SSブログ

死から生を見つめる、シューマンのファウスト... [2011]

8572430.jpg
シューマンというと、何となくピアノのイメージがある。それから、交響曲。そして、歌曲も...
一方で、オペラやオラトリオ、ミサなど、規模の大きい声楽作品のイメージは薄い。もちろん、無いはけではないけれど、数は多くなく、あまり聴く機会はない。となると、どんなものだろう?と、かえって気になってしまう。そうして体験した、オラトリオ、『楽園とペリ』や、『ばらの巡礼』は、本当に素敵な作品で、シューマンのイメージが広がるようであった。そして、残されていた未体験の規模の大きい声楽作品、ゲーテの『ファウスト』からの情景... 時折、シューマンの最高傑作では?という書き方をされており、ずっと気になっていた作品だったのだが、新たな録音をすっかり見逃していたことに、先日、気付く。それが、昨年の春にリリースされていた、アントニ・ヴィト率いる、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団と合唱団らによる、シューマン、ゲーテの『ファウスト』からの情景(NAXOS/8.572430)。ポーランド勢による、気になるシューマンの最高傑作?を聴く。

まさしくドイツ・ロマンティックな見事な序曲で幕を開ける、ゲーテの『ファウスト』からの情景。序曲は以前にも聴いていたけれど、改めて聴いてみると、こんなにも立派だった?!なんて、少し驚いてみる。まるで交響曲の1楽章のような、そんな気合の入りようで、一体、何が始まるんだ?という雰囲気... いや、本当に、何が始まるんだ?という思いも... "ゲーテの『ファウスト』からの情景"とは、何とも掴みどころの無いタイトルである。オペラでもないようで、オラトリオでもないのか、その中途半端さが、何ともベルリオーズちっく(文学大作を、散文的に音楽作品に仕上げたがる?)な印象を受けるのだけれど... どうなのだろう...
いや、思いの外、オペラ風!に、ちょっと拍子抜けしてしまう。リストのファウスト交響曲や、マーラーの「千人の交響曲」など、『ファウスト』にインスパイアされた作曲家はたくさんいる。また、そうした作品は、オペラになるよりも、ドラマを超越した形で音楽と結ばれることが多く... シューマンでも、どこかで、そんな、超越したものを期待していたのだが。もっと、文学的にとぐろを巻いたような音楽を聴かせるのかと思いきや、キャッチー。また、2つのオラトリオのような透明感を期待すると、しっかりとしたドラマが濃厚に迫りくるようで、ヘヴィー。イタリア・オペラが席巻していた頃の、ウェーバーの『魔弾の射手』の進化系?ワーグナーが独自の音楽世界を切り拓く直前の気分というのか、なかなか捉え難い当時のドイツのオペラ・シーンの温度感を知るような、興味深さがある。というより、これならば、もっとオペラを書けばよかったのに... とも思う。十分にメローで、充実したドラマをじっくりと展開する音楽は、システマティックに運ぶ、イタリア的、商業的、ナンバー・オペラとは違う流麗さを見せ、かつ、シアトリカルな醍醐味を表現し得て、聴き応えは十分。なのだが、ファウストの死(disc.1, track.7)を経ての、第3部、ファウストの変容(disc.2)では、天上へと上昇してゆくような荘厳な世界が描かれ、オペラティックさは薄れ、古典的なオラトリオの雰囲気に包まれ、瑞々しい音楽が展開される。そして、その生と死のコントラストが、おもしろい。
さて、ゲーテの『ファウスト』からの情景について、NAXOSのCD帯紹介文を読むと、また見方が変わるのか... シューマンは、この大作を、フィナーレの神秘の合唱(disc.2, track.7)から書き始めたとのこと。そこから、9年の歳月を掛け、シーンを遡りながら作曲を進め、最後に序曲を書いたことに。つまり、死から生へと音楽を書き進めたわけだ。だからか、第1部、第2部の、生きているファウストの、死を知り、生を愛しむかのような落ち着きが印象的で。第3部から振り返れば、オペラティックではありながらも、深く人間を捉えたドラマが、思いの外、充実したものとして聴こえてくるのだなと... どこかで衝動的なシューマンとは違う、地に足の着いた落ち着きに、納得させられる。一方で、ピュアな輝きを放つ第3部の瑞々しさには、まだ若かったシューマン、ロマン主義の春の頃が捉えられているようで、魅惑的。そこからやさしく盛り上がるフィナーレが、感動的。
そんなシューマンを、きちっと形作ってくるヴィト+ワルシャワ・フィルらの仕事ぶりが、見事!ヴィトならではの明晰さと、ワルシャワ・フィルのクリアさが、なかなか取り上げられる機会に恵まれないシューマンの大作を、丁寧かつ、魅力的に響かせていて。特に、第1部、第2部のドラマティックなあたりの、無理なく、ナチュラルに、きっちりとドラマを推進させてゆくあたりは、印象的。また、歌手陣もすばらしく... NAXOSだけに、派手にスターがキャスティングされているわけではないが、実力派がきっちり揃えられていて。特に、ファウストを歌う、フィンランドのバリトン、コルテカンガスの伸びやかで甘やかな歌声は素敵。第3部でのマリア崇拝の博士(disc.2, track.3)として歌うシーンの穏やかな表情は忘れ難い。そして、オーケストラ、コーラス、歌手陣が一体となって、フィナーレに向け、丁寧に感動を紡ぎ出す姿が心に残る。

SCHUMANN: Scenes from Goethe's Faust

シューマン : ゲーテの 『ファウスト』 からの情景 WoO 3

イヴォナ・ホッサ(ソプラノ)
クリスティーネ・リボー(ソプラノ)
アンナ・ルバンスカ(アルト)
エヴァ・マルシニク(アルト)
ダニエル・キルヒ(テノール)
ヤーッコ・コルテカンガス(バリトン)
アンドリュー・ガンゲスタッド(バス)
ワルシャワ・フィルハーモニー合唱団、ワルシャワ少年合唱団
アントニ・ヴィト/ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS/8.572430




nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。