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バロック、バーバリック。 [2011]

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クラシック、と、ワールド・ミュージック。まったく違う場所にあるようでいて、実は近い場所にあるのかもしれない(ま、「ワールド・ミュージック」という言葉があまりに万能過ぎて、その実態が掴み難くもあるのだけれど、ここはひとつトラッドとして考えるならば... )。古典音楽、と、伝統音楽。である。こうして並べて見ると、同じものに思えてしまう?なんてことはないか... しかし、クラシックには、フォークロワにインスパイアされた国民楽派の作曲家たちもいる。中には、バルトークのように、フォークロワの専門家のような人も... そういう親和性を巧みに見出して、クラシックとワールド・ミュージックを結べたなら、刺激的なケミストリーが起こるやも... ということで、クラシック、それもバロックと、ワールド・ミュージックの世界を結んでしまったら?というアルバムを手に取る。
ワールド・ミュージックの世界で活躍し、時折、古楽へも顔を出す、スロヴァキアのヴァイオリニスト、ミロシュ・ヴァレントと、気鋭のピリオド・アンサンブル、オランダ・バロック協会によるコラヴォレーション!若い頃、フォークロワに心酔したというテレマンの姿を掘り起こす意欲的なアルバム、"BARBARIC BEAUTY"(CHANNEL CLASSICS/CCS SA 31911)を聴く。

ライプツィヒ大学の学生でありながら、ライプツィヒの街の若手作曲家として大活躍したテレマン。その活躍を買われ、1705年、24歳の時、ザクセン選帝侯国の有力貴族、プロムニッツ伯爵の楽長に就任。ライプツィヒから、伯爵の邸宅があったゾーラウ(現在は、ジャリ... )へと移り、伯爵自慢のオーケストラを率いることになる。そのプロムニッツ伯爵、エルトマン2世(1683-1745)は、テレマンの2つ年下で、若くして領地を相続、大変な資産家で、ザクセン選帝侯の一族、ザクセン・ヴァイセンフェルス公爵家(オペラハウスを建設し、ドイツ・オペラを支援した!)から妻を迎えるほどの人物で、後にザクセン選帝侯国の枢密院のメンバーとなり、大臣まで務めている。また、プロムニッツ伯爵家は、シュレジエン(当時はハプスブルク家の支配下... )の南東の端に、プレス侯国という小さな国(現在はポーランド領... )も領有しており、その首都、プレス(現在はプシュチナ... )に滞在することも... 当然、楽長、テレマンも付き従い、訪れているのだけれど、そこはもうドイツからは遠く、まさに東欧!プレスの街は、チェコ、モラヴィア地方(からの移民も多かったらしい... )や、ポーランドの古都、クラコフ(テレマンも足を伸ばしている... )からも近く、スラヴ文化圏。街を彩る音楽は野趣に溢れる民族色豊かなもの... テレマンは、城の外の、大地に根差した音楽、気取りの無い活気に満ちた市井の音楽に触れ、大いに刺激を受けることになる。
そんな、若き日のテレマンの姿を掘り起こそうという、"BARBARIC BEAUTY"。始まりは、TWV 55:D12の序曲、2楽章、"perpetuum mobile"... どこからともなく聴こえて来るような感じで、印象的に響き出したところに、ポーランド協奏曲(TWV 43:G7の四重奏曲)が続き、テレマンのポーランド風の音楽がメドレーのように奏でられ、そうした中に、アンナ・シルマイ・ケチェル写本(18世紀、スロヴァキアのハンガリー貴族の女性により収集された民俗音楽集... )の舞曲も加えられ、テレマンとフォークロワが何気なくつなげられて行く... その違和感の無さたるや!ひとつのトラックに、フォークロワからの影響を色濃く残すテレマンの楽曲と、18世紀に採譜された手稿譜に基づく東欧各地の民俗舞曲を、ひとつの組曲(フランス風組曲=舞踏組曲の形式!)のようにまとめてしまうレヴァント、オランダ・バロック協会。そういうトラックを8つ編み、テレマンが如何にフォークロワから刺激を受けていたかを丁寧に、それでいて、まざまざと提示し、驚かせてくれる。何より、テレマンが魅了されたフォークロワの魅惑的なこと!ヨーロッパにして、様々な文化が混在し、重なる、東欧独特のトーンが効いている!
ポーランド風に始まって、スラヴ風に、そして、ハンガリー風に、トルコ風に、ジプシー風に、クレズマー風に... ヴァレントが持ち込んだ音楽は、まるで、ごった煮!けど、このごった煮感が、18世紀、東欧のリアルだったのだろう(ひと山越えれば、つい数年前までオスマン・トルコが支配したハンガリー平原が広がり、中世、政策として多くのユダヤ人が集められたポーランドは、目の前で、独特な感性を持ったチェコ、モラヴィア地方は、すぐ隣り... そういう場所に在ったプレス侯国... )。でもって、バーバリック!その野趣に富むリズム、サウンドの人懐っこさには、クラシックとは全く異なる輝きがある。その輝きを自らの音楽に取り込んだテレマン... これまで、テレマンの音楽に何となく感じていたキャッチーさ、ポップさが、どこからやって来たのかをはっきりとイメージできたような気がする。そして、その最後で、序曲『諸国民』の「トルコ人」(track.8)が、まさにバーバリックに威勢良く響き出し、テレマンのフォークロワからの影響の結実として、"BARBARIC BEAUTY"を締め括る。
しかし、活きの良い演奏!ヴァレントはヴァイオリンばかりでなく、良い調子で歌まで歌うし、丁々発止でオランダ・バロック協会と渡り合い、見事に"BARBARIC BEAUTY"の世界を紡ぎ出す。オランダ・バロック協会もその世界にしっかりと浸り、バロックにしてバロックのイメージを大いに打ち破るバーバリックさで、テレマンも、18世紀の手稿譜による民俗舞曲も、自在に奏で、器用にも屈託の無いサウンドで魅了する。そこに加わるロキタによる多彩な民俗楽器の音色!中東欧の音楽には欠かせないツィンバロンはもちろん、ドゥドゥク、ズルナと、聴き慣れないオリエンタルな笛も繰り出して、"BARBARIC BEAUTY"ならではの色を見せて、惹き込まれる。で、元気が出てしまう!生気に充ちたフォークロワのパワフルさに圧倒され、テレマンとともに聴けば、クラシック像が揺さぶられる思いも... いや、ワールド・ミュージックの中にあるクラシック... そんな構図を思い描くと、音楽史の流れはもっと躍動的なものになるのかもしれない。

HOLLAND BAROQUE SOCIETY
BARBARIC BEAUTY


テレマン : PERPETUUM MOBILE、他...
テレマン : LES JANISSAIRES、他...
テレマン : MOURKY、他...
"Collection Uhrovec" から ダンス 322番、他...
テレマン : HANAQUOISE、他...
"Collection A. Szirmay-Keczer" から 2のダンス、他...
テレマン : MARCHE、他...
テレマン : MEZZETIN EN TURC、他...

ミロシュ・ヴァレント(ヴァイオリン)
ヤン・ロキタ(ツィンバロン/リコーダー/ドゥドゥク/ズルナ/クラリネット)
オランダ・バロック協会

CHANNEL CLASSICS/CCS SA 31911




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