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ビターなロマンティシズム、モークのこだわり... [2012]

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古楽から現代音楽まで、そのあまりに広過ぎる"幅"を行ったり来たりしていると、時折、クラシックのイメージがわからなくなる。一般的なクラシックのイメージというのは、どうしようもなくあるわけだけれど、実際のクラシックというのは、安易な型に納まるようなシロモノでは無い... そんなクラシックをまともに追っているとクラクラしてくる。そんな時は、おもいっきりクラシック!なサウンドに立ち返る。普段は若干、嫌煙気味の、コテコテなクラシック... だけれど、久々にそういうところへ戻って来ると、恐ろしく新鮮で、その滴るようなクラシック感にクラクラしつつ、クラシックってやっぱりいいよなぁ。なんて、ぽそりとつぶやいてしまう。
ということで、華麗なるヴィルトゥオーゾの世界へ... ヨーゼフ・モークのピアノ、ニコラス・ミルトンの指揮、ドイツ・ラインラント・プファルツ州立フィルハーモニーの演奏で、ルビンシテインの4番と、ラフマニノフの3番のピアノ協奏曲(onyx/ONYX 4089)を聴く。

リスト、ゴドフスキー、ブゾーニといった、伝説のヴィルトゥオーゾたちの活躍の記憶を手繰り寄せる超絶技巧のトランスクリプション集、"metamorphose(n)"(claves/50-2905)。「近代」が台頭する中、メインストリームから離れ、独自の世界へと耽溺していった同世代の3人の作曲家、ジョンゲン、レーガー、スクリャービンの作品を取り上げる"divergences"(claves/50-1005)。ドイツの新鋭と紹介されるピアニストにしては、何ともマニアックで、どこか翳を帯びるような渋いセンスを見せるモーク。メジャー・レーベルから華やかにデビューする若手スターたちとは一線を画すそのキャラクターは、ちょっと危うげで、つい気になってしまう。そんなモークがonyxに移っての最初のアルバム、ルビンシテインとラフマニノフのコンチェルト...
19世紀、大活躍したロシアのヴィルトゥオーゾ、アントン・ルビンシテイン(1829-94)と、20世紀、ロシアから世界を股に掛けたヴィルトゥオーゾ、セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)。ヴィルトゥオーゾにして作曲家という2人を並べる絶妙な組み合わせで、ロシアのピアニズムの伝統を華麗に綴るモーク。ラフマニノフだけならば、またか... となるところを、ルビンシテインを取り上げることで、俄然、興味深いものとしてしまう。そして、その興味深いルビンシテインのコンチェルトなのだけれど... ヴィルトゥオーゾの時代のヴィルトゥオージティに溢れる華麗な音楽は、一回り後の世代となるチャイコフスキーを思わせて、魅力的。特に、スピーディーに、リズミカルに繰り出される終楽章(track.3)... 鍵盤の上を両手が華麗に舞って生み出される小気味好さは、まさに「ヴィルトゥオーゾ」による音楽。キラキラした輝きと胸すくような展開は、これぞクラシック!をたっぷりと味合わせてくれる。そこから、お馴染みのラフマニノフへ... ルビンシテイン以来の、ロシアのピアノの伝統の到達点としてのラフマニノフを意識させるのか、いつものように人気作品として聴くのとは一味違う聴き応えがあるのかも。また、2番ではなく難曲の3番というあたりが、より「ヴィルトゥオーゾ」を浮かび上がらせ、失われてしまった古き良き華麗なるクラシックの時代を、瑞々しく蘇らせるかのよう。ルビンシテインに導かれてのラフマニノフに、改めて魅了されてしまう。
さて、モークのピアノなのだけれど、そのしっかりとした一音一音がまず印象に... 実直なタッチが、多分にロマンテッィクなコンチェルトの手綱を引き締め、無駄のない音楽を展開する。そうして生まれる、作品のグラマラスさに囚われない骨太の華麗さは、ちょっと独特なのかも。ルビンシテイン、ラフマニノフという希代のヴィルトゥオーゾたちによる超絶技巧を、鮮やかに繰り広げながらも、その響きはビターな仕上がりで。そこに、モーク流のダンディズムを見出す?ジャケットの、映画の『カサブランカ』あたりを気取ったようなモークの出で立ちが、またそのあたりを物語っているようで。スウィートなロマンティシズムではなく、ビターなロマンティシズム... ロシア流の暗さ、重たさとも違う、モークのこだわりが、華麗さに目が奪われがちなヴィトゥオーゾたちの音楽に、武骨さを滲ませ、恋愛映画(例えば、ラフマニノフならば、『逢引き』とか... )の伴奏ではなく、ダンディズムを語らせる。メロドラマティックとロマンティックに線を引こうとするモークの指向がおもしろい。そして、それはしかるべきだと思う。
で、やっぱりモークのセンスは、興味深い。古臭いのとは違う、古き良き頃へのノスタルジーをファッションとし得る現代っ子感覚?多少、頑固なところもありそうだけれど、しっかりとした音楽像を持って奏でるその姿勢から、今後どういう広がりを見せるのか、楽しみ。

RACHMANINOV ・ RUBINSTEIN PIANO CONCERTOS JOSEPH MOOG

ルビンシテイン : ピアノ協奏曲 第4番 ニ短調 Op.70
ラフマニノフ : ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 Op.30

ヨーゼフ・モーク(ピアノ)
ニコラス・ミルトン/ドイツ・ラインラント・プファルツ州立フィルハーモニー

onyx/ONYX 4089




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