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春の祭典。 [2007]

先週末、クラシックが、ニュースを沸かす(派手に... ではないのだけれど... )。
第52回、ブザンソン国際若手指揮者コンクールで、日本人が連覇した!世界のオザワも、ここから始まった、その指揮者コンクールの最高峰で... いや、凄い!
まったく、嬉しい話しであり、また日本に元気を届けてくれた!と、盛り上がるわけだが、指揮者の世界そのものを見つめれば、そう甘くはない... 最も権威のあるブザンソンの優勝者たちを振り返って、今、世界的なマエストロである、と言い切れる指揮者は何人いるだろうか?華やかなニュースの一方で、結局、どういうポストを獲得し、キャリアを積み重ねて来たが重要な指揮者の世界、まったくシビアだなと、つくづく思う。

ということで、優勝者ではないのだけれど、その後、きっちりとキャリアを積み上げて、今、まさに存在感を増す、1974年の第2位、シルヴァン・カンブルランと、彼が昨シーズンまで率いたバーデン・バーデン-フライブルクSWR交響楽団によるストラヴィンスキーの『春の祭典』(hänssler/93.196)。さらに、気鋭の女性ピアノ・デュオ、ブガッロ&ウィリアムズによる『春の祭典』(WERGO/WER 6683 2)。前回、マーラーを聴いた勢いで、再び、ジョナサン・ノット率いるバンベルク交響楽団... やはり、彼らならではの感覚が活きる『春の祭典』(TUDOR/TUDOR 7145)。2007年にリリースされた3つの『春の祭典』を聴き直す。


カンブルランの、『春の祭典』。

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まさに、秋を迎えようとしている時に、春の祭典というのも、妙な感じはするのだが...
一方で、『春の祭典』に"春"のイメージはあるだろうか?不協和音と変拍子の祭典であって、それまでの音楽の伝統を破壊する今を以ってしても衝撃的な作品だ。が、そんな作品に、色彩に溢れる"春"をイメージさせるカンブルラン+バーデン・バーデン-フライブルクSWR響の演奏。『春の祭典』のバーバリスティックな性格をきっちり解析して、全てのパーツに多彩な春の色を彩色してゆく。カンブルランならではの明晰さと色彩感が織り成す『春の祭典』からは、これまでには味わえなかった美しさがこぼれ出す。それがとても新鮮!一方で、色彩に溢れる"春"の中、乙女を生贄に捧げるという震撼すべきストーリーが展開するグロテスクさ!美しきバーバリスムを実現したカンブルランの希有な音楽性が、より刺激的な『春の祭典』を創り出す。
さて、このアルバム、hänsslerが展開中のバレエ・リュスのシリーズの第1弾(ちなみに、最新盤はvol.7... )。ということで、さらに2つ、バレエ・リュスにより上演された作品が取り上げられるのだけれど。『春の祭典』の同年(1913)、その2週間前に初演されたドビュッシーの『遊戯』(track.15)と、その前年(1912)に初演されたデュカスの『ラ・ペリ』(track.16, 17)。で、これがまたすばらしい!
『春の祭典』のセンセーショナルに掻き消されてしまったとはいえ、ドビュッシーの『遊戯』はなかなか味わい深いモダニズムを味わえる作品。けど、ちょっと掴みどころも無い?いや、カンブルランの手に掛かれば、ドビュッシーの粋なあたりをふんわり香らせて。モダニズムの突飛さを、洒落たアクセントに置き換える巧さ!そして、デュカスの煌びやかなサウンドでは、よりカンブルランのセンスが活きて、鮮やかな『ラ・ペリ』を楽しませてくれる。こういう、陰に隠れがちな近代作品を、さらりと、そして魅力いっぱいに響かせてくるあたり、最高!

DIAGHILEV ― BALLETS RUSSES VOL. 1

ストラヴィンスキー : バレエ 『春の祭典』
ドビュッシー : バレエ 『遊戯』
デュカス : 『ラ・ペリ』 前奏用 ファンファーレ
デュカス : 舞踏詩 『ラ・ペリ』

