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愛の勝利、あるいは、ピオーの世界... [2012]

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ヘンデル(naïve/E 8894)や、モーツァルト(ASTRÉE/E 8877)のアリア集はあったのだけれど、リュリや、ラモーといったフランスもののアリア集が不思議と無かった、フランス・ピリオド界には欠かせないソプラノ、サンドリーヌ・ピオー。振り返ってみると、ピオーに限らず、バロックから古典派にかけて、フランス・オペラを取り上げるアリア集というのは少ないのかも... 例えば、ヴェロニク・ジャンスによる、リュリに始まるフランス・オペラの系譜を見事に網羅したアリア集、"TRAGÉDIENNES"のシリーズ(Virgin CLASSICS/346762 2, 216574 2, 070927 2)が、とてつもなく快挙に感じられたのも、そういう背景があるのかもしれない。しかし、なぜ少ない?オペラそのものに距離を取るほどの独自路線を貫いたフレンチ・スタイルは、お馴染みのイタリアン・スタイルとは違うセンスがあって、負けない魅力を持っているはずなのだけれど...
そして、その負けない魅力を再確認させられる、ピオーの最新盤!ジェローム・コレア率いる、フランスのピリオド・オーケストラ、レ・パラダンの演奏で、サンドリーヌ・ピオーが歌うアリア集、"le triomphe de l'amour"(naïve/OP 30532)を聴く。

「愛」の諸相を歌うアリア(フランス・オペラなので「エール」が正しいのだろうけれど... )を集めたピオーの"le triomphe de l'amour"、愛の勝利... ジャンスのような大掛かりなことはせず、フランス・オペラの、バロックからフランス革命前までの美しいアリアの数々を、ピオーがさっと抱えられるだけまとめた1枚... そんな感じだろうか。得意とするレパートリーを、余裕を以ってさらりと歌い上げる、そのいい具合に力みの抜けた、こなれた感覚が、美しいアリアをさらに引き立てていて、やっぱり、餅は餅屋だなと... とはいえ、太陽王の宮廷音楽監督、リュリ(1632-87)に始まり、マリー・アントワネットのお気に入り、サッキーニ(1730-86)まで、取り上げられるアリアの数々は、17世紀後半からほぼ一世紀、フランス・オペラの進化と、フランス・オペラならではの葛藤を含み、1枚にまとめるにはかなりの幅があって...
始まりは、コロラトゥーラが華麗に舞う、イタリアの最新モードの影響を受けたグレトリの『嫉妬深い恋人』からのアリア。続くリュリの『アシスとガラテー』(track.2)からは、まさにフランス・バロック!トラジェディ・リリクの濃密なドラマが繰り広げられ、アリアというよりは独白... その表情の陰影の深さに圧倒される。一転、ラモーの『アナクレオン』(track.3)からのアリアでは、ロココのポップな気分がふんわりと広がり... 「フランス・オペラ」と一言で片づけてしまうも、リュリに始まるその歩みは、オペラを生み出したイタリアのコピーではなく、思考錯誤と論争の連続であって、そこからは他にはないフランス・オペラの多様性を育み、より豊かなオペラへと成長したように感じる。その多様性、豊かさを、さっと抱えてしまうピオー... コロラトゥーラも、ドラマティックなあたりも、ポップなあたりも、実に器用に歌いこなし、さらにはひとつひとつのアリアをそれぞれに表情豊かに歌い上げる。餅は餅屋とはいえ、何てことなく歌い、ひとつのアルバムにまとめてしまうことに感服させられる。
そして、そのピオーの背景で、また見事なシーンを描き上げるコレア+レ・パラダン!最初の一音から、その雄弁な響きに思い掛けなく耳を奪われてしまう... で、ひとつのアルバムに、バロックから古典派までを見事にカヴァー... それぞれの作品に見合ったサウンドというものをきっちりと作り上げていて、彼らの器用さにも驚かされる。これまでも、アンブロネー音楽祭の自主レーベルなどで見掛け、そのマニアックなレパートリーがかなり気になっていたのだけれど聴くまでには至らず、このアルバムで初めて触れることに... いや、フランス・ピリオド界の層の厚さは凄い!音楽監督のコレアは、クリスティ+レザール・フロリサンによる、バロック期のフランス・オペラの復興に先鞭をつけたラモーの『カストルとポリュックス』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901435)で、ポリュックスを歌ったバリトン... ピリオド界で、歌手出身の指揮者というと、ヤーコプスがすぐに思い浮かぶのだけれど、コレアは歌手出身というあたりをあまり感じさせない、思いの外、きっちりとした音楽を創り出す。ルベルとフランクールの共作、『スカンデルベルグ』序曲(track.4)、ラモーの『ラミールの祭り』からの舞曲(track.8)など、歌から離れたところで、ピオーばかりでないこのアルバムの魅力をしっかりと聴かせ、そのインパクトはかなり大きい。クリスティらの草分け的世代から、極めて個性的な次世代が次々に登場したフランスのピリオド界だけれど、コレア+レ・パラダンの魅力は手堅さだろうか?雄弁な管、重厚な弦でもって、しっかりとしたサウンドを響かせる。そんな彼らの充実した演奏は嬉しい発見で、古典派の交響曲などを聴いてみたくなってしまう。
が、やはり主役はピオーだ。この人のすばらしさは今さら言うまでもないけれど、彼女のメイン・レパートリーとも言うべき、バロックから革命前のフランス・オペラ... それは、水を得た魚であって、"le triomphe de l'amour"を聴くことは、ピオーの世界へ引き込まれるようなもの... ひとつひとつのアリアは自信に充ち、フランスだ何だと堅苦しいことはどこかへ消え、「美しい」という確かな感覚がしっかりと残る。それでいて、バロックから革命前まで、フランス・オペラの多様性、豊かさに、魅了される。

LE TRIOMPHE DE L'AMOUR Sandrine Piau Les Paladins Jérôme Correas

グレトリ : オペラ・コミック 『嫉妬深い恋人』 より 「私を束縛していた鎖を、私は断ち切った」
リュリ : オペラ 『アシスとガラテー』 より 「ついに私は恐怖を追い払った」
ラモー : バレ 『アナクレオン』 より 「キューピッドは平和の神!」
ルベルとフランクールの共作 : オペラ 『スカンデルベルグ』 より 序曲
カンプラ : オペラ 『イドメネオ』 より 「希望はねじまげられた」
ルベルとフランクールの共作 : オペラ 『スカンデルベルグ』 より 「用意はととのった」
シャルパンティエ : オペラ 『ダヴィデとヨナタン』 より 「これほどつらい苦悩を受けた人が他にいるだろうか?」
ラモー : コメディ・バレ 『ラミールの祭り』 から サラバンド/2つのガヴォット/2つのタンブーラン
ラモー : コメディ・バレ 『遍歴騎士』 より 「私は飛んでゆく、愛よ、お前が呼ぶところに」
グレトリ : オペラ・コミック 『喋る絵』 序曲
ファヴァール : オペラ・コミック 『ボヘミア娘』 より 「かわいそうなニース!」
サッキーニ : オペラ 『ルノー』 より 「勝利の女神がほほえみますように」
ラモー : オペラ・バレ 『インドの優雅な国々』 より 「私が慕うあの方と一緒になれますように」

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
ジェローム・コレア/レ・パラダン

naïve/OP 30532




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