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雨の日の交霊会。 [2006]

梅雨の真っただ中... 台風までやって来て、まさに雨の季節...
傘を手放せない状況が、外出を億劫なものにして、気分も滅入るのだけれど、そんな時はかえって家に籠って音楽を聴く。こういう時だからこそ、音楽に深く潜り込めそうな気もして、深く潜り込めそうな音楽を聴いてみたくなる。で、その音楽なのだけれど、20世紀、神秘主義に耽溺した2人の作曲家、スクリャービンとシェルシの音楽。ま、単なる思い付きだけれど、そんな思い付きもまた、神秘に裏打ちされて?どこかで呼ばれたか?
ということで、2006年にリリースされた、アレクサンドル・メルニコフの弾く、スクリャービンのピアノ作品集(harmonia mundi FRANCE/HMN 911914)と、高橋アキが弾く、シェルシのピアノ作品集(mode/mode 159)。ふと振り返ると、何気にその「神秘」が重かったか、随分と聴いていなくて... けど、そのブランクに、某かの新鮮さを見出してみようかなと、聴き直す。


スクリャービン。黒ミサ。メルニコフ...

HMN911914.jpg
今や、メルニコフといえば、個性的なピアニストとして、その存在感を際立たせているわけだれけど、6年前のこのアルバムが、その始まり、harmonia mundiへのデビュー・アルバム。それも、若手紹介シリーズ"LES NOUVEAUX MUSICIENS"からのリリースで... この6年におけるメルニコフの躍進は、目を見張るものがある。もちろん、じっくり準備期間を置いての遅めのデビュー(1973年生まれのメルニコフ、当時、33歳... )、10代でちやほやされている若手たちとは一線を画すわけで。デビューして6年、もうベテランの風格は、当然といえば当然なのだけれど... 6年前は、間違いなく「若手」だった!
今、改めて聴く、メルニコフのスクリャービンの透明な美しさは、若手なればこその瑞々しさに充ちている。ひとつのひとつの音符に素直に向き合い、スクリャービンのイメージに囚われることなく、丁寧に響かせて生まれる心地よい流れ... 「法悦の詩」や「プロメテウス」など、オカルティックなイメージが先行するスクリャービンだけれど、そのスタートは極めてロマンティックな音楽であって... このアルバムもまた、そうした若いスクリャービンの若さなればこその、神秘主義への予感など微塵も感じさせない、スウィートなロマンティシズムで始まる。そのあたりが、メルニコフの若さと絶妙に呼応して、嫌味にならない、くどくならない爽やかですらあるロマンティシズムが、とめどもなく湧き出して。そんな音楽に浸る悦び!が、やがて、そこに"魔"が流れ込んでくる...
基本的に、年代順に作品を並べ、スクリャービンの音楽の変遷をも、さらりと聴かせるこのアルバム。聴き進めることで、じわりじわりと神秘主義は色を濃くし、青年期の美しく夢見るようなロマンティシズムは、おどろおどろしいオカルティズムに浸食されてゆく。その様が独特の迫力を生み、なおかつ、どこか『白鳥の湖』的な、魔に魅入られるような物語性をも生み出していて、おもしろい。そして、その頂点となるのが「黒ミサ」(track.20)。メルニコフのアプローチは、1曲目から一貫して瑞々しいのだけれど、その瑞々しさで捉えられる魔的なものの、翳を帯びながらもくっきりと煌めく感覚は、何とも言えない美しさを放ち、息を呑む。スクリャービンの音楽が、こうも透明に聴こえてくるものかと驚かされる。で、吸い寄せられるよう。雰囲気に流されない、率直なタッチから、かえってスクリャービンの音楽が持つ、オーラのようなものを感じ... ふと気が付けば、スクリャービンの神秘性、というか魔性に魅入られてしまったか?ただならず、惹き込まれる。

