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二〇〇七、オペラから... [overview]

2007年を聴き直しての、2007年を振り返っているわけだが...
2007年、どんなアルバムが評価されていたのだろうか?レコード・アカデミー賞、大賞は、ブーレーズの「千人の交響曲」(Deutsche Grammophon/477 6597)。グラモフォン・アウォード、レコード・オブ・ザ・イヤーは、フレイレが弾くブラームスのコンチェルト(DECCA/475 7637)。だった。名曲に、巨匠に、クラシックの王道にまだまだ勢いがあって、DGにしろ、DECCAにしろ、メジャー・レーベルがまだ元気だった頃か... なんて、感慨も過るわけでして。ならば、時が経ち、今を振り返ったなら、どんな感慨が過るのだろう?いや、今、5年後のクラシックを、想像できるだろうか?世の中は、恐るべき過渡期を迎えているわけで、その荒波の中を、クラシックはサバヴァイヴしてゆかねばならないわけで... そんな風に考えてしまうと、2007年が妙にセンチメンタルに見えてくる。
というわけで、2007年。交響曲からピアノまでを振り返った、その続き、オペラから再び始める。
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オペラで印象に残るのは... クレモナージの指揮、ラ・チェトラによるパイジェッロのインテルメッゾ『奥様女中』( Zig-Zag Territoires/ZZT 070102)。まず、その軽やかさに目が覚める!歌手はたった2人、で、一幕物... と、コンパクトなオペラだが、コンパクトな中に、ナポリ楽派ならではのキャッチーさと、ブッファならではの粋な雰囲気が見事に詰め込まれ... それは、もう、18世紀のオペラの結晶!
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ヤーコプスの指揮、フライブルク・バロック管による、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901964)。やっぱりヤーコプスが紡ぎ出すオペラというのは一味違う... 台詞を歌うというエキセントリックさはどこに?というほど、ナチュラルにドラマが紡がれ、次第に熱を帯び、場合によっては汗ばんでしまうような... 粒揃いの歌手たちの見事なパフォーマンスもあって、濃密!オペラにして、オペラを越えた何かがあった。
さて、アリア集でも実に興味深いものがありまして... 18世紀、ヨーロッパ中に旋風を巻き起こしたカストラート、カレスティーニをフィーチャーしたジャルスキーのアリア集"THE STORY OF A CASTRATO CARESTINI"(Virgin CLASSICS/3 95242 2)は、18世紀のスターが歌ったナンバーを追うことで、当時、どんな作曲家が人気だったのかを垣間見ることができ、おもしろく。また、19世紀、ヨーロッパ中を虜にしたプリマ・ドンナ、マリア・マリブランをフィーチャーしたバルトリのアリア集"MARIA"(DECCA/475 9078)では、古典派からロマン派へとうつろう時代の音楽シーンを俯瞰するようなところがあって、おもしろく。ともに、それぞれの時代のリアルなオペラ・シーンに触れることができたのが刺激的だった。
まず、ヘルマン・マックスがおもしろかった!ダス・クライネ・コンツェルト(ピリオド・オーケストラ)、ライニッシェ・カントライ(コーラス)を率いるマエストロは、とにかくマニアック。で、2007年のマエストロは、フンメルのオラトリオ『紅海の航行』(cpo/777 220-2)と、シューマン版のヨハネ受難曲(cpo/777 091-2)を繰り出してきて... 彼ならではのチョイスに、改めて恐れ入った。それにしても、フンメルの活き活きと瑞々しくドラマを描き出す音楽、シューマンによるゴージャスな鳴りっぷりのバッハの受難曲、ともに新鮮だった。
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そして、最も印象に残るのが、2つのバッハのロ短調ミサ... ひとつ目が、バッハ・コレギウム・ジャパンによるロ短調ミサ(BIS/BIS-SACD-1701)。彼らならではの、西洋音楽の伝統を突き抜けた、ニュートラルなバッハ像に、バッハという存在を改めて確認するようで。音楽史に燦然と輝くバッハではない、バロック期、片田舎で奮闘していた等身大のバッハを改めて見つめ、そのヒューマニスティックな音楽に、感動せずにいられなかった...
