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ストーリーズ。 [2011]

さすがに、秋。冷えてきましたね。
さて、秋の風物詩、NHK全国音楽コンクールが、何気に楽しみだったりする。いや、ハイ・エンドなクラシックの世界からすれば、こどもたちの合唱コンクールなど、高が知れている。かもしれないけれど、こどもたちこそ侮れない(もちろん、プロのパフォーマンスと比べるなんて無粋は無しで... )。みんなと声を合わせて、クソマジメなくらいに音楽と向き合って生まれるピュアなハーモニーは、音楽の原点を見るよう。その一生懸命さに触れれば、自身の音楽の向き合い方を考えさせられたり... いや、合唱はいいなと、シンプルに思う。人が集まって、声を揃えて、生まれる、ポジティヴなヴァイヴレーション。またそれは、多様な音楽の世界にあって、特別だとも思う。
ということで、合唱を... ヒリアード・アンサンブルを生み出し、エストニア・フィルハーモニック室内合唱団を率いる、合唱界の異才、ポール・ヒリアー。古楽から現代まで、さらりとこなすマエストロの、注目すべき2タイトル。アルス・ノヴァ・コペンハーゲンとの、シュッツのマタイ受難曲(DACAPO/8.226094)と、シアター・オブ・ヴォイセズとの、20世紀、前衛の奇作を集めた"STORIES"(harmonia mundi/HMU 807527)を聴く。
そして、合唱は極まって来ると、思いも付かない表情を見せ始める...


厳しい響きの向こうに、鮮やかなドラマ... シュッツ、マタイ受難曲。

8226094.jpg
いつだったか、バッハ・コレギウム・ジャパンがシュッツのマタイ受難曲を取り上げるとのことで、勇んで聴きに行った。が、シュッツの、あまりに渋い音楽に、参ってしまった。そして、いつの間にやら、意識は途切れ途切れに... 夢現の中で、BCJのすばらしいパフォーマンスを遠くに感じ(てしまうから、BCJは本当に凄い... )ながら、心地良いひと時を過ごしてしまう(何たる罰当たり!)。
ということで、シュッツのマタイ受難曲には、その時の印象が強烈に残っている。無伴奏で、必要最小限の色彩で、とにかく渋く、イエス・キリストの受難を淡々と綴ってゆく... それは、聴く者にとっても受難?シュッツによるあまりに厳しい響きを体験してしまうと、バッハのマタイ受難曲があまりにカラフルに感じられてしまうほど。同じドイツの「バロック」にカテゴライズされる2人の作曲家だが、ちょうど100歳の年の差がある両者の受難曲の間には、恐るべき音楽の進化があったことを思い知らされる。いや、それほどに、アルカイックな、シュッツのマタイ受難曲... そして、今、改めて聴く、ヒリアー+アルス・ノヴァ・コペンハーゲンによるシュッツのマタイ受難曲...
やはり、予想通りの渋さ!それは、歌うというより、聖書の朗読のよう。だけれど、一度、その厳しい響きに慣れてしまえば、拓けてくる世界がある。まず、要所、要所で、受難の物語を盛り上げるコーラスの、鮮やかさに息を呑む。ルネサンスを脱して間もない頃ではあるけれど、ルネサンスのポリフォニーとは違う、初期バロックの真っ直ぐな響きは、より訴える力が強く。そうしたあたりを、アルス・ノヴァ・コペンハーゲンの瑞々しいハーモニーが、ナチュラルに捉えれば、モノトーンの連作版画のようなこの受難曲を、大理石の彫像として立ち上がらせるかのよう。滑らかで、荘重で、何より立体的に受難の物語を捉えて、印象的。そして、この物語を牽引する、キリストを歌うイェスペルセン(バス)、福音史家を歌うポッジャー(テノール)にも、そうしたトーンが次第に広がり。それは、受難劇の仰々しさとは違う、現代的なドラマを見るようであり。特に、じわりじわりと熱を帯びてゆくポッジャーが印象的で、抑制的な響きの中で、血の通ったドラマを織り成してゆく。
厳しい響きの中に、鮮やかなドラマを見出す、ヒリアー+アルス・ノヴァ・コペンハーゲンのシュッツのマタイ受難曲。声のみが綴る受難の物語は、より心に響くようで。終曲(track.8)の美しいコーラスに辿りつけば、思いの外、深い感動がこみ上げる。

