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戦後、「前衛」の時代の、ヒナステラ... [2011]

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さて、10月となりました。いや、速い!時が経つのが速過ぎる!
あと3ヶ月はあるけれど、すでに濃密過ぎるほどに濃密な年となった2011年。ここまでがあっという間で、振り返ってみると恐くなる。光陰矢のごとし... は、文字通り、それでいて、そんな悠長なことも言っていられないような、これまで味わったことのないスピード感。さらに、今、第九のコンサートの案内が届き、すでに、クリスマス関連のアルバムのリリースが始まって、葉が落ちるどころか、色付く前から年末が迫って来て... 過ぎてゆくばかりでなく、前からも押し寄せて来る「時」。こういう感覚は、いつまで続くのだろう?何だか酸欠を起こしそう。
そんな時に、「時」の流れを忘れさせてくれる、ちょっと深い音楽... マーク・コソワーのチェロ、ローター・ツァグロセクの指揮、バンベルク交響楽団の演奏で、ヒナステラの2つのチェロ協奏曲(NAXOS/8.572372)。そういうつもりで手に取ったわけではないのだけれど(アグレッシヴ+プリミティヴな近代音楽を楽しみにしていたのだけれど... )、思わぬトーンに聴き入ってしまう...

ヒナステラといえば、やっぱり『エスタンシア』だ。その『エスタンシア』の最後、「マランボ」の躍動感が、たまらなく魅力的なわけだが... そういうものを他でも味わいたいと、いろいろヒナステラを聴き始めると、『エスタンシア』ばかりがヒナステラではないことを思い知らされる。そして、出会う作品、出会う作品、また違うヒナステラを聴かせて、驚くことに。2つのチェロ協奏曲も、またそうで... 1番、2番ともに、1960年代、ヒナステラの新表現主義の時代の作品になるのだけれど。「新表現主義」というくらいだから、何か、凄まじい表現を期待(『ポポル・ヴー』は凄かった!)してみたら、意外に内向きな音楽が展開されて、興味深い。
1曲目、2番のチェロ協奏曲は、始まりから瞑想的でミステリアス。ベルクを思い起こさせるような(ベルクはチェロのコンチェルトは書いていないけれど... )、調性を失いつつ、ロマンティックの残り香の中を、チェロが静かに歌い始めるのが印象的。そして、2楽章、3楽章と、深層へと下りてゆくような感覚があって、「マランボ」の弾けるリズム、鮮やかなサウンドからは、まったく遠い世界が広がる。が、こういうヒナステラもいい... チェロの深い音色が、オーケストラの奏でる怪しくも神秘的な靄の中を、ゆっくりと流れてゆく。どこか、アマゾン(ヒナステラは、アルゼンチンの作曲家ではあるのだけれど... )を小舟で進むような佇まいが、静かに、そこはかとなしに魅力的。西洋でもなく、近代でもなく、南米の土着の文化とも違う、それらのちょうど中間を、注意深く漂うようであり、曖昧模糊としつつも繊細な音楽は、不思議と心地良い。が、終楽章(track.4)、思索的なカデンツァの後で、一転、ラテンのリズムなのか、太古のプリミティヴなリズムというのか、突如として立ち上がり、そんな展開に驚かされる。それは、若干、蛇足的にも感じなくもないが、そういう部分こそ、ヒナステラでもある?
続く、1番のチェロ協奏曲... 2番同様、その1楽章(track.5)は瞑想的でミステリアス... それが、2楽章(track.6)では、一転、ロック調?いや、派手ではないのだけれど、チェロがスリリングに疾走してゆく感覚が、クールでもあり。時折、現れるグリッサンドは、どこか電子音にも聴こえて、不思議。そして、終楽章(track.7)、より「新表現主義」的と言うべきか、迫力のある音響に彩られ... スペクトル楽派的なサウンドも滲み、一筋縄ではいかない音楽が、またおもしろい。が、最後は、やはりベルクのような、チェロが静かに歌う感覚が印象的で...
そのチェロを弾く、マーク・コソワー。彼の演奏がいい。チェロならではの落ち着きを活かし、抑制的に、丁寧に、過不足なく美しく仕上げる。その実直な演奏が、ヒナステラの新表現主義に、絶妙なドライブを効かせて、作品が内包する深い世界を掘り下げる。そして、チェロを繊細に取り囲む、ツァグロセクの指揮するバンベルク響。彼らの演奏も力任せでは無い、ヒナステラが込めた様々な響きを丁寧に拾い集め、独特の音の織物を丁寧に響かせる。幾度か訪れるクライマックスも、繊細さの集積として迫力を生み出すようであり。そうした姿勢が、ヒナステラの2つのチェロ協奏曲を、より充実した、意義深いものとしていて、手応えは十分。
戦後、「前衛」の時代、アルゼンチンの近代音楽の大家が至った境地を見る、2つのチェロ協奏曲。20世紀後半の芸術に充満した独特の空気感に敏感に反応し、近代をベースに音を鳴らしたヒナステラの新表現主義は、21世紀の現代から聴くと、ぼんやりとノスタルジックでもあり。何より20世紀後半の骨太の音楽に、スパイスとしてのあざとさ(ラテン調であったり、プリミティヴであったり... )。と言うのか。南米を凌駕しつつも、南米であることも欠かさないヒナステラのおもしろさ。2つのチェロ協奏曲を聴いて、そのあたりに感じ入る。そして、ヒナステラ(1916-83)、生誕100年のメモリアルが5年後に迫るわけだが、『エスタンシア』ばかりでない、ヒナステラ・ルネサンスが楽しみに... いや、ヒナステラには、もっともっと取り上げられるべきおもしろさがある!

GINASTERA: Cello Concertos

ヒナステラ : チェロ協奏曲 第2番 Op.50
ヒナステラ : チェロ協奏曲 第1番 Op.36

マーク・コソワー(チェロ)
ローター・ツァグロゼク/バンベルク交響楽団

NAXOS/8.572372




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