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もうひとつが、ネザーランズ・バッハ・ソサエティのロ短調ミサ(CHANNEL CLASSICS/CCS SA 25007)。BCJとは対照的な、濃厚な響き... 典礼音楽のはずが、妙にドラマ性を帯びて聴こえてきたり... 煮詰められて、迫力を増すバッハとでも言うのか、それもまたバッハであって... ネザーランズ・バッハ・ソサエティならではの、有機的なアンサンブルが紡ぎ出す独特のトーンに、ただならず酔わされる。
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さて、歌曲でもすばらしいアルバムがあって... ピオーが歌う、近代歌曲集、"évocation"(naïve/V 5063)。フランスと、ドイツ-オーストリアの近代を彩った、多彩な作曲家たちの作品が並びつつ、絶妙にひとつのトーンで聴かせる... そのトーンがまた何とも言えず、眩惑され、まるで夢見るような1枚。ピオーの美しい歌声はもちろんだが、とにかくセンスがいい!こんなにもセンスのいいアルバムは、なかなか無い...
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現代音楽で印象に残るのは... 識別不能な作品、ゲッベルスのオペラ『遠い親戚たちのいる風景』(ECM NEW SERIES/476 5838)。ワールド・ミュージックを玉手箱に詰めてしまったようなキテレツ作品は、世界の縮図?様々な文化を背景に持つサウンドが、インパクトを放つ。が、仕舞には、何とも言えない、センチメンタルにおそわれてしまう、不思議作品でもあって。一度、はまり込むと抜け出せない... この魅力って... 何?
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現代音楽にして、これ以上ないほど美しい... シルヴェストロフの作品集、"Bagatellen und Serenaden"(ECM NEW SERIES/476 6178)。そこに綴られる、シルヴェストロフならではの懐古的なサウンドは、懐古的でありながら、よくよく聴くと、いつの時代を懐古しているのかが見つからない... というより、音楽史を超越していて、まったく以って浮世離れしている。だからこその美しさ... 抗し難く癒されてしまう。
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古楽で印象に残るのは... エドゥアルド・パニアグア+ムジカ・アンティグアによるケルトのカンティーガ集(PNEUMA/PN 820)。スペインが成立する以前、中世のイベリア半島における、キリスト、イスラム、ユダヤの文化が混在して紡がれたカンティーガに、海を越えてケルトがスパイスとなる不思議サウンド!絶妙の配合で、活き活きとした音楽を繰り出して、ただならず魅了されてしまう。
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それから、ペレス+アンサンブル・オルガヌムによるテンプル騎士団の歌(ambroisie/AM 9997)の、唸るような中世の歌声の、強烈な存在感が凄かった... 美しく歌う、という音楽の固定観念を覆す祈りの歌の姿に、生半可でない本物の音楽を見出せた気がする。それは、まるで、某かのパワーが込められたような音楽で... そんな音楽に触れていると、スピリチュアルな体験さえできそうな、そんな気すらしてくる。
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中世の強烈な祈りの歌の一方で、美しく、心休まる祈りの歌が印象的だった、スティレ・アンティコが歌う、イギリス、テューダー朝の時代の終課の音楽(harmonia mundi FRANCE/HMU 907419)。イギリスのルネサンスならではの、やわらかでスウィートな響きは、理屈抜きの美しさ!スティレ・アンティコの若々しく、真っ直ぐな歌声から紡ぎ出されるハーモニーは、ヘイヴンリー!それでいて、どこかセンチメンタルも滲み、忘れ難い。
最後は、クラシックにして、他のジャンルへと越境するような、ボーダーライン上にある音楽を見つめる。が、果たしてこれはクラシックなのか?と、なかなか線引きが難しいのだけれど... いや、そういうものも、クラシックの内で考えれば、クラシックの新たな道が見えてくるような気がしまして...
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ブラスバンドで、シューベルトのリートをやっちまいな!というキテレツ・アルバム、フラヌイの"Schubertlieder"(col legno/WWE 1CD 20301)。そりゃ、元のメロディはシューベルトだったけれど、果たしてこれは何なんだ!という仕分け不能の1枚。だけれど、そういうわけのわからん場所からシューベルトを捉えると、このヘタレな作曲家の本質が浮かび上がるようで、おもしろい。いや、このチープさはヤミツキ!
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最後は、日本の古楽アンサンブル、アントネッロの『天正遣欧使節の音楽』(Anthonello MOOD/AMOE-10004)。タイトルの通り、天正遣欧使節の旅を音楽で追う意欲作。で、その魅力は、ふんだんに盛り込まれた日本の民謡、古謡が、ルネサンス期の西洋の音楽と共鳴し、独特の詩情を生むところ... ワールド・ミュージックと古楽の近しさを再確認しつつ、天正遣欧使節のその後の悲劇を思えば、何とも言えない切なさに包まれて、印象的だった1枚。

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