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ドビュッシーの時代。 [2006]

さて、今年は、ドビュッシーの生誕150年のメモリアル!
すでに、気になるボックスやら、アルバムがリリースされ、今後の盛り上がりを大いに期待しているのだけれど... そうした中で、ピリオド・アプローチによるドビュッシーというのが気になる。今やシェーンベルクまでもがピリオドの範疇、印象主義あたりをピリオドで取り上げたとしても、そうショックを受けることはない。というより、1900年前後のアンティークなトーンで、ドビュッシーの音楽を捉えたならば、雰囲気のあるものになるのでは?現代にあってクラシックを聴くということは、近代はすでに過去のピリオド... その近過去のノスタルジックさが、作品の旨味になるならば、俄然、ドビュッシーはピリオドの範疇にあって活きてくるように思うのだが...
そんなアルバムを期待しつつ、2006年にリリースされた、ピリオド・アプローチによるドビュッシーの時代の音楽を引っ張り出す。ジョス・ファン・インマゼール率いる、アニマ・エテルナによるラヴェルのボレロ(Zig-Zag Territoires/ZZT 060901)と、笛をテーマに、フランスのサロン音楽をピリオド楽器で響かせる"UNE FLÛTE INVISIBLE... "(Alpha/Alpha 096)を、聴き直す。


ピリオド・オーケストラが、オーケストラの魔術師、ラヴェルに挑むと...

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今や、プーランク(Zig-Zag Territoires/ZZT 110403)までもレパートリーとする、インマゼール+アニマ・エテルナ。だが、2006年、ボレロをピリオド・オーケストラで... と、聞いた時は、驚かされた。というより、オーケストラの魔術師、ラヴェルである。誰よりもオーケストラの機能性を発揮することに長けた作曲家の作品に、「ピリオド」が入り込む余地はあるのだろうか?と、疑問を感じつつ、入り込めるならば、それはどんなラヴェルになるのだろうか?と、興味津々で... そうして聴いたボレロだったが...
モダン・オーケストラの洗練された響きが奏でるラヴェルに慣れていると、大いに調子が狂ってしまうインマゼール+アニマ・エテルナのボレロ。それは、単調な音楽をスムーズに、やがてダイナミックに盛り上げて、圧巻のフィナーレへ、という予定調和(?)に揺さぶりを掛けてくる演奏?まず、そのリズムなのだけれど... 冷徹に刻むのではなく、どこか朴訥、で、どこか不器用。けしていい加減なわけではないけれど、ピリオド楽器の不自由さが、どこかでリズムのキレを鈍らせるのか... そこに、ピリオド楽器ならではの、ひとつひとつに個性の強い響きが乗せられて、何ともスマートさを欠きながら、じわりじわりと膨れ上がる。それは、ちょっと滑稽で、愛らしさすら感じられるボレロで。おかげでこの作品の単調さは、あっさりと吹き飛んでしまう。ピリオドであるがゆえの、それぞれの楽器のキャラクターがフルに活かされ、同じフレーズが繰り返されても、ひとつとして同じにならない... それどころか、ひとつひとつ違うからこその旨味がしっかりと出て。そうして紡がれるボレロは、モダン・オーケストラでは表現し得ない音楽性を取り戻してさえいるようであり、実に興味深く、その聴き応えはとても不思議。
さて、ボレロの後は、亡き王女のためのパヴァーヌ(track.2)、左手のためのピアノ協奏曲(track.3)、スペイン狂詩曲(track.4-7)と、まさにラヴェルの世界を堪能する代表作の数々が並ぶのだけれど、これらがまた、モダン・オーケストラの整えられてしまったサウンドでは得られない温もり、情緒を漂わせて。さらには、ピリオド楽器なればこその癖が、何気ない瞬間、存在感を示し、妙に眩惑してくるようなところがあり、オーケストラの魔術師の煌びやかなオーケストレーションのイメージが少し変わるよう。そして、最後のラ・ヴァルス(track.8)は特におもしろい... インマゼールならではというのか、律儀に3拍子を刻むようなところがあり、よりワルツ(ヴァルス)な仕上がりで、大いに3拍子を揺らして、崩して、雰囲気を出すこれまでのイメージを裏切ってくる。妙にクリアになった姿を曝け出しつつ、ピリオド楽器の癖が、そのまま妖しげに3拍子を刻み、この作品が孕むおどろおどろしさを、別の切り口から描き出してしまうのが新鮮。で、それらを飄々と形にしてしまうインマゼール+アニマ・エテルナのマイペースさに、妙に感心させられ。いつの間にやら、いい具合に彼らのペースに巻き込まれて、少しチープ(思い掛けなく!)に、それでいて人懐っこく響くラヴェルに、魅了されてしまう。
さて、インマゼール+アニマ・エテルナによるドビュッシーのアルバムのリリースは、いつになるのだろう?今から待ちきれないのだけれど...

RAVEL ・ ANIMA ETERNA ・ IMMERSEEL ・ CHEVALLIER

ラヴェル : ボレロ
ラヴェル : 亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル : 左手のためのピアノ協奏曲 *
ラヴェル : スペイン狂詩曲
ラヴェル : ラ・ヴァルス

クレール・シュヴァリエ(ピアノ : 1905年製、エラール) *
ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ

Zig-Zag Territoires/ZZT 060901




ピリオド楽器が魔法を掛ける、象徴主義の頃のサロン音楽...

