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"ODISEA NEGRA" [2011]

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近頃、クラシックの中に、ワールド・ミュージックをいろいろ見つけることができて、おもしろい。
例えば、サヴァール... この古楽の巨匠は、毎年のようにワールド・ミュージックの範疇にあるもの(最新盤は、得意の環地中海音楽... )を取り上げていて、興味深い音楽の広がりを聴かせてくれる。あるいは、プルハル... ラルペッジャータを率いて、ワールド・ミュージックとの異種格闘技(最新盤では、これまで以上にラテンに踏み込み... )に余念がない。そもそも国民楽派がその走りだった?いや、広義に考えれば、ヨーロッパの"地"から派生したクラシックもまた、ワールド・ミュージックの一部を成しているのかもしれない... というより、「グローバル」なんて最もらしく語られる以前から、音楽は常に異種交配の可能性に充ちた刺激的なものだったわけで... ジャンルに名前を付けて、どこかで区切ることこそナンセンスなのかもしれない。
そんな歴史を振り返る壮大なアルバム... ヨーロッパの船が大西洋を渡り、アフリカとアメリカを結んで生まれた音楽の系譜を追う、意欲作、エドゥアルド・エグエス率いる、気鋭の古楽アンサンブル、ラ・キメラによる"ODISEA NEGRA"(naïve/E 8931)を聴く。

バロック期のスペイン、魅惑的なギター作品を多く残したサンティアゴ・デ・ムルシアの作品で始まる"ODISEA NEGRA"。その、スペインならではのトーンは、すでに既存のクラシックのイメージからは離れ、ワールド・ミュージック的なのだが、さらにさらにワールド・ミュージックへと踏み込んでゆく... パーカッションで切れ目なくつなげられる2曲目は、ベネズエラの伝統の舞曲、ホローポ... 20世紀前半、ベネズエラのフォーク・ミュッジックの音楽家、カルミート・ガンボア(その息子さんが、今、ベネズエラの伝統音楽の有名な音楽家?らしい... のだけれど、ラテン・ミュージックは詳しくなくて... )によるホローポ"La Josa"(track.2)は、まさにラテン!しかし、サンティアゴ・デ・ムルシアとの共通項を聴かせてしまうのが、エグエス+ラ・キメラの凄いところ。
"ODISEA NEGRA"、黒人のオデュッセイアとでも訳すのか... コロンブスによって切り拓かれた大西洋航路による奴隷貿易の悲劇と、その先にある、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカがミックスされて生まれた今のラテン・アメリカまでを、音楽による叙事詩としてひとつに編み上げる。冷静に考えると、それは、まったく以って壮大で、一筋縄ではいかない作業のはずだが、見事なアレンジでまとめ上げてしまうエグエスの力技に感服。そうして聴こえてくる、20世紀のベネズエラ(カルミート・ガンボア)に、18世紀のスペイン(サンティアゴ・デ・ムルシア)が生きている興味深さ... そればかりでない、それぞれの文化が影響し合い混交した歴史の妙... 負の歴史から生み出された豊かな音楽の皮肉... ジャンルを大胆に越境して、めくるめく多彩な音楽をひとつのディスクに盛りつければ、大西洋航路の悲喜交々が深い感慨を以って浮かび上がってくる。ヨーロッパらしいクラッシーさ、アメリカの少しドスを効かせた力強さ、朗らかでやわらかなアフリカ、そして、能天気で、また哀愁を漂わせて、多層的なラテン・アメリカ... どの音楽も仰々しいところはない、というより、たまらず人懐っこく、魅力的なものばかりなのだが、"ODISEA NEGRA"としてひとつになると、それはまさに叙事詩であって、圧倒されてしまう。
しかし、エグエス+ラ・キメラのフットワークの軽さには、驚かされる。古楽アンサンブルというものは、往々にしてそういう性格を有していると思うのだが、ラ・キメラはまたさらに... 何しろ、1枚のアルバムで、大西洋の西と東を、コロンブスの時代から現代までを、自在に行き来してしまう。それを可能とするため、マリンバやベースを加え、響きを補強することを恐れず、民俗楽器も迎え入れ、その名の通り、キメラ的アンサンブルに変身。一方で、ガンバやリュート、テオルボなど、彼ら本来の古楽器の響きが間違いなくアクセントとなっており。そのアルカイックな様が、海がつないだ歴史の深さを探り当てるようであり。また、土に根差した民衆の音楽に寄り添うようでもあり、印象的。何より、歌も含め、活き活きとしたそのサウンドには、ただただ魅了されるばかりだ。
今や、大西洋に限らず、全ての海をつなぎ、グローバルにあらゆることが動いている。地球が一体となり、様々な文化圏に住む人々が交流することは、すばらしい!はずだったが、現状は、グローバル化で苦境に陥っている。ただ単に物事を効率よく動かすためだけのグローバル化... それは誰のためのグローバル化?そうした中で、"ODISEA NEGRA"と向き合うことは、何か、とても意義深いように思えてくる。過去から学ぶこと... そして、あらゆる障壁を乗り越えてしまう音楽のたくましさ... ヒントを見出すというような、分かり易いものではないけれど、そこから某かを感じ取ることができそうな気がする。

ODISEA NEGRA, EL MAR DE LAS MEMORIAS La Chimera Eduardo Egüez

サンティアゴ・デ・ムルシア : Jácaras 〔アレンジ : エグエス〕
カルミート・ガンボア : ホローポ "La Josa" 〔アレンジ : エグエス〕
アブライ・キッソコ : Ali
ガスパール・フェルナンデス : Eso rigor e repente 〔アレンジ : エグエス〕
セネガル民謡 : Fatouyo 〔アレンジ : エグエス〕
ギルバート・バルデス : ハバネラ "Ogguere" 〔アレンジ : エグエス〕
セネガル民謡 : Wouloukamala 〔アレンジ : エグエス〕
ガスパール・フェルナンデス : ネグリーリャ "Dame albriçia mano Anton" 〔アレンジ : エグエス〕
マヌエル・デル・カブラル の 詩 "Ellos"
アブライ・キッソコ : Douna 〔アレンジ : エグエス〕
エドゥアルド・エグエス : メレンゲ "El Mezclao"
ミゲル・マタモロス : ハバネラ "Mariposita de primavera" 〔アレンジ : テルッジ〕
ミゲル・マタモロス : Lágrimas negras 〔アレンジ : テルッジ〕
ニコラス・ギラン の 詩 "Una paloma cantando pasa"
作曲者不詳 : ネグリーリャ "El Congo" 〔アレンジ : エグエス〕
エドゥアルド・エグエス : Quimeras
作曲者不詳 : マンディンカ語 による "El Congo"

エドゥアルド・エグエス/ラ・キメラ

naïve/E 8931




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