SSブログ

晴れの日に、歌う。 [2007]

体育の日... とはいうものの、体育からは程遠い一日を過ごしております。
さて、本日、10月10日を以って、新国立劇場は14周年を迎える。1997年、10月10日、文化の日ではなく、体育の日に柿落しというのも、妙な話しだけれど。そもそも、「体育の日」って、何?となる。で、調べれば、すぐに見つかる。1964年、東京オリンピックの開会式の日...
東京オリンピックというのは、日本に大きなインパクトをもたらした。が、東京オリンピックから随分と経って生まれた者には、10月10日は、正直、ピンと来ない。しかし、なぜ10月10日だったのかを知ると、興味深いものがある。晴れの特異日。だからこその、東京オリンピックの開会式の日... ならば、回りくどいことはせず、ずばり「晴れの日」というのも、いいかもしれない。「ハレの日」だからこそ、新国立劇場も柿落とし... ならば、何だか、腑に落ちてしまう。いや、断然、「晴れの日」がいい!運動不足に後ろめたい思いをせずに済むし。
ということはさておき、歌を聴く。オーストリアの異色のバンド、フラヌイによる、大胆にアレンジされたシューベルトのリートの世界、"Schubertlieder"(col legno/WWE 1CD 20301)。カウンターテナーのスター、フィリップ・ジャルスキーが、伝説のカストラート、カレスティーニをフィーチャーする"THE STORY OF A CASTRATO CARESTINI"(Virgin CLASSICS/3 95242 2)。ピリオドで活躍するソプラノ、サンドリーヌ・ピオーの、モダンなレパートリーを集めた"évocation"(naïve/V 5063)。2007年にリリースされた、歌のアルバム(フラヌイは歌メインではないけれど... )、3タイトルを、晴れの日に聴く。


フラヌイが、奇想天外にシューベルトを捕まえる、"Schubertlieder"。

WWE1CD20301.jpg07bo.gif
1010.gif
どこか懐かしいブラスバンドの響きに、チターや、アコーディオンも加えて、とんがって見せるフラヌイが、シューベルトのリートを、突拍子もない姿に変身させてしまうアルバム、"Schubertlieder"。これはパロディなのか?何なのか?おもしろそうだと引き寄せられながらも、実際に触れてみれば、すっかり中てられてしまったのだが、後からジワジワと来るフラヌイ・ワールド。ブラスバンドの能天気さが、シューベルトの詩情をブっ潰す!キャバレー?クレズマー?ジャズ?ラテン?やりたい放題でシューベルトのメロディに乗っかって、面喰うわけだが、その先で、うらぶれた新たな詩情をシューベルトのメロディに見出すからおもしろい。いや、シミったれた、シューベルトのダメっぷりを炙り出しさえするようで。「クラシック」という既存の価値観を突き抜けて、シューベルトの真の姿を突き詰めるような、実は迫真の演奏?
いや、間違いなく巧いフラヌイの面々... ちらりと凄腕なあたりを聴かせて、そこはかとなくシューベルトにエッジを効かせる。しょうもなくチープでありながら、その妙技には胸空くようなところもあり、聴き応えは十二分だ。そこに加わるヴァイオリンがまたいい味を出していて、どこか寂しげで、時にシュール... ブラスバンドのチープなサウンドに、もうひとつ表情を加え、要所、要所で存在感を見せる。さらに、チター、ダルシマー、ハープの、硬質な弦の響きがスパイスとなり... ハープのペダルの音なのか?時折、ギコギコと聴こえる軋みすら味に。で、アコーディオンがノスタルジックな色を添え、オーストリアに漂う東欧の臭いを引き出す。それから、忘れてならないのが、ヴォーカル... 絶妙に差し挟まれるメンバーの歌声が、とぼけていて。最後、I'm a Stranger(track.17)では、ベヒトルフのやさぐれた歌いっぷりが、アルバムを劇的に締める。
それにしても、静々と、ピアノに片手を置いて、お行儀良くシューベルトを歌っては見えて来ない世界だ。ツボにはまる人懐っこいサウンドの一方で、一筋縄ではいかない感覚が思わぬ深みを見せ。さすらい人に始まって、変わり者で終わる、独特の遣る瀬無さ感で全体を包み、意外に凄い音楽性を見せるフラヌイ... まもなくリリースされる、マーラーがますます楽しみに!

