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バロックとバッハ。 [2007]

NHKのETVにて、『schola 坂本龍一 音楽の学校』の第2シーズンが始まる。で、結構、楽しみにしている。音楽史を丁寧にテレビで見せてくれるって、やっぱ、NHKだよね(それにしても、坂本教授で十分に濃いところに、浅田氏まで入り込んで、小沼センセに、岡田センセに... って、贅沢というか、船頭が多過ぎるというか、盛り過ぎのように感じてしまうのだけれど... )。と、感心しつつ、その中身については、ツッコミも入れつつ... さて、その第2シーズン、「古典派」がテーマとのこと。で、第1回目は、その前段階としてのバロックについて、バッハを例に語られるのだけれど... やっぱり、バロックに関して、バッハで語るのは無理があるよなぁ~ と、早速、ツッコミを入てみる。バッハは音楽そのものを象徴しても、バロックを体現した存在と言えるのだろうか?
ということで、バッハを聴きたくなる。
ここのところ、プレ・モダン(マーラー)、モダン(ヒナステラ春の祭典プーランク中東欧の弦楽四重奏曲ショスタコーヴィチ... )が続いたので、そろそろ揺れ戻して... バッハ・コレギウム・ジャパンのロ短調ミサ(BIS/BIS-SACD-1701)、バルタザール・ノイマン合唱団によるカンタータ、他(deutsche harmonia mundi/88697115702)、カントゥス・ケルンによるミサ・ブレヴィス(harmonia mundi FRANCE/HMC 90901939)、ル・コンセール・ダストレによるマニフィカトとヘンデルのディキシット・ドミヌス(Virgin CLASSICS/395241 2)、ネザーランズ・バッハ・ソサエティのロ短調ミサ(CHANNEL CLASSICS/CCS SA 25007)、2007年にリリースされた5タイトルを、さっくり聴く。


バッハ・コレギウム・ジャパンのロ短調ミサ。

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満を持してのバッハ・コレギウム・ジャパンによるロ短調ミサ... ということで、期待が募ったロ短調ミサだった。が、例の如く、期待のし過ぎで... そして、今、改めて聴くのだけれど、やっぱりBCJは凄い!となるから、第一印象というのは何なのだろう?と、思ってしまう。いや、どんな演奏も、一度、落ち着いて、改めて聴かねば、本当の良し悪しはわかないのかも... それにしても、何と魅力的な!
冒頭のキリエから、微妙に熱を帯びていて、BCJ独特の朗らかさとはまた一味違うのか?ちょっと、ゾクっとさせられる。生々しい?とは違う、艶っぽい?とまではならず、これ見よがしではないあたりが、BCJのセンスの良さで。何より、BCJだからこそのバッハが、ベースにしっかりあって。独特のアルカイックな響きが、心地良く。極東という距離を置いた場所からバッハの音楽を見つめるイノセンスさ、手垢に塗れていないバッハの音楽のピュアな姿!バロックに沸いたヴェネツィア、ナポリ、華やかだったろうパリ、活気に溢れていただろうハンブルク、ロンドン、あるいは趣味の良いフリードリヒ大王の宮廷、ゴージャスなドレスデンの宮廷... そうしたバロックのホット・スポットとは距離のあったバッハのローカル性を、素朴な姿そのままに輝かせるBCJ。バッハとしては、当時のモードを何とか咀嚼し、ホット・スポットを目指して、目一杯、がんばった華やかな作品だが、そのがんばりが現代に微笑ましく伝わる... そんな気の置けないロ短調ミサは、典礼の仰々しさを脇にやって、音楽そのものの魅力を純真に繰り広げて、何だか、ぽっと温かくしてくれる。

J. S. Bach ・ Mass in B minor ・ Bach Collegium Japan / Suzuki

バッハ : ミサ ロ短調 BWV 232

レイチェル・ニコルズ(ソプラノ)
キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
ロビン・ブレイズ(アルト)
ゲルト・テュルク(テノール)
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン

BIS/BIS-SACD-1701




バルタザール・ノイマン合唱団の、生の喜び、死の芸術...

