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もうひとりの12音技法。 [2011]

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今年も、古楽から現代まで、いろいろな音楽を聴いてきた。
となると、クラシックの隅々まで聴いた気になってしまうのだけれど、音楽史の蓄積たるクラシックというジャンルは、そう甘いものではない。ちょっと掘り返すと、次から次へと知らないものが出てきて、常に驚きに充ちている。そして、また驚かされた!ロシア出身の作曲家、ニコライ・オブホフ(1892-1954)。どっかで聞いたことのある名前... とか、そういうレベルでなく、誰すかそれ?くらいの勢いでめぐり合った作曲家は、ちらっと調べてみると、なかなか興味深い。いや、何気にもっと注目せねばならない存在?とすら... で、その思い掛けなく魅惑的な音楽に触れて、はっとさせられることに...
ということで、現代作品で個性を発揮する、ニューヨーク出身のピアニスト、ジェイ・ゴットリーブが弾く、オブホフのピアノ作品集(SISYPHE/SISYPHE 010)を聴いてみる。

ニコライ・オブホフ(1892-1954)。
ロシア、クルスク州の生まれ。後に家族でモスクワに移り、モスクワ音楽院で音楽を学び始める(1911)。その後、サンクト・ペテルブルク音楽院に入り(1913)、シテインベルク、チェレプニンに師事。1918年、ロシア革命を避け、フランスへと渡り、以後、パリで作曲する。のだが、そうした作品の中に、シェーンベルク(1874-1951)よりも前に12音技法を用いたものがあるとのこと... いや、12音技法の先駆者として、もうひとり、ハウアー(1883-1959)の存在は知っていたけれど、やっぱりシェーンベルクのイメージが強いだけに、興味を掻き立てられる。もちろん、このアルバムでも、その作品は取り上げられるのだけれど、その前に...
1曲目、ロマンティックなテイストがメランコリックに崩れ、ミステリアスに漂い出す1番の前奏曲。オブホフは、スクリャービン(1872-1915)の影響を受けているとのことだが、それは、まさに象徴主義を思わせるサウンドで。続く、2曲目、6つの祈り(track.2-7)では、よりそうした色合いが強まり。印象的なのは独特の間... 静謐な佇まいで... 仄暗さの中にも、不思議な透明感を見せ、どこかケクラン(1867-1950)を聴くような感覚を見出すのか。シンプルで短い1曲、1曲の姿を見つめれば、やはり神秘主義に心酔したサティ(1866-1925)を思わせもし。スクリャービンのみならず、フランスでも吸収したセンスが、オブホフ作品をより魅惑的なものに響かせるよう。出発点はロシアだけれど、間違いなくフランスの近代を、より研ぎ澄ましたような音楽がそこにある。
そして、気になるオブホフによる12音技法。フランスに渡る以前の1916年の作品、"Deux invocations(2つの祈り)"(track.32, 33)。シェーンベルクが12音技法を用いる5年前の作品とのこと... で、12音技法ともなれば、オブホフもシェーンベルクもないように感じるわけだが、やはりオブホフらしさはある。シェーンベルクよりも、瑞々しく... シェーンベルクによるシステマティックな硬質さとは一味違って、2つ目(track.33)の方では、どうも「運命」の主題が立ち現れてしまう?このあたりが、シェーンベルク以前の12音技法の途上感だろうか?しかし、ハウアー、シェーンベルクのいたウィーンからは遠く離れて、ロシアの学生が才気を漲らせて至った境地としての12音技法は、なかなか感慨深いものがある。
そんなオブホフ作品を弾く、ゴットリーブの冴えたタッチがまた印象的で。レジス・カンポ、ブルーノ・マントヴァーニといった現代作品で、ピリリと存在感を示すピアニストだけに、作品の捉え方にまったく無駄が無い。ストイックに作品と向き合って、音を切出してくるような鋭敏な感性が、オブホフの音楽性と共鳴し。下手に「近代」を意識せず、作品、1曲、1曲の持つ力を卒なくサウンドにし、あらゆる枠組みから解き放つような、そんな印象を受ける。音楽史の張り巡らされた網からオブホフという作曲家を器用に外して、そのものだけを、極めてニュートラルに提示してみる。未だ掘り起こされていない作曲家を、掘り起こし、その第1印象を歪めることなく、きちっと伝えよう、そんな意志が聴き取れもし、よりオブホフという存在を興味深いものとしている。
しかし、鋭くもポエジーが薫るオブホフの音楽。ゴットリーブの鋭敏さを以って聴けば、どこかクラシックを離れても聴こえてきて、不思議。近代の彼岸で持て囃された、当時の神秘主義の流行の延長線上にあったそのサウンドも、今となっては、実にスタイリッシュな、クールなサウンドとして聴こえてしまうからおもしろい。

Jay Gottlieb Nicolas Obouhow - Piano Works

オブホフ : 前奏曲 第1番
オブホフ : 6つの祈り
オブホフ : 6つの心理的素描
オブホフ : 3つのイコン
オブホフ : Eternel
オブホフ : Création de l'Or
オブホフ : La Source Vive
オブホフ : Reflet Sinistre
オブホフ : Hostie
オブホフ : 10の心理的素描
オブホフ : Deux invocations
オブホフ : La Parabole du Seigneur
オブホフ : Révélations
オブホフ : Les Astrales Parlent
オブホフ : Conversions

ジェイ・ゴットリーブ(ピアノ)

SISYPHE/SISYPHE 010




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