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二〇一一、オペラから... [overview]

遅まきながら、2011年を振り返っているわけだけれど...
ざっと振り返ってみて、2011年はどうだったろう?正直なところ、聴きそびれているものがいろいろあって、こうして振り返りつつも、そうしたアルバムがとても気になっていたり... あるいは、もっとおもしろいアルバムがあったんじゃないのか?なんても思うし... ま、そうした全てを聴くことは、そもそも無理な話しではあって、ここで一区切り。また、追々、フォローしていけたならいいなと。一方で、2011年、こうして聴いてきたアルバムに関しては、どれもおもしろく、振り返ってみて、改めて、充実した1年であったなと感じる。間違いなく、クラシックという存在は、委縮しつつあるわけだけれど、それでも、おもしろいアルバムを繰り出そうという努力や心意気のようなものを感じることが多かった2011年。そうしたあたりから、新たなクラシックの芽が育ったならばと、強く思う。簡単ではない時だからこそ、もっとチャレンジングになれたなら、クラシックの未来は明るい?気もしてくる。
という未来はともかく、まずは目の前の2011年。交響曲からピアノまでを振り返った前半に続いての後半、オペラから始める。そして、印象に残るのは?
2011年のオペラで、まず印象に残るのは、アリア集。アリア集なんてものは、スターの名前で売るようなもの... という安易なアリア集は今や昔、とにかく凝っているのが今のアリア集。その最右翼とも言えるのが、フランスを代表するプリマのひとり、ジャンスによるフランス・オペラの伝統のスタイル、トラジェディ・リリクの系譜を辿る意欲的なシリーズ... というより、アリア集でシリーズになってしまうことが驚きなのだけれど... その第3弾、"TRAGÉDIENNES 3"(Virgin CLASSICS/070927 2)。リュリに始まったこのシリーズも、とうとうマスネにまで至り、その集大成的な充実ぶりが印象的だった。何より、枚数を重ね、さらに見事な歌を聴かせるジャンスに魅了されずにいられなかった。そして、トラジェディ・リリクの次に、ジャンスがどこへ向かうのかが気になる... それから、古典派の時代のウィーンのオペラ・シーンを切り取ってきたレイスが歌うアリア集、"Liaisons"(onyx/ONYX 4068)も興味深かった。というより、「モーツァルト」の一言で済まされてしまうあたりを丁寧に掘り下げて、ウィーンという街の気分まで聴かせてしまうあたりが思い掛けなく新鮮。そして、新たなプリマとして、ブレイクするのか、レイス... これからがますます楽しみになる...
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さて、全曲盤でもすばらしいリリースが多かった2011年... まずは、ファソリス+イ・バロッキスティによる堂々たるヴィヴァルディのオペラ『ファルナーチェ』(Virgin CLASSICS/0709142)。スターのアクロバティックなパフォーマンスに耳が行きがちなヴィヴァルディのオペラだけれど、いつもながらのイ・バロッキスティの充実のサウンドが、ヴィヴァルディのオペラに厚みを持たせて凄かった... バロック・オペラだって聴き応えは十分!
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ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルによる、カンプラのオペラ・バレ『ヴェニスの謝肉祭』(GLOSSA/GCD 921622)は、カンプラの魅力を存分に引き出していて、そんなカンプラの魅力に、すっかり魅了されてしまった。リュリとラモーをつなぐ存在にして、リュリの荘重さを脱し、ラモーよりもパリっとしているこの軽さが最高!そして、餅屋は餅屋... フランス人によるフランス・バロックが見せる「エスプリ」というのは、魔法?
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さて、2011年のオペラで、最も印象に残るのが、パッパーノ+サンタ・チェチーリア国立管によるロッシーニのオペラ『ギヨーム・テル』(EMI/0 28826 2)。オペラはピリオドばかりではないと気を吐いた、圧巻のライヴ!そもそも、序曲の後を聴くのが初体験で、その文字通りのグランド・オペラたる、堂々の音楽ドラマに、今さらながら圧倒された。そして、序曲からただならい演奏、歌の数々... 気合の入り様が違う...