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前半はパーセルによる葬送の音楽、後半は大バッハの2つのカンタータに、ヨハン・ルートヴィヒ・バッハ(マイニンゲンのバッハ、大バッハの祖父の従弟の孫... )のモテットを挿んで。生の喜び、死の芸術を歌う、バルタザール・ノイマン合唱団の意欲作、"Lebenslust und Sterbekunst"。ヘンゲルブロックならではの凝った構成が、アルプスの北のバロックの、ストイックなサウンドに、生と死のコントラストを描きつつ、表裏一体の生と死を、ナチュラルにつなげもして、美しく響かせる1枚。
パーセル(1659-95)、ヨハン・ルートヴィヒ・バッハ(1677-1731)、大バッハ(1685-1750)という、アルプスの南のバロックとは一線を画す、古風なサウンドを集めて共鳴する感覚が絶妙で。ケレンに彩られて、大立ち回りのバロックからすると、一見、地味にも思える音楽だが、聴けば聴くほどに、北方の瑞々しさに魅了される。パーセルの透明感、大バッハのそこはかとなくドラマティックなあたり、何より、ヨハン・ルートヴィヒ・バッハのキャッチーさ!大バッハがリスペクトしていたという存在だけに、思い掛けなく魅力的で... ドイツ・バロックも、大バッハばかりではないなとつくづく感じてしまう。
そうしたアルプスの北のバロックの魅力を、しっかりと引き出すヘンゲルブロック率いるバルタザール・ノイマン合唱団の歌、同アンサンブルの演奏がまた味わい深く。ストイックなはずのサウンドが、どことなしに艶っぽく、ロマンティックにも香り、印象的。生と死というテーマが官能的な表情をほころばせ、シューマンや、マーラーへと至る流れを見出すようでもあり、バロックにして、そういうスケール感を越える美しさを漂わせる。

Bach ・ Purcell Motetten ・ Kantaten
Balthasar-Neumann-Chor ・ Balthasar-Neumann-Ensemble ・ Thomas Hengelbrock


パーセル : アンセム 「主よ、われらの罪を思い出したもうことなかれ」
パーセル : メアリー女王の葬送ための音楽
パーセル : アンセム 「主よ、我が祈りを聞き給え」
J.S.バッハ : カンタータ 第131番 『深き淵よりわれ汝に呼ばわる、主よ』 BWV 131
ヨハン・ルートヴィヒ・バッハ : モテット 「我らは知る、この世の家は」
J.S.バッハ : カンタータ 第150番 『主よ、われは汝を求む』 BWV 150

バルタザール・ノイマン合唱団
トーマス・ヘンゲルブロック/バルタザール・ノイマン・アンサンブル

deutsche harmonia mundi/88697115702




カントゥス・ケルンによるミサ・ブレヴィス。

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キリエとグローリアで構成される、短縮版のミサ... ミサ・ブレヴィス。ロ短調ミサの壮大さはとは一味違う軽やかさがまた魅力的な、バッハのミサ・ブレヴィスなのだけれど。バッハにしては、よりメロディック?そのあたりが、古典派的な平易さを垣間見せるようで、バロックからもう一歩を踏み出すような感覚が新鮮。あの重そうな仰々しい鬘をかぶって、不機嫌そうにどっしりと構えるバッハのイメージからすると、ミサ・ブレヴィスは、受難曲やカンタータなどとは、ちょっと毛色の違う、隠れた名曲のような気がする。
という、4つあるミサ・ブレヴィスを、2枚組で全曲を歌う、ユングヘーネル率いるカトゥス・ケルン... ユングヘーネルの伸びやかな音楽性が、バッハのステレオタイプに隠れたもうひとつの魅力をより引き出して。やわらかなメロディを、ふんわりと、明るく素直なトーンで紡ぐげば、バッハがポップにもなり得て、愛らしくすらあるからおもしろい。のだが、声楽陣を若返らせたというカントゥス・ケルンの歌声には、わずかに乱れ、というか、歌い切れないようなところを感じ... ユングヘーネルが仕掛けるOVPP、1パートにつき1人の声という最小限のアンサンブルでは、粒揃いでないと、粗が目立ちやすい?それまでの、クリアで、そこはかとなしにヴィヴィットだったカントゥス・ケルンの歌声を思い起こすと、少し残念。もちろん、すばらしいところもたくさんあるのだけれど、気にし過ぎか?
一方で、器楽部隊は丁寧で朗らかな演奏を繰り広げて。ところどころに散りばめられたオブリガートが、楚々としつつも存在を示して、歌ばかりでなく、彩りを添える。

J.S.BACH Missae breves CANTUS CÖLLN

バッハ : ミサ ヘ長調 BWV 233
バッハ : ミサ イ長調 BWV 234
バッハ : ミサ ト短調 BWV 235
バッハ : ミサ ト長調 BWV 236

