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夢の後で... [2011]

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実は、歌曲が苦手である。
2006年来、すでに相当数のタイトルを取り上げている当blogだが、歌曲となると... ウーン... 断然、少ない!いや、今頃、振り返って、その少なさにびっくりしてみたり。ドイツ・リートしかり、「歌曲」はクラシックにおいて、重要な位置を占めている。よくわかっている。よくわかってはいるのだけれど、振り返れば、その数に、本当に苦手なんだなと、認識を深めてしまう。
で、少し考える。歌曲の何が苦手なのだろうか?
どことなく、アカデミック?もちろん、クラシックそのものがアカデミックではあるのだけれど... 音楽というより、文学の性格を強く感じ... いつも、感覚的に音楽を聴いていると、クローズアップされる詩の要素が、鬱陶しいような... それでいて、ピアノを横に、お行儀良く、淡々と詩を歌う姿が、何とも地味でもあり... って、聴き手のダメダメっぷりを露呈するばかりなのだけれど。オーケストラを付き従えて、ド派手に歌いまくるオペラが好き!なんて言っている身からすると、やっぱり歌曲は渋過ぎる。
というところから聴く、歌曲... "évocation"(naïve/V 5063)に続いての、ピリオドの世界に欠かせないソプラノ、サンドリーヌ・ピオーが歌う、"UPRÈS UN RÊVE(夢の後で... )"(naïve/V 5250)。メンデルスゾーンからリヒャルト・シュトラウス... という歌曲の本場、ドイツはもちろん、フランスにイギリスに、さらには現代まで、幅広く「歌曲」を歌った1枚を聴く。

ドリーミンな"évocation"の後で、"UPRÈS UN RÊVE"、夢の後でというタイトルは絶妙!とはいえ、夢からはまだ覚めていない?"évocation"でも歌われた、リヒャルト・シュトラウスで始まる"UPRÈS UN RÊVE"。この、ウルトラ・ロマンティシズムを代表する作曲家ならではの、めくるめくロマンティックなあたりが、ただただ美しく響く3曲、「夜」(track.1)、「秘めごと」(track.2)、「あすの朝」(track.3)。
リヒャルト・シュトラウスのオペラは、夢見るように美しく、一度、呑み込まれてしまうと、溺れそうに... 溺れることを良しとするか、息苦しいと感じるかは、それぞれだと思うが、その原因は、やはりヒャルト・シュトラウスならではのオーケストレーション。あの巨大なオーケストラ・サウンドで、ウルトラ・ロマンティシズムをやられてしまうと、あっぷあっぷとなる。が、それがピアノ伴奏だと?リヒャルト・シュトラウスの、ピュアなロマンティシズムが露わになって、その耽美的なあたりを、よりシンプルに味わうことができる。いや、リヒャルト・シュトラウスの歌曲は、本当に美しい... ドイツ・ロマン主義の偉大な先人たちの歌曲に漂う渋さがいい具合に落ちて、耳にとても心地良く感じる。ロマン主義の末期、オーケストレーションは管を巻いても、メロディそのものはより感覚的になって、夢見るよう。で、その夢の後で... アルバムのタイトルになっているフォーレの「夢の後で」(track.4)。リヒャルト・シュトラウスとはまた一味違う、フランスならではのメローさが、キャッチー。シャンソンやフレンチ・ポップの感覚は、フォーレの歌曲にも、おぼろげながら感じることができる。「歌曲」というシンプルな形が、その国、その作曲家の性格を、じわじわと内側から滲ませるようで、おもしろい。
そして、フォーレの後には、まさにドイツ・リートの時代の作曲家、メンデルスゾーンが続き、ショーソン、プーランクと、フランス歌曲の定番が来て... 夜や夢をテーマに、ピオーならではの巧いチョイスがされている一方で、ドイツ・リートばかりでない、多様な歌曲の世界をカタログ的にも聴かせてくれる。いや、それは、かなり盛りだくさん!そうした中で、注目は、アンサンブル・クレマン・ジャヌカンに参加するバリトンで、作曲家でもあるヴァンサン・ブショーの「絞首台の歌」(track.14-18)。タイトルの通りシュールで、美しいけれどどこか壊れたメロディが、"UPRÈS UN RÊVE"に、現代から絶妙のスパイスを効かせる。それから、アルバムを締めるブリテンのアレンジによるイギリス民謡。「サリーの園」(track.23)、「なぐさめる人もなく」(track.24)、「なにゆえイエスは」(track.25)の3曲。素朴なメロディ・ラインの美しさは、盛りだくさんのアルバムの最後で、また一味違う輝きを放つ。そして、その素朴さが、ピオーのピュアでナチュラルな歌声をより際立たせる。
"évocation"では、ピオーの個性がとことん活かされたひとつの世界(それはそれはドリーミンな... )を魅せてくれたわけだが、"UPRÈS UN RÊVE"では、かなり冒険的に様々なテイストの歌曲を歌い切り、ひとつばかりでないピオーの世界を見せてくれる。リヒャルト・シュトラウスのスウィートなあたりも、プーランクのはじけたあたりも、メンデルスゾーンの端正さも、イギリス民謡の素朴さも、まったく器用に歌い分けて... それらは、卒なく、きっちりと1枚にまとめられてはいるものの、改めて全体を見つめれば、相当に幅の広いレパートリーであることは間違いなく、ピオーの可能性の幅広さを思い知らされもする。それでいて、ピオーならではのクリアでナチュラルな歌声が、全ての作品で活きてくるのだから、凄い。そこには、確かな個性を持ちながらも、作品よりも前には出ない、ピオーならではのスタンスがあるようで。歌曲が苦手... でも、素直にその魅力に取り込まれてしまう。いや、ピオーでならば、もっともっと歌曲を聴いてみたくなる。

UPRÈS UN RÊVE Sandrine Piau Susan Manoff

リヒャルト・シュトラウス : 夜 Op.10-3
リヒャルト・シュトラウス : 秘めごと Op.17-3
リヒャルト・シュトラウス : あすの朝 Op.27-4
フォーレ : 夢のあとに Op.7-1
フォーレ : 月の光 Op.46-2
フォーレ : ゆりかご Op.23-1
メンデルスゾーン : 夜の歌 Op.71-6
メンデルスゾーン : 新しい恋 Op.19-4
メンデルスゾーン : 眠りなき太陽
メンデルスゾーン : 魔女の歌 Op.8-8
ショーソン : 昔の恋人 Op.2-2
ショーソン : 魔法と魅惑の森で Op.36-2
ショーソン : 時の女神 Op.27-1
ヴァンサン・ブショー : 『絞首台の歌』
プーランク : モンパルナス
プーランク : ハイド・パーク
プーランク : (C)
プーランク : 華やかな宴
ブリテン : サリーの園
ブリテン : なぐさめる人もなく
ブリテン : なにゆえイエスは

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
スーザン・マノフ(ピアノ)

naïve/V 5250




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