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旅する音楽。 [2007]

秋は観光シーズン!だけれど、旅行の予定などは、まったくありません。
ならば、音楽で旅をする?というより、旅する音楽を聴いてみる。のだけれど... そもそも、音楽を聴くという行為は、旅することに似ている。もちろん、音楽が、どこかに連れて行ってくれるなんてことはない。が、始まりから終わりへと流れてゆく音楽は、ある地点からある地点へと向かう旅の道程に重ねることができるのではないか。ドライヴに音楽は欠かせない... というのも、音楽と旅の共通性を、知らず知らずに感じているから?そして、クラシックともなれば、その曲の長さが、まさしく旅のようであって。となれば、クラシック・ファンは、いつだって旅しているのかもしれない。いや、古典を聴くという時点で、すでに時間を旅しているのか...
さて、2007年にリリースされた「旅」にまつわる2タイトルを聴き直す。サヴァールがコロンブスをフィーチャーし、中世からルネサンスへとうつろう時代の苦悩を描く気出す"Christophorus Columbus Paraísos Perdidos"(Aria Vox/AVSA 9850)と、日本の古楽アンサンブル、アントネッロが、戦国時代、日本からローマへと旅に出た日本人の少年たちの旅程を追う『天正遣欧使節の音楽』(Anthonello MOOD/AMOE-10004)。大西洋を渡り、喜望峰を越えて、旅する音楽で旅してみる。


サヴァールとクルーズする、コロンブスへと至る旅、そこから始まる旅...

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まず、最初の一音で、とてつもなく遠い場所へと連れ去られてしまう。サヴァールによるブック型の大作、第2弾、"Christophorus Columbus Paraísos Perdidos(クリストファー・コロンブス、失われた楽園)"。クラシックだ、古楽だ、コロンブスだ... に、関係なく、とにかく、距離も時間も、今いる場所とはまったく違う場所へと、一気にトリップさせてしまう始まり。そのただならない古(イニシエ)の佇まいが凄い。いや、これぞサヴァール... 今さら驚くことでもないのだけれど、その音楽を越えた存在感に、圧倒され、慄きすらある。今、改めて聴き直せば、余計にそう感じてしまう... いや、今だからこそか?
という始まりのセクション、「古い予言と降霊」(disc.1, track.1-13)は、コロンブスからずっと遡り、古代ローマ?セネカの書いた悲劇『メディア』を、バンショワの音楽に乗せて歌うというおもしろい試み。金羊毛を求めて東へと船出したイアソンと、その後の顛末を、黄金を求めて西へと船出したコロンブスに重ねるのか... まったく凝っている。そして、何と象徴的な!"Christophorus Columbus Paraísos Perdidos"は、ただコロンブスに焦点を合わせるのでなく、グンと視点を引いて、前日談としての地中海世界の歴史を、神話の頃から静かに見つめる。その姿勢が、サヴァールならではであって、深い。いや、それこそがメイン?
あらゆる文化の結節点(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教が混在し、ジェノヴァ生まれのコロンブスも送り出す... )、だからこそのイベリア半島の歴史が持つ悲喜交々を、クロスカルチュラルに多様な音楽を盛り込んで、見事にひとつの絵巻として綴る。そこには、次第に失われてゆく異文化への寛容さが描かれ、「失われた楽園」のテーマが重く横たわる。何より、コロンブスの航海によって引き起こされる悲劇、ヨーロッパの人々が新大陸と呼んだ地に連綿と育まれて来た文明の消滅を、アステカの音楽(diasc.2, track.15)が象徴的に見せる。重々しい太鼓の響きに乗り、誇り高くも寂しげな表情を見せるケーナの響きは、突き刺さる。
"Christophorus Columbus Paraísos Perdidos"で聴く音楽には、地中海から大西洋へ、中世からルネサンスへ、まるでクルーズに出るような多彩な出会いが待っている。が、一貫してその音楽はラメント(悲歌)であることに、歴史の重さを思い知らされる。世界がひとつに結ばれることの輝かしさの裏にある、とてつもない闇。サヴァールが音楽に込めた強いメッセージは、今、グローバリゼーションの泥濘にはまり、足掻くばかりの21世紀の我々の時代に、より意味を持って訴え掛けて来るよう。

CHRISTOPHORUS COLUMBUS ・ Paraísos Perdidos ・ Lost Paradises
MONTSERRAT FIGUERAS ・ HESPÈRION XXI ・ LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ JORDI SAVALL


I. 古い予言と降霊
II. 国土回復とコロンブス誕生
III. 新しい道と大いなる計画
IV. アル・アンダルスの終焉
V. セファルディの離散
VI. 発見と被害
VII. イザベラ女王の遺言とコロンブスの死

ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ
ジョルディ・サヴァール/エスペリオン XXI、他...