SCRIABINE Œuvres pour piano MELNIKOV

スクリャービン : 前奏曲 ホ短調 Op.11-4
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ト短調 Op.19 「幻想ソナタ」
スクリャービン : 2つの詩 Op.32
スクリャービン : 幻想曲 ロ短調 Op.28
スクリャービン : アルバムのページ Op.45-1
スクリャービン : 2つの小品 Op.57
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調 Op.23
スクリャービン : 5つの前奏曲 Op.74
スクリャービン : 皮肉 Op.56-2
スクリャービン : ピアノ・ソナタ 第9番 「黒ミサ」 Op.68
スクリャービン : マズルカ Op.24-3

アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)

harmonia mundi FRANCE/HMN 911914




シェルシ。5つの魔術。高橋アキ...

mode159
シェルシの音楽というのは、未だに取っ付き難い... ま、取っ付くまでに至るほど聴いていないということもあるのだけれど、取っ付こうという気持ちにも、なかなかなれなくて... スペクトル楽派に影響を与えた、ノイジーなサウンドは、生半可では立ち向かえない... そんなイメージが自分の中に漠然とあった。そして、久々に挑む、シェルシ。高橋アキが弾く、シェルシのピアノ作品集を聴き直すのだけれど、ピアノという明確に音階を刻むマシーンでシェルシの音楽を捉えると、あのノイジーさが整理されて、塊が点の集合として響き、そこに生まれるパルスに、思い掛けなく魅了される。あれ?こんな感じだったっけ?と、シェルシについて、安易にイメージし過ぎていたか?今、改めて聴くシェルシの感触は、自分の中にあったイメージを覆すようで、とても新鮮。
ということで、1曲目、組曲、10番、"Ka"(track.1-7)なのだけれど... 右手がなぞるひとつの線の、そのシンプルな音楽、訥々と鳴らされてゆくパルスが、どこか雨粒が水たまりに見せる波紋のようで、美しく。そんな波紋を描き出す高橋アキの、ひとつのパルスから様々な色を感じさせてしまうタッチに、惹き込まれる。すると、シェルシの繊細な音楽が静かに開いてゆくような感覚があって、気が付けば、その独特の世界が持つ引力に捉えられ、無抵抗に呑み込まれてしまうよう... これがシェルシの「神秘」か?独自の感性に貫かれ、思索的で、徹底して内向きでありながら、外にある聴く者を、一度、捉えたら、離さない、見えない食指のようなものがあるような不気味さは、ヤミツキになる。そして、最も不気味で、魅惑的なのが、5つの魔術(track.15-19)。何者なのか判断のつかないような、無軌道で、憑かれたように動き回る音楽。かと思いきや、はたりと動きを止め、疲れ切ったように横たわる音符が並び... アヴァンギャルドで、バーバリスティックで、その呪術的なパワフルさに、圧倒される。
しかし、そんな音楽にきっちり向き合っていると、何だか消耗してしまうのだけれど、このアルバムの巧いところは、ちょうど真ん中に、シェルシが若かりし頃、1939年に作曲した、ベルクを思わせるロマンティックな無調の瑞々しいソナタ(track.12-14)を挿み、最後は、ドビュッシーのアンビエントな作品を聴くような、"Un Adieu"(track.20)で締め括るところ。その、音楽の持って行き方に、感服。何より、シェルシの世界を瑞々しく鳴らす高橋アキのピアノ!クリアかつ、世界観に丁寧に寄り添い、よりイマジネーションを膨らませるようでもあり、テクニックはもちろんのこと、その豊かな音楽性は、さすが...

SCELSI: The Piano Works 3: Ka; 4 Illustrazioni; Sonate No.3; 5 Incantesimi; Un Adieu
Aki Takahashi


シェルシ : 組曲 第10番 "Ka"
シェルシ : 4つの挿絵
シェルシ : ピアノ・ソナタ 第3番
シェルシ : 5つの魔術
シェルシ : Un Adieu

高橋 アキ(ピアノ)

mode/mode 159




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