シルヴァン・カンブルラン/バーデン・バーデン-フライブルクSWR交響楽団

hänssler/93.196




ブガッロ&ウィリアムズの、『春の祭典』。

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連弾による『春の祭典』。久々に聴くと、思いの外、おもしろい...
あのオーケストラの巨大な響きが、4手にまとめられてしまうわけだ。タイトに整理されたサウンドは、『春の祭典』の姿をくっきりと浮かび上がらせるようで、新鮮。一方で、20世紀の伝説の作品を、より身近なものにするようでもあり。オーケストラでは味わえない4手から紡ぎ出される感覚は、『春の祭典』の細部のおもしろさをより分かり易く展開して、興味深い。いや、オーケストラでの演奏をしっかり聴いた後では、さらにおもしろく感じてしまう。
という、連弾による『春の祭典』を聴かせてくれるのが、気鋭の女性ピアノ・デュオ、ブガッロ&ウィリアムズ。2人の確かなテクニックと息の合ったあたりはもちろんのこと、"女性"ピアノ・デュオとしてのガーリーさが、作品におもしろい味わいを残して印象的な2人... もちろん、それは『春の祭典』でも... この作品の良くも悪くもセンセーショナルなあたりを、そのガーリーさがするりと捉えて、どこかポップに響かせてしまう!それでいて、何とも言えずニュアンスに溢れ... バーバリスティックな強烈さに押し潰されてしまっていた、ちょっとした表情を、丁寧に拾い上げ、それらを積み重ね、バーバリスティックなだけでない『春の祭典』像を、堂々と響かせる。それは、まったく新鮮であり、微笑ましくもあり、妙にツボにはまってしまう。一方で、フィナーレ、生贄の踊り(track.14)などは、オーケストラに負けじと鬼気迫り、聴き応えは十分。そうしたコントラストの付け方も絶妙。
さて、『春の祭典』の後にも、2台のピアノ、連弾によるストラヴィンスキーの作品が続く... これがまた多彩で...特に印象に残るのは、軽やかに擬古典主義を響かせる「ダンバートン・オークス」(track.18-20)。そのヴィヴィットでスタイリッシュな響きは、オリジナルの協奏曲として聴くより、活き活きとしているようで、素敵。そして、アルバムの最後を飾るダンス(track.29)。このすっとぼけたキャッチーさは、たまらない...

Igor Strawinsky Arrangements for Piano Duo by the Composer

ストラヴィンスキー : バレエ 『春の祭典』 〔連弾による〕
ストラヴィンスキー : 弦楽四重奏のための3つの小品 〔連弾による〕
ストラヴィンスキー : 協奏曲 変ホ長調 「ダンバートン・オークス」 〔2台のピアノによる〕
ストラヴィンスキー : 七重奏曲 〔2台のピアノによる〕
ストラヴィンスキー : ムーヴメンツ 〔2台のピアノによる〕
ストラヴィンスキー : ダンス 〔連弾のための〕

ヘレン・ブガッロ(ピアノ)、エイミー・ウィリアムズ(ピアノ)

WERGO/WER 6683 2




ノットの、『春の祭典』。

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ブザンソンのような輝かしい場所からではなく、オペラハウスの練習室、コレペティトゥア(伴奏ピアニスト)から始めて、少しずつ階段を上り、今や、バンベルク交響楽団の首席指揮者であるジョナサン・ノット。ちょっと古風なくらいに、まさに「叩き上げ」の指揮者だ。で、そのキャリアをおもしろくしているのが、現代音楽の専門家集団、アンサンブル・アンテルコンタンポランの首席指揮者も務めたこと... これが、ジョナサン・ノットという名前に、スパイスを効かせ、他の指揮者とは一味違う、興味深い次元を聴かせてくれる。叩き上げにして、知性派という、おもしろい組合せ... そのことを、特に思い知らされたのが、『春の祭典』だった。
『春の祭典』ならではのプリミティヴさに貫かれつつも、これまでの感覚とは明らかに違って、センセーショナルな派手さは抜け落ち、そのサウンドはどこか枯れたようにも聴こえる。そして、妙に素朴にも思えて... 近代音楽の決定打としての堂々たる威容を示すのではなく、異様に内向きに響く『春の祭典』(初めて聴いた時は、軽い拒絶感も... )。いや、こういうことも可能なのかと、ノット+バンベルク響の境地に驚かされる。そして、その境地が、新たな扉を開くようでもあり、そこに現れるプリミティヴさは、西洋音楽の枠には無い。
もちろん、非西洋的な供儀を描いているのが『春の祭典』... が、そういう非西洋性は、伝統を打ち負かす方便であって、西洋近代音楽のスーパー・ナチュラルとして響かせるのが作法であり、それが『春の祭典』のカッコいい姿だと信じて来た。が、ノットは、その「西洋近代音楽」の看板を外してしまう。
例えば、第2部、生贄への賛美(track.11)、まさに聴かせ所だが... その激しいリズムを刻む太鼓の音が、どうも極東か、北米あたりの、西洋から遠く離れた、本当にプリミティヴなイメージを喚起させて、ゾクゾクさせられる。それはまた、作品全体にも言えることで、非西洋のリアルな姿が浮かび上がるようであり。"異教の供儀"という原点に立ち返る。というより、その恐るべき神秘の情景を目の当たりにするような、衝撃が走る。どこへ連れて来られてしまったのだろうと、背筋が寒くなる。
そんな情景を描き出すバンベルク響の妙!現代的なハイ・エンドなオーケストラとは違う、バンベルク響のローカルな場所にあったからこその、クラシックのいやらしさが、『春の祭典』を思わぬ境地へと引っ張り出す。何より、思わぬ境地へときっちりとガイドするノットの指揮ぶりが、もはや知性派云々のレベルでなく、魔術師のレベル... バンベルク響のローカル性をここまで昇華し、流行りのオーケストラが及びも付かないような境地に至っていることが、凄い!恐るべし、ノット!そして、『春の祭典』は、本当に凄い作品だ...
この演奏に改めて触れて、改めて思い知る。

STRAVINSKY: LE SACRE DU PRINTEMPS

ストラヴィンスキー : バレエ 『春の祭典』
ストラヴィンスキー : 3楽章の交響曲

ジョナサン・ノット/バンベルク交響楽団

TUDOR/TUDOR 7145




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