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"UNE FLÛTE INVISIBLE... "、見えない笛... 謎めくタイトルに、何だろう?と、吸い寄せられるように手に取ったアルバム。再生ボタンを押し、流れ出す、スホーンデルヴルトが弾くエラールのピアノの響きを耳にした瞬間、何か魔法の小箱でも開けてしまったような、そんなファンタジーが広がる。
「ほら、目には見えないけれども、笛の音ひとすじ... 」、ユゴーの書いた詩(解説を読むと、特筆するほどのものでもないらいしい... )からインスピレーションを受けた歌曲(ゴダール、ピエルネ、カプレ、サン・サーンスによる)の数々... その詩に綴られた「笛」に、パンの笛(ドビュッシーのシランクスなど... )を見出し、古代ギリシア(ドビュッシーの6つの古代碑銘)へと思いを馳せ... そんなアルカイックで神秘的な世界を賛美した、象徴主義のアーティストたちが集うサロンを再現するのか。遠い世界へとイマジネーションを刺激する響きと、サロンのスノッブな気分を伝える響きが相俟って、独特の雰囲気を醸し出す"UNE FLÛTE INVISIBLE... "。その揺るぎない落ち着き、贅沢な気だるさに、現代を忙しなく動いている我々にはあり得ない、純然たるポエジーが匂い立ち、ただならず酔わされてしまう。まさに、目には見えないけれど、ディスクを一度掛けてしまえば、まったく違う次元へとジャンプできてしまうような、圧倒的な音楽世界。サロン音楽(何となく軽薄なイメージが... )に、これほどまでのものを期待していなかったものだから、ただただ、驚かされる。この1枚のアルバムに織り込まれた、世紀末、フランス芸術の爛熟を、詩と音楽で聴かせる巧妙で緻密な仕掛けは、一筋縄ではいかない... が、そうした説明、知識など、まったく必要とせず、存在するだけで薫り出す作品の数々に、不意打ちを喰らったような気さえしてくる。
そして、それらを、何気なく、そつなく歌い、奏でる4人のアーティストたち... わずか4人で、これほどのイマジネーション豊かな世界を紡ぎ出してしまうとは... その、1枚のアルバムにまとまった時の、圧倒的な音楽世界を生み出し得るそれぞれの技量、音楽性にも、ただただ驚かされる。このアルバムの主役?「笛」、タルエの、媚の無い可憐なピリオドのフルートは、抑えた艶やかさが印象的。ラミの明るいテノールの、爽やかな風情。ピオーのいつもながらクラッシーで、かつやわらかなソプラノも、18世紀モノばかりでない、彼女の幅を存分に聴かせてくれる。また、当たり前なのだが、フランス語が本当に美しく響いて、つい聴き惚れてしまう... そして、アルバム全体を包む深いポエジーの土台を聴かせるスホーンデルヴルトのピアノ、その落ち着いたタッチ。そこはかとなしにアンティークなトーンは、思いの外、深い味わいを見せ、そこから発せられる色彩は、モダンの万能のピアノとは違うトーンで、少し翳を混ぜ込みながら、より繊細に、より多くの色を響かせる。このアルバムに魔法を掛けるのは、やはりスホーンデルヴルトのピアノだろうか。改めて、この人のピアノに魅了される。
しかし、マニアックなアルバムである。当然、凝っていている。が、絶妙な構成で聴かせるそのセンスたるや!ドビュッシーの『6つの古代碑銘』に、フルートと歌を巧みに織り込んで、1曲、1曲を丁寧に引き立てれば、そのマニアックさを魔法で消してしまう?希有な1枚だ。

UNE FLÛTE INVISIBLE...
Piau - Lamy - de Talhouët - Schoonderwoerd


ドビュッシー : 第1の古代碑文 「牧羊神を呼び出すための」 *
カプレ : ちいさなワルツ **
ドビュッシー : 牧羊神の笛 **
ドビュッシー : 第2の古代碑文 「蛇使いの踊り手たちのための」 *
ルーセル : 牧羊神の歌 **
ゴダール : ほら! **
ドビュッシー : 第3の古代碑文 「夜よ親しみ深くあれと願って」 *
ドビュッシー : 髪の毛 **
ルーセル : 夜鶯、いとしいおまえ **
ピエルネ : 3つの小唄 **
ドビュッシー : 第4の古代碑文 「或るエジプト女のための」 *
カプレ : 夢 **
ドビュッシー : 牧神 **
サン・サーンス : 見えない笛 ***
ドビュッシー : 第5の古代碑文 「名もなき墓のための」 *
ドビュッシー : 水妖たちの墓 **
ドビュッシー : シランクス *
カプレ : ほら、目には見えないけれども、笛の音ひとすじ **
ドビュッシー : 第6の古代碑文 「朝の雨に感謝をささげて」 *
カプレ : 聞けよ、わが心 ***
ルーセル : 天よ、大気よ、風よ **
サン・サーンス : ほら! ***

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ) *
エルヴェ・ラミ(テノール) *
ジル・ド・タルエ(ベーム式フルート) *
アルテュール・スホーンデルヴルト(ピアノ : 1907年製、エラール) *

Alpha/Alpha 096




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AM

インマゼールとアニマ・エテルナのドビュッシーは、公式サイト(URL参照)の1/31付けの記事によると9月の発売が予定されています。
また、サイトからリンクが貼られているベルギーのニュース映像では、僅かながら演奏シーンも見ることが出来ます。楽しみですね。
by AM (2012-02-07 22:50) 

genepro6109

AMさん、コメントありがとうございます!

ドビュッシーのアルバム、9月なのですね。待ちきれない...
そして、早速、映像、見ました!一瞬でしたが、ワクワクさせられました。
演奏シーン、つい、何回も見てしまいました。本当に楽しみです。
by genepro6109 (2012-02-08 01:13) 

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