HEINRICH SCHÜTZ Matthäus-Passion

シュッツ : マタイ受難曲 SWV 479

キリスト : ヤコブ・ブロック・イェスペルセン(バス)
福音史家 : ジュリアン・ポッジャー(テノール)
ポール・ヒリアー/アルス・ノヴァ・コペンハーゲン

DACAPO/8.226094




「前衛」の時代の、元気の良さを集めて... "STORIES"。

HMU807527.jpg11vo.gif
ベリオに始まって、ケージ、そして、伝説のバーベリアン...
シュッツの厳しい響きからは一転、20世紀、前衛の奇作を集めた"STORIES"。いや、それは合唱と言えるのだろうか?というより、音楽なのだろうか?という疑問すら沸いてしまう極まった世界が展開される。しかし、これがおもしろい!まったく、どこまで本気でやっているのか?というパフォーマンスの数々は、これもまた、音楽史が通って来た道であって、20世紀、「前衛」の時代の、ダダで、シュールで、エキセントリックで、何でもありの予測不可能な底抜けさ、それをやり切ってしまった時代の元気の良さを思い知らしてくれる。
1曲目、ベリオの"A-Ronne"は、まるで、コーラスによるミュージック・コンクレート。歌う、ではなく、語る、というか、いや、日常のしょうもない会話(のように聞えるのだけれど... )の断片を拾い集めて、何だか音楽にしてしまう離れ業?そうした中に、スーっとメロディやハーモニーが現れて、聴く者を幻惑するあたりは、まさにベリオ... 謎めきつつ錯綜するような感覚が、アイロニックであって、何とも言い難くも、味わい深いものを見せる不思議さ。2曲目、ケージの"STORY"(track.2)は、まるでテープ音楽(例えば、ライヒの"It's Gonna Rain"のような... )のような、ひとつのフレーズがループ状に重ねられて、音楽に仕上げられてしまう離れ業。それにしても、そのフレーズ、「ワンサポナタイ(once upon a time... )」が、耳に残る。とてもヘンテコなのに、ヒリアー+シアター・オブ・ヴォイセズのクリアさが捉えると、妙にスタイリッシュに響くからおもしろい。
ヒリアーならではの、無駄の無いセンスが、一筋縄ではいかない「前衛」の奇作の数々を、どこか素っ気なく包み込む。ギョっとさせられるキテレツさ、なのだけれど、それが何か?というくらいに、さらりとサウンドにしていて... いや、それくらいがちょうどいいのかもしれない。だからこそ、キテレツさが無理なく引き立ち、おもしろいのかもしれない。とはいえ、シェルドン・フランクの"As I Was Saying"(track.5)では、ヒリアー自身もお馬鹿(つなぎの言葉だけで、延々と語る?)をやらかしてくれるのだけれど...
それにしても、シアター・オブ・ヴォイセズのパフォーマンスが凄い!おもちゃ箱をひっくり返して、様々なおもちゃで脈略なく遊ぶような作品の数々を、まったく器用にひとつにまとめ上げ(というより、成り立たせて... )、"STORIES"として楽しませてくれるのだから。コーラスが、歌うことなく、音楽を生み出す不思議ワールド。まったく、何んなんだ?!と、思いながらも、惹き込まれてしまうから、驚かされる。

STORIES BERIO AND FRIENDS THEATRE OF VOICES ・ PAUL HILLIER

ルチアーノ・ベリオ : A-Ronne
ジョン・ケージ : STORY
ジャクソン・マクロウ : Young Turtle Asymmetries
ロジャー・マーシュ : Not A Soul But Ourselve
シェルドン・フランク : As I Was Saying
キャシー・バーべリアン : Stripsody

ポール・ヒリアー/シアター・オブ・ヴォイセズ

harmonia mundi/HMU 807527




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