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18世紀、ハンブルクの上潮! [2006]

さて、ナポリの裏通りから、ハンブルクへ!
ハンブルクは、ドイツ、第2の都市... といった紹介をされることが多いわけだが、歴史を遡っても、ハンブルクはドイツ屈指の大都市であった。そんな大都市は、当然、音楽マーケットとしても規模が大きく、例えば、18世紀、北ヨーロッパの音楽センターのようなポジションにあったようだ。そして、そのハンブルクの性格を特徴付けるものが、都市国家であったということ... 宮廷が育む音楽とは違う、都市の市民が育んだ音楽... どうしても、フランス革命以前というと、音楽は王侯貴族のもの、といったイメージが強いわけだが、必ずしも、そればかりではなかった18世紀。宮殿を装飾する音楽ではなく、市民がリアルに楽しんだ音楽というのは、実に興味深いわけで。そんな、18世紀、ハンブルクの音楽ファンを楽しませたのが、オペラ!イタリアに負けず、オペラの上演が盛んで、かのヘンデルも、ハンブルクでオペラ・デビューしている。それから、ハンブルクといえば、街の音楽監督、テレマンを忘れるわけにはいかない。また、その後継者には、バッハ家の次男、カール・フィリップ・エマヌエルがいたことも...
ということで、宮廷ではない市民がリアルに楽しんだ音楽としての、ハンブルクの音楽。2006年にリリースされた2つのアルバムから... リコーダーの名手、モーリス・シュテーガーを中心に、ベルリン古楽アカデミーによるテレマンのオーケストラ作品集(harmonia mundi FRANCE/HMC 901917)と、アンドルー・マンゼが率いた、イングリッシュ・コンサートによるカール・フィリップ・エマエル・バッハの交響曲集(harmonia mundi FRANCE/HMU 907403)を聴き直す。


ホットなハンブルクのバロック、テレマンのサービス精神。

HMC901917.jpg06con.gif
何はともあれ、モーリス・シュテーガーのリコーダーが凄い!湿気たところがまったくない!打楽器か?なんて思わせるような、リコーダーの音のキレの良さに舌を巻き、その超絶のテクニックに、ただただ感服。特にコンチェルトの終楽章(track.11)などは、疾風が吹き抜けるかのよう。超絶技巧が生み出す爽快感は、まさにクール!いや、そのアグレッシヴな演奏はホット!一転、メランコリックなメロディとなれば、よく歌い、表情は実に豊かで、グっと聴かせてもくる。さらに、ベルリン古楽アカデミーも、ますますキレ味は鋭く、ますます粋で、シュテーガーに負けじと、カッコいいところを見せつけてくる。ひとりひとりの音楽性の高さと、そうして織り成されるアンサンブルの純度の高さには、息を呑む。それらが結晶となって現れるのが、テレマンの名曲、『ハンブルクの潮の干満』(track.12-21)。ピリオドという枷を凌駕するヴィヴィットなサウンドで、コミカルなあたりも器用に響かせ、ハンブルクの数々のスナップを実に表情豊かに綴り、圧倒される。となれば、テレマン・サウンドは、驚くほどにカッコいい!
様々な情報が集まってきていたであろう大都市の、目敏い多くの音楽ファンを前にした音楽というのは、何かが違う... 改めてテレマンという作曲家と向き合ってみて、そんなことを強く感じる。バッハの作品はすばらしい、けれど、ここまでサービス精神に溢れているだろうか?人気作曲家の仕事ぶりというのは、リアルな聴衆と向き合い、時に対峙し、丁々発止で創作してゆく... そんな感じだろうか?21世紀の今と、かつてのハンブルクにある、音楽シーンに充たされた緊張感というものは、そう変わらないように感じてしまう。そして、そんな風に感じさせてしまう、シュテーガーのリコーダー、ベルリン古楽アカデミーの演奏も凄いし。数世紀を経た今もなお、クラシック云々といった説明抜きにカッコいいテレマンの音楽の可能性に感心せずにいられない。
クラシックの世界においては、聴衆に忠実である... というのは、大衆迎合なんて、見下されかねないかもしれないけれど、聴く者に忠実である音楽こそ、普遍的なのだな。なんて、考えさせられもする。しかし、ホットなハンブルクのバロックに、魅了されずにいられない!

