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悪魔の修道士に取り憑かれて... [2011]

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異才、テノール、マルコ・ビーズリーと、鬼才、鍵盤楽器奏者、グイド・モリーニによる古楽アンサンブル、アッコルドーネのアルバムが、ARCANAからリリースされて、おおっ!と思ったのは昨年の初め... それまでの、こじんまりと洗練されたレーベル、cypresからのリリースが、何となく尻すぼみ感あって、もっと暴れてこそ... と思っていたところに、ARCANA!一方、渋くも水際立った見事な仕事を繰り広げた古楽レーベル、ARCANA... なのだけれど、創始者、ベルンステインの急死で、しばらく休眠状態に... で、やっと復活というところに、アッコルドーネの新たな参加。アッコルドーネにしても、ARCANAとしても、これからが楽しみになる1枚。ナポリ王国時代のナポリの通りの音楽を再現する、アッコルドーネの"FRA' DIAVOLO"(ARCANA/A 359)を聴く。

さて、「古楽」とは、どこからどこまでを言うのだろうか?古い音楽?古い楽器?
便利な言葉である一方、その広がりに関しては掴みどころがない... が、それをポジティヴに捉えるならば、何でも呑み込んでしまう度量の深さがある。ストイックなクラシックの一部を成しながら、クラシックにはあり得ないフレキシビリティで、時にびっくりするようなものまでカヴァーしてしまう。その自由さがとても刺激的で、クラシックでは知り得ない音楽世界に興味を掻き立てられつつ、洗練され「クラシック」という枠組みに押し込められる以前の音楽のイノセンスな姿、あるいは生々しく息衝く姿に、目を見張ることになる。そして、アッコルドーネの"FRA' DIAVOLO"だ。悪魔の修道士... だけに、抗し難い魔力を放つ。理屈抜きに、惹き付けられる。
例えば、ナポリ楽派が生まれ、その延長線上に19世紀のイタリア・オペラを牽引したオペラハウスのひとつサン・カルロ劇場があり... そんな音楽の街、ナポリの、通りの音楽。今、我々がクラシックとして知る音楽の傍らに常にあっただろう、ナポリの民衆の音楽を拾い集める1枚が見せるサウンド・スケープは、カンツォーネの原風景だろうか?どうしようもなくキャッチーで人懐っこいメロディにリズムが溢れかえる。一方で、カンツォーネの楽観的なカラフルさは無く、常に憂いを帯び、裏通りのストリート・ミュージック?うらぶれたトーンがたまらない。ナポリ名物、タランテラのリズムもどこか執拗で。いや、それこそが本物のタランテラか... 打ち鳴らされるカスタネットにタンバリンは、エキゾティックなスパイスとなって、ヨーロッパから突き出て、北アフリカ、イスラム文化圏と向き合うナポリならではの、ヨーロッパから逸脱するようなエスニックさが強い印象を与える。そして、個性を極める歌声!
ベルカントを生んだ街とはいえ、一歩、裏道に入れば、まったく違う歌声が息衝いていて、アカデミズムが作りだす"美しい声"とは一線を画す、大地に根差した力強い地声が繰り広げる音楽世界は、心にダイレクトに訴え掛けるよう。特に、南イタリアのトラッドには欠かせないピーノ・デ・ヴィットリオ!ワールド・ミュージックからの歌声というのは、やっぱり味がある... 雄弁だけれど、どこか滑稽さも滲む、コメディア・デッラルテの定番キャラを思わせるようなトーン?で、ナポリは自分の庭とばかりに、いい調子で次から次へと鮮やかに決めてゆく。そんなデ・ヴィットリオを前にすれば、アッコルドーネの看板テノールも霞みがち... というより、デ・ヴィットリオの灰汁の強さの後では、ことのほかマルコ・ビーズリーの透明感が映え。ビーズリーが無伴奏で歌う「きみに差し出そう、この魂」(track.7)などは、そのただただ真っ直ぐなあたりが心に沁みる。が、圧巻なのは、そうした様々に個性的な声が重なって生まれる独特のハーモニー!「サンフェディスタ党の行進」(track.12)なんてカッコ良過ぎる!地中海沿海各地に点在する男声コーラスの伝統を思わせて、その艶っぽく野性的なあたりは魅了されずにいられない。
間違いなく"ナポリ"をイメージさせるトーンで包みながら、その中に新大陸からの影響?フラメンコ風?ビザンツ聖歌を思わせるドローン?アラベスクな半音階などなど、地中海全域の音楽が織り込まれてもいるようで。西地中海と東地中海を結ぶナポリという港の、様々な文化が行き交っただろう雑多さが見事に表現されていて。このあたりが、このアルバムの魔力だろうか。古楽?ワールド・ミュージック?その判別不能が生む、説明抜きの剥き出しの音楽の魅力に取り憑かれてしまう。

FRA' DIAVOLO
ACCORDONE

伝承曲/スピネッロ : Como senza la vita
デ・ヴィットリオ : Stornello Start
デ・ヴィットリオ : Stu pettu è fattu cimbalu d'amuri
デ・ヴィットリオ : Sona a battenti
デ・ヴィットリオ : Primo discanto
伝承歌 : Madonna della grazia
コルネーティ : Pigliate l'alma mia
伝承歌 : Tarantella di Sannicandro
伝承歌 : L'Angiulillo
デ・ヴィットリオ : Cori miu
伝承歌 : Pizzica tarantata
伝承歌 : Marcia delle truppe Sanfediste
ドゥランテ : Carataranta
デ・ヴィットリオ : 'Na via di rose
伝承歌 : Canto per Montevergine
伝承歌 : Canto dei carrettieri
デ・ヴィットリオ : Secondo discanto
デ・ヴィットリオ : Fronni d'alia
伝承歌/ドゥランテ : Pizzica di San Vito
モリーニ : La Volombrella
伝承歌 : 'O Guarracino
デ・ヴィットリオ/モリーニ : Stu pettu è fattu cimbalu d'amuri (alio modo)

グイド・モリーニ/アッコルドーネ
マルコ・ビーズリー(ヴォーカル)
ピーノ・デ・ヴィットリオ(ヴォーカル)
マウロ・ドゥランテ(ヴォーカル)

ARCANA/A 359




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