Franui Schubertlieder

さすらい人
水の上で歌う
月に寄せるさすらいの歌
さすらい人の夜の歌
夕べの星
別れ
春に
影法師
鳩の便り
月に寄せて
セレナード
君はわが憩い
輪舞に寄す
夕映えの中に
至福
別れ(Über die Berge)
I'm a Stranger(ドナウの上で) *

フラヌイ
スヴェン・エリク・ベヒトルフ(ヴォーカル) *

col legno/WWE 1CD 20301




ジャルスキーが歌う、爛熟の18世紀... "THE STORY OF A CASTRATO CARESTINI"。

3952422.jpg
1010.gif
18世紀、ヨーロッパ中を熱狂させた伝説のカストラート、ジョヴァンニ・カレスティーニ(ca.1704-ca.1760)。そのレパートリーを、21世紀のカウンターテナーのスター、ジャルスキーがカヴァーするアルバム、"THE STORY OF A CASTRATO CARESTINI"。当然ながら、驚くべき声を堪能する1枚。カレスティーニという伝説の凄さと、その伝説を今に再現できてしまうジャルスキーの凄さがスパークして、ただならず刺激的な音楽を聴かせてくれるわけだが... このアルバムの興味深い点は、18世紀前半、国際的に活躍したスターを追うことで、当時のリアルな音楽シーンを垣間見ることができるところ。
ロンドンの大家、ヘンデル(1685-1759)に、そのライヴァル、ナポリ楽派の巨匠、ポルポラ(1686-68)。ナポリ仕込みで、ドレスデンを牛耳ることになる、ハッセ(1699-1783)。そのドレスデンでキャリアをスタートさせ、やがてフリードリヒ大王の楽長となったグラウン(1704-59)。マリア・テレジアの楽長から、後にパリを席巻し、次の時代を切り拓く、グルック(1714-87)と、時代の寵児、大物たちが並ぶわけだが、そうした作曲家たちとともに仕事をし、ひとつの時代を結んだカレスティーニという存在に、改めて思い知らされる。そして、彼が歌ったドラマティックで華麗なアリアの数々!バロックから次の時代へと移ろうとする、どこか危うげな感覚が、得も言えず魅惑的で... バッハ(1685-1750)が中部ドイツの狭いローカルな地域で奮闘していた頃の、ヨーロッパのインターナショナルな音楽の爛熟感は、ただならない。
その爛熟を、難なく再現する、ジャルスキー。彼のパフォーマンスも驚くべきもので... あまりにナチュラルで、クリーミーな高音に、時折、ゾクっとさせられる低音... 超絶なあたりも、たっぷりと歌うあたりも、とにかく聴かせまくる。18世紀の熱気をそのままに、それは21世紀にあってなお、刺激的。で、さらに盛り上げるのが、アイム+ル・コンセール・ダストレのテンションの高い演奏!腕利き揃いの演奏家たちが、確かなテクニックの上に、より熱いものを盛って生まれる丁々発止のスリリングさ!王様も、枢機卿様も、貴族から、市民まで、オペラに熱狂していた時代の熱さがビンビン伝わって来る!いや、音楽への熱狂は、今も昔も変わらないなと、つくづく感じさせられる。
"THE STORY OF A CASTRATO CARESTINI"は、ジャルスキーだからこそ可能な1枚であり、オペラが最も熱狂的に支持されていた時代の劇場を追体験させてくれる。

CARESTINI JAROUSSKY - THE STORY OF A CASTRATO

ポルポラ : オペラ 『シファーチェ』 より アリア 「大胆にも私に恋の炎をともすおまえ」
カペッリ : オペラ 『兄弟だとわかった2人』 より アリア 「敵意ある天よ」
ヘンデル : オペラ 『クレタ島のアリアンナ』 より アリア 「おまえに戦いを挑もう」
ヘンデル : オペラ 『アリオダンテ』 より レチタティーヴォ 「だが、私はまだ生きている」 アリア 「不実な女よ、戯れるがいい」
ヘンデル : オペラ 『アルチーナ』 より アリア 「ヒルカニアの岩窟に」
ヘンデル : オペラ 『アルチーナ』 より レチタティーヴォ 「誰がこの思いを晴らしてくれるのだ」 アリア 「私の心を満たす」
レオ : オペラ 『ファルナーチェ』 より アリア 「私に死を与えるとしても」
ハッセ : オペラ 『ティートの仁慈』 より アリア 「あなたの顔に感じるのなら」
ハッセ : オペラ 『ティートの仁慈』 より アリア 「私は絶望して死んで行く」
グルック : オペラ 『デモフォンテ』 より アリア 「私は近くの岸の近くにいると願っていた」
グラウン : オペラ 『オルフェーオ』 より
   レチタティーヴォ 「さて、ステュクスの怒った精霊たちが」 アリア 「わが神よ、ああ! おまえはどこに?」
グラウン : オペラ 『オルフェーオ』 より アリア 「自らの不遇を眺めつつ」

