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響き出す19世紀のパノラマ... ミンコフスキのベルリオーズ... [2011]

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フランス・ピリオド界の鬼才、マルク・ミンコフスキ(b.1962)。
新たな世代のマエストロとして、とにかく尖がって、クラシックを掻き回して、埋もれていた活きのよさを掘り起こし、驚かされ、魅了されてきたわけだが、彼も今年で50歳... もはや新たな世代と言うには無理がある。というより、今、まさに、クラシックを背負うベテランのひとりとして、ピリオドの枠に限らず活躍(この夏には、オーケストラ・アンサンブル金沢に客演の予定があったり、ちょっとびっくりしているのだけれど... )。そんなマエストロによる久々のベルリオーズ... アントワーヌ・タムスティのヴィオラで、「イタリアのハロルド」と、アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・ソプラノ)が歌う、『夏の夜』(naïve/V 5266)を、マルク・ミンコフスキのピリオド・オーケストラ、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏で聴く。

まずは、タムスティのヴィオラで、「イタリアのハロルド」(track.1-4)なのだが... 多少、強引に感じていたこの作品の印象が変わる!ヴィオラ協奏曲?交響曲?と、その煮え切らなさに、劇的なチャイルド・ハロルドの物語を追う展開が、妙に劇的過ぎて、何となく座りが悪い?キャッチーなフレーズがいろいろありつつ、どこか取っ付き難く感じていた。が、ミンコフスキの手に掛かれば、あまりにナチュラルに、全てがひとつの作品の中に存在していて、無理が無い。それでいて、19世紀が孕む禍々しさ(革命後、貴族階級に取って代わろうとするブルジョワジーの似非貴族ぶりというのか... 『レ・ミゼラブル』と『椿姫』の時代の錯綜とバブル... )のようなものが顔を覗かせて、刺激的... 文学を引用する格調の高さと、それらを大仰に展開するチープさ、ロマン主義ならではの歌謡性と、反動と革命と帝政の狂騒。ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルによる「イタリアのハロルド」は、ベルリオーズが生きた時代の生々しさを鮮やかに写し出すようで、そのパノラマ感に魅了されずにいられない。
もちろん、タムスティのヴィオラもすばらしく。やがてオーケストラに融け込んでしまうヴィオラ・ソロではあるが、その存在感は絶妙で、スポットが当たれば深く艶やかな音色を奏で、聴き入らずにいられなく、それでいてさり気なくもあり、存在を消してしまうことにも長けている自在さ... タムスティの優れたバランス感覚が、ミンコフスキの「イタリアのハロルド」をナチュラルにまとめることに大きく貢献しているのは間違いない。しかし、この作品、ヴィオリストにとって重要なレパートリーのひとつであるわけだが、反面、ソリストとしては何とも分の悪い作品だ。ミンコフスキが巧みに音楽を運んでしまうと、ソリストは贅沢なサポート・メンバーのひとりとなってしまい。いや、だからこそ、この作品を、今一度、見つめ直し、印象は変わり、おもしろい!と感じることができるのだけれど...
そして、フォン・オッターが歌う、『夏の夜』(track.5-10)なのだが、「イタリアのハロルド」とは少し趣きを異にして、ドライに聴かせるミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル。豊かなイマジネーションを喚起するオーケストラ伴奏の歌曲集だが、そういう絵画的な性質を抑えて、フォン・オッターの歌を淡々とサポート。魅惑的な歌曲の数々を、詩を朗読するような落ち着きでもってまとめてくる。フォン・オッターもベルリオーズのロマンティックな音楽を丁寧に歌い、より文学的な気分を引き出すのか。若い頃、レヴァインの指揮で歌った時の瑞々しさは、やはり過去のものになってしまったが、詩への向き合い方は、より深いものを感じ、印象的。そして、最後は、タムスティのヴィオラとともに歌うトゥーレの王のバラード(track.11)。このバラードのメロディックさを引き立てて、少し妖しげに、ヴィオラの艶やかなあたりと戯れるように歌うあたりが、『夏の夜』とはまた一味違い、素敵。

さて、ミンコフスキのベルリオーズ... というと、2003年、ベルリオーズの生誕200年のメモリアルに、華々しくリリースされた幻想交響曲(Deutsche Grammophon/474 209-2)が思い出される。が、それは、彼が率いるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルと、彼との関係が密であったマーラー室内管との混成チームによる演奏で... ロマン主義の鬼才、ベルリオーズを、ピリオド界の鬼才、ミンコフスキが振れば、刺激的なものになるはず!とは、誰もが想像できただろう。一方で、バロックもので刺激的なパフォーマンスを繰り広げていたレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルが、フランス革命を越えてロマン主義に踏み込むには、2003年の段階では、まだ早かったのか?そのあたりを、マーラー室内管で補強すれば、乗り越えられるはず... というレーベルの思惑が透けて見えもし、混成チームによる幻想交響曲は、どこかで消化不良な気持ちを抱えたまま聴いたことを覚えている。
それから、時を経て、今、改めて聴く、ミンコフスキのベルリオーズ... まったく堂に入ったベルリオーズを響かせるレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏に、胸すく思い!いつもながらのキレに、艶と、鮮やかさ... ピリオド・オーケストラだからといって、変にタイトな方向へと走るではなく、オーケストラとしての厚みを大切に、豊かな表情を紡ぎ出す。それは、幻想交響曲での消化不良を解消してくれる魅惑的なサウンドで、ミンコフスキの創設したピリオド・オーケストラだからこその、隅々までにミンコフスキの意思が通った納得の演奏。期待通りの"ミンコフスキのベルリオーズ"を実現してくれている。

berlioz Les Nuits d'été - Harold en Italie
ANNE SOFIE VON OTTER ANTOINE TAMESTIT
LES MUSICIENS DU LOUVRE ・ GRENOBLE MARC MINKOWSKI


ベルリオーズ : 交響曲 「イタリアのハロルド」 Op.16 *
ベルリオーズ : 歌曲集 『夏の夜』 Op.7 *
ベルリオーズ : トゥーレの王のバラード 〔『ファウストの劫罰』 Op.24 より〕 **

アントワーヌ・タムスティ(ヴィオラ) *
アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・ソプラノ) *
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

naïve/V 5266




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