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オペラか、ヴォーカルかで迷うあたり... 初期バロック、オペラ黎明期の音楽劇の興味深い姿を捉えた、ル・ポエム・アルモニークによる、モンテヴェルディの『タンクレーディとクロリンダの戦い』をメインとした1枚、"Combattimenti !"(Alpha/Alpha 172)。が、マラッツォーリのインテルメディオ『ファルファの市場』が思い掛けなくすばらしく... 型にはまらない自由な気分が、その後のオペラにはない活き活きとした表情を生み、何と魅力的な!
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ところで、2011年、最も驚いたことのひとつが、ジャルスキーとツェンチッチの共演。ディーヴァ同士、ぶつからないのかな?なんて、下世話な心配もあった、イタリア・バロックの珍しい二重唱集、"Duetti"(Virgin CLASSICS/0709432)。結局、2人のカウンターテナーならではのやわらかさ、クリーミーさで綾なす二重唱に聴き入ってしまう。クリスティ+レザール・フロリサンの見事なサポートもあって、美しい1枚に...
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2011年、もうひとつ驚いたのが、マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによるベルリオーズのレクイエム(signum CLASSICS/SIGCD 280)。ピリオドでのベルリオーズ... それもあの巨大なレクイエムということで、奇を衒ったイメージを抱いてしまうのだけれど、仕上がったサウンドというのは衒いの無い驚くほど素直なもの... すると、作品自体の衒いも解けて、思い掛けなく感動してしまった。
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ヴォーカルか、現代音楽かで迷ったのだけれど... ヒリアー+シアター・オブ・ヴォイセズによる、戦後、「前衛」の奇作を集めた1枚、"STORIES"(harmonia mundi/HMU 807527)。それは、剥き出しのヴォーカルというのか、音楽にして音楽を超越した姿がインパクトを残す。そして、それを実現し得た、シアター・オブ・ヴォイセズの超絶のヴォーカル・パフォーマンス!作品のおもしろさもさることながら、彼らの凄さを再確認する1枚だった。
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現代音楽というと、日本の作曲家がおもしろかった!まずは、再び動き出したNAXOSの日本作曲家選輯のシリーズから、松村禎三の2つの交響曲(NAXOS/8.570337J)... 非西洋の異様なパワフルさに痺れつつ、日本から西洋音楽を模索する葛藤を目の当たりにし、「前衛」というものを、今、改めて、リスペクトせずにいられなくなった。また、そうした作品を、湯浅+アイルランド国立響が熱演、圧巻の1枚。
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より日本的なのか... そのあたりが世界で受けるのか... 日本を代表する作曲家として、ますます存在感を増す細川俊夫。その管弦楽作品を、笙の宮田まゆみをフィーチャーし、リープライヒ+ミュンヒェン室内管が取り上げるアルバム、"LANDSCAPES"(ECM NEW SERIES/476 3938)。嫌みの無い、より抽象的な日本情緒を淡くなぞらえて、ECM的にセンス良く、美しくまとめた1枚は、思いの外、美しかった... いや、良かった!
さて、現代音楽はますます多様になってきている。多様な地域から現代の音楽が次から次へ生まれてきている。となると、おもしろかったのは日本の作曲家ばかりでなく... そうした中で、印象に残るのが、ヨルダン出身のハダッドの作品集(WERGO/WER 6578 2)。アラベスクでありながら、エキゾティシズムだけで聴かせるのではないその音楽は、とても興味深く、刺激的だった。それから、今や韓国を代表する作曲家、チン・ウンスクの作品集(KAIROS/0013062KAI)も印象的だった。東アジアの感覚に縛られることなく、より自由に、現代っ子世代として、現代の音楽を繰り広げる姿に共感。今、現代音楽において、「現代っ子」感覚というのは、アカデミズムを凌駕する魅力になりつつあるように感じているのだけれど... そんな作曲家をもうひとり、フランスの現代っ子世代、カンポの弦楽四重奏曲集(SIGNATURE/SIG 11070)もおもしろかった。飄々としたサウンドを繰り出しながらも、どこかフランス的にポエティックでもあり、魅惑的...
