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スペイシー・マスター・ベートーヴェン/リアル・ヤング・シューマン [2006]

2006年を振り返り始めての4回目... 6年前というのは、近いようで遠い...
あの頃のクラシックは、まだまだ元気だった!という、クラシックの変化もさることながら、聴く側、自身の変化にも気が付かされる。例えば、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くようになったのは、この6年かもしれない。それまでは、ぼんやりと苦手意識があった。単に聴かず嫌いだったのか?それとも、聴く側の感覚が変わったのか?それからシューマン... 交響曲はよく聴いていたけれど、全体として、何となく取っ付き難い印象を持っていた。それが、今は、シューマンという存在を、消化できるようになった気がしている。つまり、クラシック・ファンとして、成長があったのか?単に、年を取っただけなのか?微妙なところではあるのだけれど。6年前にリリースされたアルバムを引っ張り出して、そこに6年前と違う感覚を持つ自身を発見し、興味深くも、ちょっぴり、感慨に耽ってみる。
そんな、2006年にリリースされたアルバム、2タイトル... 内田光子が弾く、ベートーヴェンの最後の3つのソナタ(PHLIPS/475 6935)と、エリック・ル・サージュが弾く、シューマンの初期の作品を集めた"An Clara"(Alpha/Alpha 098)を聴き直す。


ベートーヴェンの到達点、内田光子による最後の3つのソナタ。

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始まりの、30番のソナタの1楽章、最初の音から、なんてやさしいのだろう... 久々に聴いてみて、よりそんな思いになる、内田光子のベートーヴェンの最後の3つのソナタ。いや、いろいろベートーヴェンのソナタを聴いてみて、今、改めて聴く、内田光子による不思議なベートーヴェン像に、驚かされて...
ベートーヴェンが行き着いた、あの希有な音楽世界が、内田光子の両の手に掛かると、またさらに希有なものとなるのか。他のピアニストが弾いた最後の3つのソナタと比べると、同じ作品なのだろうか?と、錯覚すら覚えかねない。ひとつひとつの音が磨き上げられ、やわらかな光を発するような、内田光子ならではのタッチ。そのやわらかな光が、作品の元の形の輪郭を見失わせて、心地よい感触だけを残す... そうして、聴き知った曲を、あらゆる柵から解き放ち、フワフワと宙を漂わせて、やがて聴く者をやさしく包み込んでしまう。包まれての安心感というのか、そうして得られる安らぎのようなものは、なかなか他では味わえない。一方で、そんな内田光子のマイペースさに捉えられ、最後の3つのソナタに籠められた希有な音楽世界は、より広がりを見せ始め... 楽聖の、形に捉われることなく、想像の趣くままにペンを走らせただろう、多少、奔放にも感じられたスコアは、内田光子によってステレオタイプからふわりと離陸したことで、初めて完成をみたような気もしてくる。ベートーヴェン像が崩されてこそ、ベートーヴェンの求めた音楽世界が出現する?ちょっと、そんなことも夢想してみたり。
しかし、その希有な音楽世界... どこか達観しつつ、全ての人生を愛おしむような温かさに充ち溢れた一音、一音が生み出す、親密で壮大なスケール感!「楽聖」なんて、最もらしく、厳めしく呼ばれているベートーヴェンなわけだが、やっぱり、音楽の聖(ヒジリ)なのかもしれない... 最後の3つのソナタを聴いていると、他のどの作曲家も到達し得なかった場所へと到達したのだな。と、感じ入ってしまう。そして、今さらながらに感動しつつ、どこかで、心休まるような感覚にもなり、不思議。

BEETHOVEN: PIANO SONATAS OPP.109, 110 & 111
MITSUKO UCHIDA


ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op.109
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111

内田光子(ピアノ)

PHILIPS/475 6935




シューマンの出発点、ル・サージュの"An Clara"。

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昨年、完結した、ル・サージュによる、シューマンのピアノ作品と、ピアノを含む室内楽作品を丁寧に追ったシリーズ... その第1弾となったアルバム、"An Clara"。クララのために... ということで、天才少女ピアニスト、クララ・ヴィークにインスパイアされたシューマンの初期の作品を収録した1枚。だが、今、改めて聴いてみると... その少し上ずったような初々しさというのか、何とも言えない甘酸っぱさが広がり、ちょっと、気恥ずかしくなってみたり。いや、ル・サージュの、明るくクリアな音色は的を射て、魅力的!
始まりの『蝶々』(track.1-12)の愛らしさ、続く、ダーヴィト同盟舞曲集(track.13-30)の優雅さ、6つのインテルメッツォ(track.31-36)でのちょっとした昂り... シューマンとクララの恋は成就したとはいえ、困難な道を辿ったわけで、その過程での、なかなかスマートにはいかないシューマンの姿が目に見えるよう。フランスのピアニストならでは... というと、ちょっと安易かもしれないけれど、恋愛に長けたお国柄(ル・サージュがどうかはさて置き... )を感じさせるル・サージュのタッチは、"恋"というものを前にした、夢想と現実と、地に足の着かないような感覚を、さらりと鍵盤上に繰り広げていて。フランスのこなれた余裕から、少し不器用なドイツのロマンティックを捉えれば、肩の力の抜けた、等身大のシューマンを見出せたようで、興味深い。
ぼんやりと覆う仄暗さや、一筋縄ではいかない気分の斑というのか、ロマン主義にあって、シューマンの音楽には、独特のトーンがある。その独特さに、ここにきて、やっと寄り添えるようになってきたかなと... そうしたところから聴く、ル・サージュのシューマンは、改めて、新鮮だった。リアル・ヤング・シューマン(かどうかは、想像の域を出ないのだけれど... )なんて言ってみたくなる、どこか、はにかみながら輝くサウンドは、何とも愛おしく、それとなしに共感を誘い、魅了されずにいられない。
ところで、ダーヴィト同盟舞曲集、第2部、5曲目、「優雅に歌いながら」(track.26)の、天国的に美し過ぎるメローさに、ヤラレる... このスウィートさは、ちょっとクラシック離れしているのかも... この1曲だけで、満足できてしまいそうな魔法を感じる...

SCHUMANN An Clara
Eric Le Sage


シューマン : 蝶々 Op.2
シューマン : ダーヴィド同盟舞曲集 Op.6
シューマン : 6つのインテルメッツォ Op.4

エリック・ル・サージュ(ピアノ)

Alpha/Alpha 098




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