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古のアイルランド... ケルトの先人たちとの対話。 [2012]

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オルランド・コンソートのアルバム、"Scattered Rhymes"(harmonia mundi/HMU 807469)で知った、ターレク・オリーガン(b.1978)という存在... ポスト・ミニマルな感覚をベースに、現代音楽を「現代っ子」な感覚で捉えるフレッシュなサウンドは、まさに21世紀の現代音楽。アカデミズムが熟成させた"ゲンダイオンガク"という狭い世界から生み出される現代作品とは一味違って、現代を彩るポピュラーな音楽と同じ空気の中、呼吸し、生み出されているのだなと感じられるオリーガン作品。"ゲンダイオンガク"という重石から解き放たれ、やりたい音楽をやる... そんな姿勢が潔く、だからこそ得られる瑞々しさに耳が奪われる。いや、すっかり虜。ということで、今やチェックせずにはいられない存在に。そして、待っておりました、オリーガンの最新盤。
ポール・ヒリアー率いる、アイルランド国立室内合唱団の委嘱作品、"Acallam na Senórach(先人たちの対話)"(harmonia mundi/HMU 807486)を聴く。

アイルランドの太鼓、バウロンの、冒頓とした渋い音で始まる"Acallam na Senórach"。そのプリミティヴな姿に、本当にオリーガン作品か?と驚かされる。前作、"Threshold of Night"(harmonia mundi/HMU 807490)の、スタイリッシュなイメージからすると、随分と遠いところへ来てしまったような、そんな感覚に... それは古楽のようであり、あるいはワールド・ミュージックのようであり、プロローグの異様な雰囲気に、少し戸惑うのだけれど、オリーガンの新境地なのか?
12世紀の末に書かれたという"Acallam na Senórach"を基に、2010年に作曲されたオリーガンの"Acallam na Senórach"。見慣れないゲール語(アイルランド語)のタイトルを和訳すると、『先人たちの対話』となるようで(オリーガンは、英訳したものに作曲している... )。その"先人たち"というのは、キリスト教を受け入れる以前のアイルランドの英雄たちにあたり。途中、バウロンの即興(track.10)を挿み、2部構成で、ケルトの伝説の時代を伝えるオラトリオのような作品に仕上がっている。となれば、2010年の作品にして、中世的な色合いも強くなり。バウロンの何とも言えない響きを聴けば、やはりケルトの伝説の時代、トリスタンとイゾルデの物語を中世の写本に探ったアラ・フランチェスカによる"Tristan et Yseut"(Zig-Zag Territoires/ZZT 051002)を思い出し、プリミティヴ。コーラスの合間に奏でられるギターは、ところどころケルティック・ハープを思わせるようであり、アルカイック。この2つの楽器が、この作品の"先人たち"の頃を印象付けるスパイスに。
そうしたスパイスに彩られつつ、オリーガンならではの瑞々しいコーラスが展開されるのだけれど... スパイスが効いてか、これまでのスタイリッシュさとはまた一味違い、訥々と歌い綴るような、どことなしに口伝の雰囲気を漂わせるようでもあり、おもしろい。すると、瑞々しいコーラスが、中世的な仄暗いトーンを纏い、"先人たち"が歌っていたのではと思わせる、フォークロワでキャッチーなメロディを滔々と歌い上げれば、中世のプリミティヴさと、伝説の時代のアルカイックさと、21世紀のオリーガンらしさとが巧みに結ばれて、独特のトーンを紡ぎ出す。渋いのだけれど、わずかに甘く、噛めば爽やかでもあり、懐かしくて、それでいて遠くに感じる音楽。バウロン、ギター、ほぼア・カペラのコーラス... シンプルでありながら、多層的な音楽を響かせる絶妙なバランスが冴える。
その中心にいるのが、ヒリアー+アイルランド国立室内合唱団。シアター・オブ・ヴォイセズ、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団、アルス・ノヴァ・コペンハーゲンと、世界的に活躍するヴォーカル・アンサンブル、コーラスを、見事に捌いているヒリアーだけれど、アイルランド国立室内合唱団では、他の合唱団で聴かせる研ぎ澄まされた感覚とは少し違う、線の太いハーモニーが印象的で。その線の太さから織り成される豊かな表情が、より"先人たち"の頃の雰囲気を際立たせもし、印象的。そこに、そっと加わりつつ、しっかりとインパクトを残しているのが、スチュワート・フレンチのギター!濁ることの無い力強い響きを放ち、鮮やかに一音、一音を決めてくる。その際立ったサウンドは、時折、魔法が掛かったようにハープのような表情を見せて、不思議。
いや、この作品そのものが不思議... 味のある歌、演奏があって、遥か彼方へと連れ去られるような、不思議な心地にさせられる。

TARIK O'REGAN Acallam na Senórach: an Irish Colloquy PAUL HILLIER

オリーガン : "Acallam na Senórach(先人たちの対話)"

ポール・ヒリアー/アイルランド国立室内合唱団
スチュワート・フレンチ(ギター)
ジム・ヒギンズ(バウロン)、フランク・トーピー(バウロン)

harmonia mundi/HMU 807486




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