Aria Vox/AVSA 9850




アントネッロと旅する、天正遣欧使節の少年たちの人生の旅路...

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最初の、五木の子守唄に意表を突かれる!アントネッロによる『天正遣欧使節の音楽』。とにかく、クラシックの外にある音楽の作為の無い力強さに、ただならず圧倒されてしまう... いや、日頃、クラシック、クラシックと言っていると、剥き出しの日本の音楽に、かえって衝撃を受けてしまう。今、改めて聴いても鮮烈で... 日本の歌も凄い!と、のっけからただならず感動させられてしまう。さらに凄いのが、「パッサメッツォ上の五木の子守唄」ということで、通奏低音が加えられて、コルネットが歌い出す!強烈に"日本"が発せられながらも、ヨーロッパのルネサンスの響きと不思議に共鳴してしまうから驚かされてしまう。いや、これこそが『天正遣欧使節の音楽』。東から西へと旅し、東と西がひとつの時代として結ばれる興味深さ...
天正遣欧使節の少年たちの故郷である九州の民謡(五木の子守唄)に始まって、出航、フェリペ2世に謁見し、メディチ家の舞踏会、そしてローマと、その場、その場にあったであろう音楽を丁寧に拾い上げ、長い旅路を巧みに綴る。一方で、アントネッロが奏でる音楽は、いつもながら活き活きとしていて、音楽としての喜び、情感に充ち溢れ、そのひとつひとつでたっぷりと楽しませてくれる。アントネッロならではの旺盛なサービス精神が、東西を結ぶ歴史のエピソードを、よりアグレッシヴ(スパニッシュ!)に、活劇のように描き出しもして、おもしろい!のだが、いくつか印象的に挿まれるわらべ歌を、大人が声色を変えて歌うと、何ともあざとく、興を削ぐようなところもあるのだけれど... 最初の五木の子守唄の本物感が凄まじいだけに、まったく残念な部分ではある。
さて、『天正遣欧使節の音楽』は、旅を終えての後日談についても描かれる。帰郷し、太閤秀吉に謁見し、披露される南蛮の音楽... 知識として知ってはいたものの、実際にそれが音となって聴こえると、何だか妙な感覚になる。大河ドラマでよく取り上げられるあたりと、西洋のルネサンスとがつながってしまう... いや、同時代なのだから、まったくあり得る話しではあるのだけれど... こういう音楽的な接触が、近代以前にあったことが、とても刺激的。なのだが、それは続かなかったわけで... 天正遣欧使節の少年たちのその後の悲劇が、このアルバムの最後を結ぶ。キリシタン弾圧、そして殉教。その遣る瀬無いあたりを、切なげに響かせ、最後の「パライゾに」(track.27)の、殉教の苦痛の先に見えた美しい楽園の情景は、感動せずにいられない。

天正遣欧使節の音楽 アントネッロ

- プロログ -
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パッサメッツォ上の五木の子守唄 ― ももやももや
作曲者不詳 : 漆黒の南蛮履
アロンソ : とりこてあ(編物する女、または、ぽかすか叩く)
ゲーレロ(?) : 夜は暗うて
こんけららばれ
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- 出航 -
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牛飼いとお針箱
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- 国王フェリペ 2世謁見 -
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カベソン/サンドラン : ディフェレンシアス「いと甘き覚え」
ゲーレロ : あめまりあ
川内の子守唄
カレイラ : ファンタシア
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- 舞踏会 -
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カローゾ : 花の舞
カローゾ : スパニョレッタ
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- 伊東マンショの郷愁 -
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日向木挽唄
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- ローマにて -
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ファンファーラ 「馬上にて」
らおだて
バッサーノ/パレストリーナ : そなたはさながら清らなり
作曲者不詳 : でんでれん
レスポンソリウム 「天主のサントスは来たりて」 〔サカラメンタ提要 より〕
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- 関白秀吉謁見 -
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カレイラ : テント 「こんけららばれ」
ナルバエス : グロサード 「こんけららばれ」
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- 中浦ジュリアンの回想 -
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中浦手毬唄
オルティス/サンドラン : レセルカーダ 「いと甘き覚え」
ヴェッキ : 誰人が幸いなるか存じてをる
作曲者不詳 : ろどりごまるちねす殿
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- 中浦ジュリアンの殉教 -
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らだにあす
こんけららばれ
パライゾに 〔サカラメンタ提要 より〕

アントネッロ、他...

Anthonello MOOD/AMOE-10004




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