TELEMANN BLOCKFLÖTEN-WERKE STEGER

テレマン : 組曲 イ短調 TWV 55a: a 21 *
テレマン : 協奏曲 ハ長調 TWV 51: C1 *
テレマン : 組曲 『ハンブルクの潮の干満』 ハ長調 TWV 55 : C3

モーリス・シュテーガー(リコーダー) *
ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901917




ハンブルクのバッハの、18世紀テンコ盛り、シンフォニア。

HMU907403.jpg
テレマンの後継者として、ハンブルクの音楽を取り仕切ったのがカール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)。ハンブルクのバッハだ。そして、改めてその音楽を聴いてみれば、なかなか興味深い。フリードリヒ大王の宮廷で活躍した後、1768年、ハンブルクへと移ったカール・フィリップ・エマヌエルだが、マンゼの指揮によるイングリッシュ・コンサートによる演奏は、そのハンブルクで作曲されたシンフォニア/交響曲を取り上げる。それは、テレマンからそう遠くはないサウンド... かと思いきや、やっぱり多感主義、ころころと表情を変えて見せ、時代がうつろっていることを意識させる。また、テレマンを聴いた後だと、そうした印象がより強くなるのか。さらには、古典派的な充実感を聴かせる部分もあって、カール・フィリップ・エマヌエルの中に、18世紀の、新旧、様々なテイストが詰め込まれているように感じ... 過渡期の音楽の弱さ?なんて、微塵も無い、ある意味、テンコ盛りの音楽がおもしろい。やっぱり、これもハンブルクなればこそのものだろうか?サービス精神にも思えてくる。
また、マンゼ、イングリッシュ・コンサートの演奏が、そうしたあたりを強調してもいるようで。この演奏を初めて耳にした時は、そのアグレッシヴさに、ヤリ過ぎ?とも思ったのだけれど、今、改めて聴き直してみると、それはありがちなピリオドの過激さとは一味違うのかも。カール・フィリップ・エマヌエルが書き込んだ音符のひとつひとつを、丁寧に拾い上げ、そのひとつひとつをより大きなひとつとして響かせる... 細胞レベルで活性化されたカール・フィリップ・エマヌエルの音楽が繰り広げられているのかも。となると、ヤリ過ぎ?とも感じたアグレッシヴさの一方で、カール・フィリップ・エマヌエルが込めていたちょっとした動き、影に隠れていた音がワっと蠢き出し、思い掛けない迫力となって迫ってくる。これまで、古典派の交響曲に比べれば、どこか単純にも感じていたその「シンフォニア」が、よりシンフォニックに響いて、交響曲の風格を見せる!そんな、マンゼによって、力強く捏ねられたカール・フィリップ・エマヌエルの音楽は、バロックと古典派の中間点で乱反射を起こし、思わぬ輝きを見せる。
それから、忘れてならないのが、マクギリヴレイのチェロによるコンチェルト(track.7-9)。イングリッシュ・コンサートに負けない、その充実の響きは、鮮やかで見事!

C.P.E. BACH 4 SYMPHONIES ・ THE ENGLISH CONCERT ANDREW MANZE

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : シンフォニア 第1番 ニ長調 Wq.183-1 H.663
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : シンフォニア 第2番 変ホ長調 Wq.183-2 H.664
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : チェロ協奏曲イ長調 Wq172 H.439 *
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : シンフォニア 第3番 ヘ長調 Wq.183-3 H.665
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : シンフォニア 第4番 ト長調 Wq.183-4 H.666

アリソン・マクギリヴレイ(チェロ) *
アンドルー・マンゼ/イングリッシュ・コンサート

harmonia mundi FRANCE/HMU 907403




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