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現代音楽に、ガーリーは、あり? [2011]

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大西洋を渡り喜望峰を回り、クラシックでの旅はまだまだ続く?
ということで、今度は対馬海峡を渡って、韓国へ... 韓国出身の気鋭の作曲家、チン・ウンスク(b.1961)。ドイツ・グラモフォンの現代音楽のシリーズ、"20/21"で、20世紀後半を築いて来た"ゲンダイオンガク"の巨匠たちに混じり、数少ない若手として取り上げられ、気になる存在に... そのアルバムが、今、改めて現代音楽専門レーベル、KAIROSからリリース(ということで、いいのだよね?)。デイヴィッド・ロバートソン、大野和士、ステファン・アズバリーら、現代音楽を得意とするマエストロたちと、現代音楽の専門家集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランという、現代音楽におけるゴージャスな面々による演奏というのも魅力的な、チン・ウンスクの作品集(KAIROS/0013062KAI)。気になりつつ、聴きそびれていた1枚を、これを機に聴いてみる。

さて、韓国、とはいっても、そこに特筆すべき韓国はない。
今や、現代音楽の世界で、国籍は、どれほどの意味があるのだろうか?チン・ウンスクが韓国の出身だからといって、「韓国」というエキゾティシズムを期待するのはナンセンス。それが、21世紀における現代音楽の正しいあり方。最もグローバリゼーションが進んでいるのは、現代音楽なのでは?とも、思ってしまう。音楽史は、20世紀に突入して、近代の名の下にモードは枝分かれを始め、ますます多様化し、現代へと至る。おもしろいのは、多様の一途を辿りつつも、独特の均質なクウォリティに包まれる、21世紀の今の姿... それは、どこか、優等生的な印象を受け、何か、物足りなくもあり... 何なのだろう?この感覚。戦後、「前衛」の時代を、ノスタルジックに振り返ると、実験の連続だった頃の破天荒さが、とても魅力的に感じるのとは対照的に...
一方で、ジャスト現代な、現代音楽の作曲家たちの、現代に生きるならばこその感覚には、現代音楽のみならず、クラシックの他では得られない共感がある。次々に生み出される高度な技術が、音楽環境はもちろん、社会や、生活を支える時代に生まれた者なればこその"現代っ子"感覚。というのか。作品の中に、高尚な芸術としてではない、同じ時代を生き育って来たという同志的なつながりを見出すあたりが、妙にうれしかったりして... と、前置きが長くなったが、チン・ウンスク... そう遠くない世代の作曲家... となれば、やっぱり"現代っ子"なひとりだろう。そして、その1曲目、ファンタジー・メカニーク。ブラスの鮮烈な響きにジャジーな色が滲み、パーカッション、ピアノが刻むリズムはどこかメカニカルであり、ナンカロウあたりの音楽を思い起こさせる瞬間も。またそれらが相俟って見せるアグレッシヴなあたりは、時にロックなイメージをも見出し、表情豊かな音楽を紡ぎ出す。まさに、"現代っ子"な響き... 我々はメカニカルが生み出すファンタジーの中を育って来た... そんな共感が広がる。
そうした"現代っ子"さがより発揮されるのが、3曲目、アクロスティコン - ボースピール(track.3-9)。おとぎ話からの7つの場面によるソプラノとアンサンブルのための... というサブタイルの通り、現代音楽のエリート主義なんてものをさり気なく脇に置いて、ティム・バートンのような感覚で、現代におとぎ話を描き出す。ちょっと毒づきながら、程好くスタイリッシュにメルヘンを仕上げるセンスの良さ。そこに、ガーリーさを感じ... いや、現代音楽にガーリーはありなのか?そもそも、現代音楽の枠組みの中で、ガーリーという感覚は成り立ち得るのか?という疑問も沸いてくるのだけれど、どこ吹く風とやり切ってしまう、その屈託の無さが、まさに"現代っ子"。ケント・ナガノは、チン・ウンスクに、不思議の国のアリスのオペラ化を委嘱し、ミュンヒェンで初演(2007)したわけだが、これこそはチン・ウンスクならでは、だったはず... しかし、ケント・ナガノも目ざとい!
そして、最も魅力的だったのが、プリペアード・ピアノとパーカッションとアンサンブルのための二重協奏曲(track.10)。プリペアード・ピアノの異質な響きが際立つでもなく、パーカッションが派手に立ち回るでもなく、丁寧に音を選び、アンサンブルに結び付けて、心地良いパルスを放ちながら、メルヘンが孕む仄暗さのようなものを織り成す。そして、アクロスティコン - ボースピールからの流れが、絶妙だったり。で、よりチン・ウンスクが志向する世界を実感できるような... 現代音楽としてのクウォリティをきっちり保ち、現代音楽の枠組みの中で、自由に、時に飄々と、自らの道を歩む。いや、これが、モード無き21世紀の現代音楽のモードか?なんて、考えると、21世紀前半の音楽の形が見えてくるようで、興味深い。
という、チン・ウンスク作品... 現代音楽を得意とするマエストロたちの指揮の下、アンサンブル・アンテルコンタンポランがいつもながら冴えたところ聴かせる。現代音楽、云々を越えて、彼らのハイ・クウォリティに触れる悦びも感じずにはいられない1枚。

UNSUK CHIN Xi

チン・ウンスク : ファンタジー・メカニーク 〔5人の奏者のための〕 *
チン・ウンスク : Xi 〔アンサンブルとエレクトロニクスのための〕 *
チン・ウンスク : アクロスティコン - ボースピール 〔おとぎ話からの7つの場面によるソプラノとアンサンブルのための〕 **
チン・ウンスク : 二重協奏曲 〔プリペアード・ピアノとパーカッションとアンサンブルのための〕 ***

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
パトリック・ダヴァン(指揮) *
デイヴィッド・ロバートソン(指揮) *
大野和士(指揮) *
ステファン・アズベリー(指揮) *
ピーア・コムシ(ソプラノ) *
サミュエル・ファヴレ(パーカッション) *
ディミトリ・ヴァシラキス(プリペアード・ピアノ) *

KAIROS/0013062KAI




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