コンラート・ユングヘーネル/カントゥス・ケルン

harmonia mundi FRANCE/HMC 901939




ル・コンセール・ダストレの、マニフィカト、ディキシット・ドミヌス。

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バッハのマニフィカトと、ヘンデルのディキシット・ドミヌス... この2つの作品を1枚のアルバムに収めてしまおうとは... ドイツ・バロックの素朴な音楽に、イタリア・バロック(ヘンデルのイタリア時代ということで... )のドラマティックな音楽。まさにバロックの幅というか、なかなか他では聴けない対極に挑んだアイムの大胆さに感心しつつ... 何より、2作品ともすばらしい作品だけに、バッハとヘンデルの対決(いや、別に戦っているわけではないけれど... )がおもしろい!しかし、その対極を1枚に収めきるのはなかなか難しい...
アイムが率いるル・コンセール・ダストレは、とにかく攻める!カップリングのみならず、その演奏も実に大胆!スイッチの入ったアイムが繰り出すテンションというのは凄い。とにかく、バッハだろうがヘンデルだろうが、一気呵成に鳴らして、バロック・エンターテイメントを繰り広げてしまう。またそこに、彼らのフランスのピリオドならではの色彩感が、絶妙のスパイスとなり... マニフィカトの朗らかさは、より明るく楽しげな表情で充たし、ディキシット・ドミヌスの劇的なあたりは、さらに鮮烈さを加えて、圧巻。なのだが、やっぱり荒ぶり過ぎるか?
バッハでは、荒ぶるがゆえに、多少、粗が目立ち、ヘンデルでは、その荒ぶる感覚こそがぴたりとはまる。またそこに、バッハとヘンデルの性格の差がくっきり浮かび上がるようでもあり、興味深い。しかし、彼らのディキシット・ドミヌスの、ケレンに彩られた有様は、まさにバロック!オペラなど足下にも及ばないようなドラマティックな仕上がりに、シビれてしまう。

JS BACH: MAGNIFICAT - HANDEL: DIXIT DOMINUS
LE CONCERT D'ASTRÉE / EMMANUELLE HAÏM


J.S.バッハ : マニフィカト ニ長調 BWV 243
ヘンデル : ディキシット・ドミヌス HMV 232

ナタリー・デセイ(ソプラノ)
カリーヌ・デゥシェイェ(ソプラノ)
フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
トビー・スペンス(テノール)
ローラン・ナウリ(バス)
エマニュエル・アイム/ル・コンセール・ダストレ

Virgin CLASSICS/395241 2




ネーデルラント・バッハ・ソサエティのロ短調ミサ。

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始まりのキリエ... そのベルベットのような歌声、演奏に、眩暈を起こしそうだ。それにしても、何というヨーロッパ!これぞヨーロッパという、積み重ねられて来た歴史、伝統から搾り出され、熟成される、得も言えぬ豊潤なサウンド!フェルトホーフェン率いるネザーランズ・バッハ・ソサエティならではの独特の感覚... というのは、わかっているはずなのだけれど、今、改めて聴けば、その音楽感に、ただならず酔わされてしまう。
しかし、もの凄いクウォリティだ... 歌手陣、器楽陣、それぞれが、ただならないパフォーマンスを見せる。テクニックに優れているのは当然で、何より音楽性に優れていることが、瞬間、瞬間、じわじわと伝わって来る。そして、それらを丁寧に結び付け、ひとつの有機体として呼吸させてしまうフェルトホーフェン。大作の隅々までを血が通い、脈動するようであり、すると音楽は体温を持ち、どこか汗ばんでさえいるような、異様な迫力に包まれる。色とりどりの音楽を集めて綴られたロ短調ミサの、さんざめく印象はぐっと引き締まり、ひとつの作品としての明確な美しさが内側から滲み出し、香り出し。まさに、そこに、ヨーロッパを感じて。何だかそれが危うげにも感じられて。凄い面々が束になって生み出す音楽というのは、いい意味で尋常ではない。
神を讃えるはずの典礼曲だが、ネザーランズ・バッハ・ソサエティのロ短調ミサに触れていると、ヨーロッパ的「美」の甘い誘惑に堕ちてゆくような心地にさせられる。いや、バッハの音楽に、こういう感覚を覚えるとは... 恐るべしフェルトホーフェン。凄まじきネザーランズ・バッハ・ソサエティ。何たるロ短調ミサだろう!

J.S.Bach MASS IN B MINOR HOHE MESSE BWV232

バッハ : ミサ ロ短調 BWV 232

ドロシー・ミールズ(ソプラノ)
ヨハネッテ・ゾマー(ソプラノ)
マシュー・ホワイト(カウンターテナー)
チャールズ・ダニエルズ(テノール)
ピーター・ハーヴェイ(バス)
ヨス・ファン・フェルトホーフェン/ネザーランズ・バッハ・ソサエティ

CHANNEL CLASSICS/CCS SA 25007

しかし、2007年のバッハ... 改めて振り返ってみると、これも?あれも?!と、驚いてしまう。
そんなこんなで、5タイトル。しっかり、楽しめた。




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