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
エマニュエル・アイム/ル・コンセール・ダストレ

Virgin CLASSICS/3 95242 2




ピオーが歌う、ドリーミンな近代歌曲集、"évocation"。

V5063.jpg07vo.gif
1010.gif
ピリオドの世界に欠かせないソプラノ、ピオー... ピリオドの世界で活躍しているからか、大きく注目される機会は少ないようにも感じるのだけれど、メジャー・レーベルで、ド派手にプロモーションされるプリマとは違う、確かさ、落ち着いた佇まいは、どのソプラノにも敵わない魅力。何より、そのクラッシーな歌声は、作品そのものを活かす!だからこそ、ピリオドの世界での活躍... だが、当然ながらピリオドばかりがピオーではない。モダンなレパートリーでもまた魅力的な歌を聴かせてくれる。
フランス語とドイツ語による近代の歌曲を、センス良く1枚にまとめた"évocation"。ショーソン、ドビュッシー、ケクランの、フランスならではのエスプリが漂う色彩的で瑞々しい作品と、リヒャルト・シュトラウス、ツェムリンスキー、シェーンベルクの、独墺系ならではの爛熟のロマンティシズムが香る作品。いや、絶妙なチョイス!ドビュッシー、リヒャルト・シュトラウスと、軸になる作曲家を持って来て、ショーソンにケクラン、ツェムリンスキーにシェーンベルクと、他ではなかなか聴けない面子を揃えるマニアックさ... マニアックではあるけれど、この取り合わせだからこそ醸されるやわらかな雰囲気は、ちょっと、ただならない。売り易いカップリングにはして来ない、本当に美しいものを並べての、ピオーのこだわり。こだわっただけに、そこいらの歌曲集のアルバムとは比べ物にならない魅惑的な仕上がり。まさしく"evocation(想起、招魂... )"。そして、何よりも充たしてくれる、ピオーの歌...
インマゼールの弾くエラールのピアノで歌ったドビュッシーのアルバム(naïve/V 4932)が、やはりすばらしかったが、このアルバムでは、ピリオドからは距離を置き、マノフの弾くモダンのピアノで歌う。すると、ピオーの声も、より明るくクリアになるような印象を受ける。ドビュッシーのアルバムの時よりも肩の力が抜け、ピオーのナチュラルさがより際立つよう。そして、そのナチュラルさから、フランス語、ドイツ語と、器用に歌い分けて... それぞれのトーンを丁寧に捉えつつも、ひとつのポエジーで満たし切る。晴れ渡る静かな夜に、星の瞬きを追うような、そんな心地にさせてくれるドリーミンな1枚... しかし、何てセンスの良い1枚だろう!
そして、今年リリースされた、ピオーの新たな歌曲集、"UPRÈS UN RÊVE(夢の後で... )"(naïve/V 5250)を、次回、聴く。

ÉVOCATION Sandrine Piau Susan Manoff

ショーソン : ヘベ Op.2-6
ショーソン : 魅惑 Op.2-2
ショーソン : セレナード Op.13-2
ショーソン : 蜂雀 Op.2-7
ショーソン : リラの花咲くころ 〔『愛と海の詩』 Op.19 より〕
リヒャルト・シュトラウス : おとめの花 Op.22
ドビュッシー : 星月夜
ドビュッシー : そぞろな悩める心 〔『2つのロマンス』 より〕
ドビュッシー : 麦の花
ドビュッシー : 西風
ツェムリンスキー : 愛と春
ツェムリンスキー : バラのリボン
ツェムリンスキー : 春の歌
ツェムリンスキー : 私が夜の森を歩くと
ツェムリンスキー : 誘拐
ツェムリンスキー : 夏 Op.27
ケクラン : グラディスのための7つの歌 Op.151
シェーンベルク : 4つの歌 Op.2

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
スーザン・マノフ(ピアノ)

naïve/V 5063




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

ストーリーズ。夢の後で... ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。