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スメタナを聴く。 [2007]

ここのところ、すっかり中東欧づいてしまって...
お馴染みの国民楽派など、人懐っこいメロディに、活きのいいリズム、そのダイレクトな魅力は、堅苦しいクラシックにありながら一味違った温度感を感じてきたわけだが。その温度感を醸し出すものは何なのか?単なる民謡調というではなく、ワールド・ミュージック的な視点に立って中東欧の作品を掘り下げたならば、そこにはどんな地層が見えてくるだろう?ヨーロッパという括りでは納まり切らない、様々な民族が通過し、また留まり、多様な文化が蓄積して形作られた中東欧... ヨーロッパにして、より味わい深いヨーロッパを見出す不思議なエリアが、どうも気になって... チェコの国民楽派の代表、スメタナを改めて聴いてみる。
2007年にリリースされたスメタナのアルバム、ジャナンドレア・ノセダが率いたBBCフィルハーモニックによる管弦楽作品集第1集(CHANDOS/CHAN 10413)と、キャサリン・ストットが弾くピアノ作品集(CHANDOS/CHAN 10430)を聴き直す。


ノセダ+BBCフィルが響かせる、スメタナの底力...

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スメタナはチェコを代表する作曲家である。国民楽派として、クラシックに新たな地平を切り拓いたひとりである。その記念碑的作品、『我が祖国』は、オーケストラの人気レパートリーであり、その2曲目、「モルダウ」は、日本においては合唱の定番... 誰もが、スメタナを歌えてしまうという、不思議(?)な状況もある。しかし、『我が祖国』以外についてはどうだろう?改めてスメタナという存在を見つめた時、お馴染みの作曲家のはずなのに、この作曲家についてあまりに知らないことに驚いてしまう。
そこにきてのノセダ+BBCフィルによるスメタナのシリーズは、まったく貴重な体験をもたらしてくれた。ここで聴くvol.1は、交響詩を中心に、続くvol.2(CHANDOS/CHAN 10518)では、オペラの序曲を並べて、『我が祖国』抜きで、スメタナの全体像を捉えて、新鮮な思いをすることに... 特に、その交響詩は、国民楽派のイメージからすると、また一味違う、ロマン主義の作法に則り、充実した音楽を聴かせてくれる。
そのvol.1... 「リチャード3世」(track.1)、「ヴァレンシュタインの陣営」(track.2)、「ハーコン・ヤルル」(track.3)と、立て続けに見事な交響詩が並び印象的。スメタナのスウェーデン時代の作品とのことだが、このアルバムで初めてスメタナがイェーテボリで指揮者、ピアニストとして活躍していたことを知り、あまりにチェコのイメージが強かったせいか、目から鱗だったり。そして、チェコを離れての作品は、リストの交響詩を思わせて(経済的な支援も受けたこともあっただけに、その影響は当然か... )、リストに負けない堂々たるサウンドで、国民楽派というキャラクターを打ち出す以前のスメタナの姿が瑞々しく、当時の西欧のモードを感じさせる作風が、かえってスメタナの作曲家としての力量を再確認させられるようなところもあり興味深い。が、一方で、チェコならではのセンス(やがてヤナーチェク、マルティヌーあたりへとつながってゆく... )というのか、独特の鮮やかさ、色彩感を見せるオーケストレーションも気になるところ。後半は、国民楽派としての、チェコのフォークロワに基づく作品が並び... ポルカ「田舎の少女」(track.5)の牧歌的なあたり、アグレッジヴに叩かれるティンパニが印象的な大序曲(track.8)など、中東欧ならではの魅力は、やっぱりキャッチーで、楽しませてくれる!
ノセダ+BBCフィルの演奏は、いつもながらのクリアさで... 特にノセダのヴィヴィットなセンス、確かなバランス感覚が、民謡調というだけでないスメタナの底力をしっかりとすくい上げ、改めてこの作曲家を見直す... いや、遅まきながらの再発見を促してくれる。

SMETANA: ORCHESTRAL WORKS, VOL. 12 - BBC Phil. / Noseda

スメタナ : 交響詩 「リチャード3世」 Op.11
スメタナ : 交響詩 「ヴァレンシュタインの陣営」 Op.14
スメタナ : 交響詩 「ハーコン・ヤルル」 Op.16
スメタナ : 漁夫
スメタナ : ポルカ ト長調 「田舎の少女」
スメタナ : プラハの謝肉祭
スメタナ : シェイクスピアの 『リチャード3世』 のための ファンファーレ
スメタナ : 大序曲 ニ長調
スメタナ : シェイクスピア祭のための祝典行進曲 Op.20

ジャナンドレア・ノセダ/BBCフィルハーモニック

CHANDOS/CHAN 10413




ストットのピアノが響かせる、スメタナの多彩さ...