実は、古楽のアルバムをあまり聴けていない2011年... そうした中で、タイトルを絞ることに意味があるのだろうか?とも思いつつ... というより、2011年に聴いた古楽のアルバム、4タイトル、全てが印象深いものだった... まずは、サヴァール+エスペリオンXXIによる、悪名高きボルジア家の栄枯盛衰を音楽で追う、"DINASTIA BORJA"(Alia Vox/AVSA 9874)。ルネサンス期の多彩な音楽で、いつもながら見事に歴史絵巻を綴るサヴァール。そこから浮かび上がるのは、もののあはれ?そんな感覚が興味深く、不思議と日本的な読後感が印象に残る。それから、エドゥアルド・パニアグア+ムジカ・アンティグアによるルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの音楽的側面を丁寧に追う、"L'AMORE MI FA SOLLAZAR"(PNEUMA/PN 1320)。ダ・ヴィンチの発明による楽器の再現など、実に興味深い一方で、ムジカ・アンティグアならではのエスニックなサウンドが、ポリフォニックなばかりでないルネサンスの魅力を捉えておもしろかった。
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そして、レザン・ダドル+ドゥルス・メモワールがフェヴァンのレクイエムを歌うアルバム、"REQUIEM D'ANNE DE BRETAGNE"(Zig-Zag Territoires/ZZT 110501)。フランス王妃にして、ブルターニュ女公、アンヌ・ドゥ・ブルターニュの葬送の音楽を再現したとのこと... で、フランス・ルネサンスと、ブルターニュのトラッドが巧みに結び付けられ、その美しく、オーガニックな仕上がりが、他には無い詩情を湛え、忘れ難いものに...
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それから、アッコルドーネが、ナポリ王国時代のナポリの裏通りの音楽を再現する"FRA' DIAVOLO"(ARCANA/A 359)がおもしろかった!果たして、古楽となるのか、どうなのか、迷うところなのだけれど、ナポリの名も無き市井の音楽の活気に満ちたリズムと、うらぶれたサウンドは、とにかく魅力的!こういう音楽をできるのは、アッコルドーネしかないだろうな... という、堂に入った仕上がりが圧巻!
最後は、クラシックにして、他のジャンルへと越境するような、ボーダーライン上にある音楽を見つめる。って、そういうのが好きなものでして... いや、こういうチャレンジングな試みは、成功すれば、とても刺激的なものとなり、思い掛けなく、打ちのめされるような感動を味わったり...
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そして、味わいました... フィンランドの鬼才、アコーディオン奏者、ポホヨネンと、クロノス・クァルテットによるコラヴォレーション、"UNIKO"(ONDINE/ODE 1185)。ワールド・ミュージックにして、ロックにして、ニューエイジで、コンテンポラリーにまとめ上げられたこのサウンド!何これ?衝撃を受けつつ、その圧倒的な音楽世界に打ちのめされた。ジャンルの枠組みから完全に自由となって、我が道をゆくポホヨネン、何てカッコいいんだろう。
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最後は、テレマンの音楽に中東欧のトラッドが出会う、"BARBARIC BEAUTY"(CHANNEL CLASSICS/CCS SA 31911)。ワールド・ミュージックで活躍するヴァレントのヴァイオリンと、オランダ・バロック協会によるバロックがスパークして、思い掛けない化学変化を見せる1枚。湧き立つリズム、無邪気なサウンドが綾なして、バーバリックな美しさを存分に味わわせてくれる。その楽しさたるや!

さて、一通り見てきたので、次の次の更新にて、2011年のベストを選んでみたい。

交響曲 | 管弦楽曲 | 協奏曲 | 室内楽 | ピアノ
オペラ | ヴォーカル | 現代音楽 | 古楽 | ボーダーライン上のエリア




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