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2012年、リゲティへの旅... [2012]

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リゲティというと、『2001年、宇宙の旅』。
そんなイメージがある。もちろん、映画で取り上げられたリゲティ作品は、独立した作品であり、映画音楽ではなかったのだけれど、そうした事実を疑ってしまいそうなはまりようで... キューブリック監督による圧倒的な映像と、その映像を鳴らしてしまうようなリゲティ作品の存在感は、「現代音楽」という枠組みを越えて、より幅広い層にインパクトを与えてきたように感じる。そんなこんなで、"ゲンダイオンガク"にしては、意外とポピュラーなのかもしれないリゲティ作品。そして、今、さらにインパクトのあるリゲティの演奏に出くわした!
ハンガリーの鬼才、作曲家にして指揮者、ペーテル・エトヴェシュ(b.1944)が、ケルンWDR交響楽団を指揮して、20世紀、ハンガリーを代表する作曲家のひとり、ジェルジュ・リゲティ(1923-2006)を取り上げるアルバム(Budapest Music Center/BMC CD 166)を聴く。

『2001年、宇宙の旅』(1968)では、モノリスのテーマとして象徴的に扱われたレクイエム(1968)。その『2001年、宇宙の旅』でのイメージ、波紋のように広がるリゲティ特有のトーン・クラスターに至る過程の作品、アパリシオン(1959)。サンフランシスコ響の委嘱による、ミニマル・ミュージックの影響も感じさせて何気にカッコいい、サンフランシスコ・ポリフォニー(1974)。「前衛」の時代、独自の境地に至ったリゲティ作品の展開を、丁寧に捉える3作品であり、リゲティという作曲家を安直に知るには便利なアルバムなのかもしれない。が、このアルバムから響いてくるリゲティというのは、これまでとは何かが違う。やはり、鬼才、エトヴェシュだけに...
1曲目、レクイエム(track.1-4)は、ケルンWDR放送合唱団、SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトの、ドイツの室内合唱ならではのハイテク感を活かし、よりクリアに響かせる。トーン・クラスターがクリアであるという、何だかあべこべのようにも思うのだけれど、クリアに歌われるリゲティというのが、かなり新鮮。そして、エトヴェシュは、さらに声の塊から歌を見出そうとするのか?入祭唱の冒頭が、まるで中世の聖歌を思わせるような表情を見せて驚かされる。トーン・クラスターを成す素材としての声が、より能動的に存在感を示し、塊だったものが、息衝き始め、作品全体を突き動かすような印象を与える。エトヴェシュならではの有機的な音楽作りが、リゲティのクラスターにもしっかり作用し、これまでのリゲティのイメージを越えた音楽を生み出すかのよう。
一方で、審判の日(track.3)では、「前衛」の時代の、尖がっていた記憶が解き放たれ、今となってはノスタルジックにも感じられる"ゲンダイオンガク"の難解さが、かえって鮮やかに決まり、圧巻。2曲目、アパリシオン(track.5, 6)も、下手にまとめようとするのではなく、そんな「前衛」の時代をポジティヴに鳴らし切り、リゲティ特有のトーン・クラスターに至る前の姿、塊になる前の礫の飛び散りようが、活きが良く、おもしろい。エトヴェシュは、リゲティの複雑なスコアを、その明晰さで怜悧に捌くのではなく、作品が持つ上昇気流を巧く掴んで、滑空するような、感覚に優れた演奏を展開する。特に、最後のサンフランシスコ・ポリフォニー(track.7)... 漠然とカッコいい曲だと思っていたのだけれど、エトヴェシュの手に掛かると、クラスターの破片がミニマルにまとめられ、やがて心地よいパルスが浮かび上がり、何となく楽しげで、軽やかな気分すら生み出す。それは、作品を指揮して生み出されるものではなく、作曲という行為そのものをなぞって生み出される感触だろうか... そんな印象を受ける。
エトヴェシュの作曲家としての鋭敏な感性が、リゲティを安易なイメージから解き放ち、今や昔となってしまった「前衛」の時代の作品に、初々しさのような表情を引き出してしまう。エトヴェシュという存在は、リゲティ作品にとっての、新たなモノリス?その不思議な真新しさがおもしろい。

GYÖRGY LIGETI REQUIEM, APPARITIONS, SAN FRANCISCO POLYPHONY

リゲティ : レクイエム *
リゲティ : アパリシオン
リゲティ : サンフランシスコ・ポリフォニー

ペーテル・エトヴェシュ/ケルンWDR交響楽団
バーバラ・アンガン(ソプラノ) *
スーザン・パリー(ソプラノ) *
ケルンWDR放送合唱団、SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルト *

Budapest Music Center/BMC CD 166




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