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パウル・ザッハーから、ハンガリーへ... [2012]

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20世紀の音楽を巡っていると、時折、「パウル・ザッハー」という名前に出くわす。
パウル・ザッハー(1906-99)。まず、近代音楽のパトロンである。20世紀を彩る様々な作曲家たちに、多くの作品を委嘱したことで、その名を知ることに。その委嘱作品の多くを初演した旧バーゼル室内管弦楽団を創設(1926)した指揮者であることも忘れるわけにはいかない。というあたりは、何となく認識していたのだけれど... 改めてその存在について調べると、なかなか興味深い(ま、いつもながらのwikiにて、なのだけれど... )。
ザッハー自身も作曲家であったとのこと。どんな作品なのか、ちょっと気になる。一方で、古い音楽への関心とその復活への尽力もあり... バーゼル・スコラ・カントルム(サヴァール、ヤーコプスらを教授陣に擁する古楽の名門音大... )を創設(1933)したのがザッハーだと、今さらながらに知り、驚く。同時代と古典、演奏と教育。何となく認識していた存在が、俄然、音楽の巨人に見えてくる。そして、パトロンとして、それらを実現できた財力なのだが... ザッハー自身がリッチだったのではなく、ザッハー夫人がリッチだったとのこと。世界的な製薬会社、F.ホフマン-ラ・ロシュ社、2代目の未亡人、マヤ・ホフマン・シュテーリン... で、かつて彫刻を学んだ夫人の専門はアート。となると、ザッハー夫妻は、20世紀、芸術界における最強カップル?しかし、ザッハーの20世紀の音楽への貢献は計り知れないわけだが、それを支えた夫人の太っ腹さにも感服させられてしまう。いや、凄い。
そのザッハーをフィーチャーするアルバム、ハインツ・ホリガーの指揮、ローザンヌ室内管弦楽団の演奏で、ザッハーにより委嘱された、バルトークの弦楽のためのディヴェルティメントをはじめとする、ヴェレシュ、デュティユーによる3作品(claves/50-1113)を聴く。

何と豊潤な!始まりのバルトーク、弦楽のためのディヴェルティメント(track.1-3)の冒頭から、その深く豊かな響きに魅了されてしまう。散々、ザッハーに注目しておきながら... ではあるのだけれど、このアルバム、まずはローザンヌ室内管の演奏に耳が持っていかれる。重心を低くして、どっしりと構えつつ、密度の濃い弦楽アンサンブルが放つジューシーさがたまらない... そうして響くバルトークの音楽の滴るような生々しさ... ディヴェルティメント=嬉遊曲のはずが、ただならずヘヴィーに響いて、そのヘヴィーさに、目が覚める思い。そもそも、「ディヴェルティメント」というあたり、モーツァルトを思い起こさせて、古典への関心の強かったザッハーを喜ばせるバルトーク流の擬古典主義的作品のはず... が、ホリガーの指揮によるローザンヌ室内管の弦楽のハーモニーからは、ハンガリーの土の臭いがしてくるようであり、何とも言えない湿り気があって、ちょっとダークでドスを効かせる。この作品のイメージはこうだったろうか?ローザンヌ室内管のサウンドはこんな風だったろうか?思い掛けない聴き応え(録音の良さも大きい!)に、"ザッハー"やら、"ディヴェルティメント"といった名前や形を忘れ、ホリガーの指揮の下、深く音楽を鳴らすローザンヌ室内管に、強く惹き込まれてしまう。
となると、続く、もうひとりのハンガリー人、ヴェレシュ(1907-92)による、ピアノ、弦楽、パーカッションのための協奏曲(track.4-6)もまた、どこかハンガリー性を強くするようで、仄暗く。ヴェレシュというと、どこか清冽な感覚を持った音楽が印象的なのだけれど、この作品ではダークに、末期的ロマンティックな表情すら見せつつ、端々にはオリエンタルな臭いを漂わせ、そうしたあたりがスパイスとなって、何か雰囲気のある音楽を紡ぎ出す。そして、おもしろいのが3曲目、デュティユーの「瞬間の神秘」(track.7-16)。20世紀、フランスの近代音楽に、独自の色を添えたもうひとりの巨人、デュティユー(b.1916)なわけだが、この作品にはツィンバロン(ハンガリーなど中東欧の民俗音楽に欠かせない楽器... )が用いられ、"ハンガリー"として前の2作品につながるのか。しかし、その音楽は、2人のハンガリー出身の作曲家にはない、フランスならではのクリアな色彩感に貫かれ、美しく。そこに、エスニックに響くツィンバロンが、魔法を掛けるように、時折、鳴らされ、エキゾティック(最後は中国風ゴングも鳴らされて、ハンガリーすら超越してしまう... )でミステリアスな音楽を展開する。
バルトーク、ヴェレシュ、それからデュティユーと、それぞれに極めて個性的で、近代音楽のメインストリームからは距離を取る3人の作曲家であって、それこそザッハーの委嘱による、という組合せでしかないようだけれど、そこはかとなしに"ハンガリー"を臭わせてひとつにつなぎ、アンチ・モダンとしてのエスニックさ?を聴かせるのか。20世紀という枠組みに、風変わりな斬り込みを入れてくるアルバムだ。また、そうした趣向をしっかりと捉え、それぞれの個性を流れの中で描き出すホリガーのセンスも際立っていて... 近現代のスペシャリストとして、明晰に作品を処理するばかりでない、作品が持つ灰汁のようなものをすくい上げ、そこからアンチ・モダンの雰囲気を創り出すような、魔術的な感覚もあり、おもしろい。

VERESS, DUTILLEUX, SACHER, BARTÒK ・ Heinz Holliger, Dénes Várjon, OCL

バルトーク : 弦楽のためのディヴェルティメント Sz.113
ヴェレシュ : ピアノ、弦楽、パーカッションのための協奏曲 *
デュティユー : 瞬間の神秘 〔弦楽、ツィンバロン、パーカッションのための〕

デネーシュ・ヴァーリョン(ピアノ) *
ハインツ・ホリガー/ローザンヌ室内管弦楽団

claves/50-1113




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