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スメタナの室内楽、ピアノ作品というのは、オーケストラ作品に比べれば、聴く機会はあるように感じる。アルバムもいろいろリリースされている。が、それらを聴いて来たかというと、どうだったろう... 『我が祖国』だけでスメタナは語れないとわかっていながら、『我が祖国』以外の作品を積極的に聴こうとはあまりして来なかったのも事実。どこかで「モルダウの人」などと、レッテルを貼って見ていたのかもしれない。そうしたところに、気鋭のピアニスト、キャサリン・ストットがスメタナを取り上げる!と聞いて、興味を持ったのがこのアルバムだった。そして、今、改めて聴き直すわけだが... 俄然、おもしろく感じてしまう!
まず、はじまりの『夢』(track.1-6)、その1曲目、「失われた幸福」の、ショパン(1809-49)の時代を意識させる華麗な響きに惹き込まれてしまう。が、6つの小品からなる『夢』(1875)は、『我が祖国』(1874-79)が作曲された頃の作品で、スメタナが聴力をほぼ失った後の作品とのこと... そこには、頭の中にのみ鳴り響くピュアな音をそのままスコアに書き起こした鮮烈さがあり。耳で聴いて反芻する作業から解放された音楽の、イマジネーションの広がりを感じ、国民楽派というイメージを越え、どこかモダンにすら聴こえて興味深く... 印象主義を予言するような感覚も見出すのか... 一方、2つの演奏会用練習曲(track.8, 9)では、ピアニスト、スメタナの、ヴィルトゥオーゾっぷりを垣間見るようであり、その19世紀ならではのゴージャスなピアニズムに魅了される。さらにチェコ民謡による幻想曲(track.10)では、民謡のメロディのヴィルトゥオジーティに溢れるヴァリエーションが見事で、美しさと豪快さが圧巻。続く、チェコ舞曲集からの3曲(track.11-13)では、フォークロワなテイストが軽やか弾けて心地良く、さらにはメロディックに語り掛けて人懐っこく。国民楽派、スメタナの期待を裏切らない。
しかし、多彩な音楽だ。ロマン派の時代、ヴィルトゥオーゾたちが輝いていた時代、そして、フォークロワな音楽に初めて目が向けられた時代... ドイツ文化に大きな影響を受けながらも、独自のカラーを持つチェコの微妙な位置と、そこに蓄積してきた文化の地層が、スメタナの音楽にしっかりと作用し、その音楽は、19世紀の音楽の幅が凝縮されたようで印象的。そんなスメタナの音楽を、丁寧に捉えつつより魅力あるサウンドとして鳴らすストットのタッチもまた印象的。作品に込められた鮮やかさを巧みに掴み、さり気なくジューシーに響かせてしまうストットならではのサウンドは、スメタナでも光る。

SMETANA : DREAMS - Kathryn Stott

スメタナ : 『夢』
スメタナ : 好奇心の強い男 〔シューベルトの『美しき水車小屋の娘』からの編曲〕
スメタナ : 演奏会用練習曲 ハ長調 Op.12
スメタナ : 演奏会用練習曲 嬰ト短調 「浜辺にて」 Op.17
スメタナ : チェコ民謡による幻想曲 ロ長調
スメタナ : ポルカ 嬰ヘ長調 〔チェコ舞曲集 第1巻 から〕
スメタナ : ポルカ イ短調 〔チェコ舞曲集 第1巻 から〕
スメタナ : フラーン 〔チェコ舞曲 第2巻から〕

キャスリン・ストット(ピアノ)

CHANDOS/CHAN 10430




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