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浄められる、ベルリオーズのレクイエム... [2011]

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ベルリオーズのレクイエムというと、キワモノ的イメージがある...
ベルリオーズという存在自体が、すでにキワモノのようにも感じなくもないが、そのレクイエムとなると、もう、何だろう、ヤリ過ぎ?4つのバンダ、8対のティンパニ、などなど、異形とも言えるメガロマニアックさ!だが、これこそがロマン主義のようにも感じる。巨大なオーケストラ、コーラスで、大聖堂を揺らすほど鳴らして、死者を弔う。それも、戦場で倒れた兵士たち、ヒーローの弔い(弔うべき死者を探したという紆余曲折の背景を知ってしまうと、ヒーローのために!という高潔さは半減してしまうのだけれど... )であって、英雄の死というカタストロフと、それをこれ以上なく巨大なサウンドで、劇的に送り出して生まれるカタルシス。まるで、ワーグナーの楽劇のフィナーレか?いや、これぞベルリオーズ!ロマン主義に最も忠実だったからこそ、キワモノになってしまうのかもしれない。
そんなベルリオーズのレクイエムを、ピリオドで... という、さらにキワモノ感、極まって... ポール・マクリーシュ率いる、イギリスのピリオド・アンサンブル、ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズらによる、ベルリオーズのレクイエム(signum CLASSICS/SIGCD 280)を聴く。

イギリスのピリオドならではの、端正かつ上質なサウンドで、ルネサンスから古典派まで、幅広いアルバムの数々をARCHIVからリリースし、魅了した、マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ。新たな活躍の場として、signum CLASSICSに移っての第1弾が、ベルリオーズを取り上げると聴いて、多少、不安に... それも、レクイエム... 先日、聴いた、ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの「イタリアのハロルド」(naïve/V 5266)は大成功だったけれど、ピリオドでのベルリオーズのレクイエム、果たして可能なのだろうか?というより、あの巨大にして、時代の徒花的作品を、ピリオドで捉える必要があるのだろうか?と、いろいろ考えるのだったが... 聴いてみれば、何だか、あっさりと裏切ってくれる...
その、マクリーシュ+ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズによる録音、マクリーシュが芸術監督を務める、ポーランド、ヴロツワフ、ヴラティスラヴィア・カンタンス音楽祭でのライヴとのこと。で、さすがにガブリエリ・コンソート(コーラス)&プレイヤーズ(オーケストラ)だけでは、巨大作品に対応できないわけでして、バンダにはイギリスから学生たちを、オーケストラはピリオド対応可のヴロツワフ・フィル(楽器を持ち替えればヴロツワフ・バロック管... )で補強。コーラスもまたヴロツワフ・フィルの合唱団で補強。イギリスとポーランドによる混成チームによるレクイエムとなっている。そして、この混成チームが、思わぬ透明感あるサウンドを織り成していて。そうしたサウンドを巧みに繰って、この巨大なレクイエムに隠れていた瑞々しさを引き出すマクリーシュ。
各所に仕掛けられたギミックさというか、黙示録的な苛烈さで、聴く者を嚇してくるようなあたりを、まるでコリでも解すかのように、肩の力を巧みに抜いて、全体の流れをよりスムーズなものとしてしまう。巨大である一方、実は、その巨大さを統率するため、シンプルでもあるこのレクイエムの姿を改めて見つめ直し、虚勢を張るのではなく、素直に鳴らしてみたならば... そんなマクリーシュの無理の無い、それでいて、これまで取れなかったスタンスが、ベルリオーズのレクイエムに新たなイメージを生み出す。
それは、巨大な大河が、海へと滔々と流れてゆくようなイメージか... 派手さではなく、揺るぎなさが、どのシーンにおいても貫かれる。もちろん、ティンパニが轟くディエス・イレ(disc.1, track.2)は盛り上がるし、レクス・トレメンデ(disc.2, track.4)は輝かしい。が、山場をやたら強調することなく、常に全体が視野に入れられ、そうした全てを力むことなく、どこか無欲に、奏で、歌い、深い感動を呼び起こす。だからこそ、テノール・ソロが穏やかに朗々と歌い上げるサンクトゥス(disc.2, track.3)が映える!クェレンス・メ(disc.1, track.5)といったア・カペラが胸に響く... そして、美しい!黙示録的なおどろおどろしさではなく、このレクイエムが持っていた、素直な美しさこそが、思い掛けなくクローズアップされ。すると、全体がやさしく輝き出し、聴く者を包み込む。ふと気付けば、祈りそのものをこのレクイエムに、この演奏に感じて、少し不思議な心地にもなるのか。いや、あまりいろいろと考えることなく、考えていたことはすっかり忘れ、ただシンプルに感動してしまった。
今、あらゆることが、上手く立ちゆかなくなっている。ニュースを見れば、正直、どうにでもなれと、投げやりな気持ちにもなる。そんな気持ちを、このレクイエムは、巨大な流れで以って、押し流してくれるのか?2枚組を一気に聴けば、どこか浄化されるよう。そして、ベルリオーズのレクイエムそのものも、マクリーシュによって憑き物は落とされ、もはやキワモノではない... のかも...

McCREESH ● Berlioz 1837

ベルリオーズ : 死者のための大ミサ Op.5

ロバート・マーレイ(テノール)
ガブリエリ・コンソート、ヴロツワフ・フィルハーモニー合唱団
チータム音楽学校シンフォニック・ブラス・アンサンブル
ポール・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート
ヴロツワフ・フィルハーモニー管弦楽団

signum CLASSICS/SIGCD 280




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