド
ラテン・アメリカ四重奏団
カーネギー・メロン・フィルハーモニックのメンバー

mode/mode 170




そして、アメリカの原風景に帰る... グローリーランド!

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アメリカの古楽ヴォーカル・グループ、アノニマス 4。彼女たちが祖国アメリカに目を向けたアルバム、"Amerian Angels"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907326)の、驚くほど素朴で、アメリカ音楽の源流を見つめる讃美歌の鮮烈な印象は忘れ難い... そして、その続編となる"GLORYLAND"は、19世紀の歌を中心に、ギターやヴァイオリンが加わり、アメリカの形がより見えてくるもの。カントリー、ゴスペルと、今につながってゆく歌の姿を見出し、親近感が湧くのだけれど、久々に聴く"GLORYLAND"は、そういうことはさておき、何だか心が洗われてしまう。アメリカの原風景に帰る... その懐かしく大らかで心地よい場所!日本人にしてそんな風に思ってしまうシンプルな歌の数々の雄弁なことときたら、もう... ひとつの歌から雄大なアメリカの風景が広がって、目を閉じれば、その中に立ち、草の匂い嗅ぎ、風が吹き抜けるのを感じ、雲が流れてゆくのを見送る... ネットも、自動車も、政治も、グローバリゼーションも、何もない、ただただシンプルに自然と向き合う安心感というのか、そのあまりに揺るぎない様に圧倒されて、何だか泣けてくる。完全に迷子となった現代人、ここが帰るべき場所なのか?けれど、そこは絶対に帰れない場所で、帰ることのできない故郷を思って泣けてくるのか?
アノニマス 4の素朴で美しいハーモニーは、すーっと筋の通った歌声をそっと束ね、シンプルな中にただならない説得力を持たせてしまう。そうして、何気ないメロディを捉え、アメリカという枠を越え、聴く者の心を射抜くような鮮烈さ放つ。その鮮烈さが、不思議と切なさを呼び、楽しげにリズムを刻むナンバーも、どこかいつも切ないようで。そこに加わる、幅広く活躍するフィドラー、アンガーと、マンドリン弾き、マーシャル!彼らのヴァイオリンの力強い響き、ギターのヴィヴィットな響きもまた心に沁みるものがあり、歌ばかりでない"GLORYLAND"。しかし、こんなにもシンプルな音楽が、これほどまでに心を震わせるとは!

GLORYLAND ・ ANONYMOUS 4 ・ DAROL ANGER ・ MIKE MARSHALL

I'm on My Jurney Home
Address for All 〔器楽演奏〕/Like Noah's Weary Dove
Wayfaring Stranger
Wayfaring Stranger 〔器楽演奏〕
Where We'll Never Grow Old
Ecstasy
Wagoner's Lad
Mercy-Seat
Return Again
Lost Girl
Palmetto
Pleading Savior
Merrick
Shining Shore
Saint's Delight
Just Over in the Gloryland
You Fair and Pretty Ladies
Medley: Parting Friends/Wayfaring Stranger 〔器楽演奏〕
Green Pastures

アノニマス 4
ダロル・アンガー(ヴァイオリン/マンドリン)
マイク・マーシャル(マンドリン/ギター/マンドチェロ)

harmonia mundi FRANCE/HMU 907400




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