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プーランクの意外にも深く多様な音楽世界... [2011]

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1927年に作曲された、プーランクの田園コンセール。
音楽も近代へと深く踏み込んで行った時代、ピアノが普及する以前、西欧音楽の中心にあったチェンバロを、もう一度、舞台の真ん中に置いてみる。そのチェンバロに合わせて、18世紀風の軽やかで能天気なサウンドを仕立て、近代にあって個性を際立たせる擬古典主義を象徴する作品なわけだが。ふと考えてみると、この作品は、1920年代における、ある種のピリオド・アプローチだったのかもしれない。
という作品に手を出した、ピリオド界の最も危険なマエストロ、ジョス・ファン・インマゼール... この人が取り上げる作品というのは、常にピリオドの枠を大胆に押し広げて、ハラハラさせられるほどにラディカル。リリースごとに驚かせてくれたわけだが、このプーランクは、極めつけ。それは、ピリオドの、ピリオド?20世紀前半、18世紀へと立ち返ったプーランクに、21世紀の今、立ち返る。となると、インマゼールはどの時点へと立ち替えるのか?「擬古典主義」という舞台セットを前に、「ピリオド」というタイム・マシーンが時代を行き来して、聴く者を煙に巻くアルバム、ジョス・ファン・インマゼールと、彼が率いるピリオド・オーケストラ、アニマ・エテルナによるプーランクの作品集(Zig-Zag Territoires/ZZT 110403)を聴く!

ダン!ドン!猫騙し的に始まる、1曲目、2台のピアノのための協奏曲(track.1-3)。いや、驚かされる。気合を入れて驚かしに来ているのか、最初のダン!ドン!に重さがある... そして、その重さは最初だけでなく、アルバム全体を包む... プーランクは軽い。あっちへこっちへ飛び跳ねて、愉快な音楽を繰り広げる。そんなイメージがあったから、この重さが衝撃的。ピリオドの楽器たちが発する無骨な響きが束になると、洒脱なプーランクの音楽も、飛び跳ねていられないようで、また違った表情を見せる。ところどころダークで、何だかディープ... インマゼール+アニマ・エテルナの個性が、プーランクの意外にも深く多様な音楽世界を掘り起こして、幻惑する。
擬古典主義という括りで語られる2台のピアノのための協奏曲だが、ひとつのイズムに落とし込むようなことはしない、人を食ったキテレツ作品でもある。ムーラン・ルージュにでも迷い込んだような、チープでキャッチーなメロディが踊り、ストラヴィンスキー?バルトーク?ブリテン?まるで近代音楽のカタログのように、次から次へとテイストの違うサウンドやリズムがスパイスを効かせ... かと思えば、1楽章の最後にはガムラン?まるで万国博覧会のよう... そして、2楽章(track.2)では、擬古典主義のイメージを裏切らないモーツァルト調が来て... こうなると、シュニトケを先取りする多様式主義?また、インマゼールの手に掛かれば、その多様式が強調されて、こんなにも様々なイメージが隠れていたかと、改めて驚かされることに。
とっちらかった音楽をお洒落にまとめて、キッチュな魅力を振りまくプーランク... とするのではなく、逆にとっちらかり様を丁寧に音にして、徹底してそれぞれのおもしろさを鳴らし切る。そして、じっくりと聴かせる(インマゼールの作品に対する向き合い方は、プーランクでも一貫している... )。すると、キテレツ作品に、キテレツさを越えた風格が漂い出して、おもしろい!そこに、クレール・シュヴァリエ、インマゼールのいつものコンビが弾く、エラールのピアノが、得も言えぬアンティークなトーンを垂らし込み。どこかメランコリックで、深く豊かなその音色。古き良き時代が薫るような感覚は、ピリオドのピアノなればこそ!それにしても、何と雰囲気のある演奏だろう...
2曲目、フランス組曲(track.4-10)では、アニマ・エテルナのブラス・アンサンブルの落ち着いたサウンドが、モダンの楽器では引き出し得ない、絶妙な瑞々しさを響かせ、作品の持つアルカイックさを突飛なものとせず、素朴に結び印象的。3曲目、田園コンセール(track.11-13)では、18世紀の牧歌的な「田園」の姿よりも、ベートーヴェンの「田園」を思わせるような肉厚なサウンドが、よりアグレッジヴな風景を描き出し、雄大。一方で、フロボコヴァーが弾くチェンバロ・ソロは、ロココを思わせる装飾に縁取られ、繊細さを極め、美しい。いや、多少の軽薄さ(それこそが魅力でもあったはずなのだが... )すら感じていたプーランクが、こうも聴かせる音楽であったとは?!擬古典主義をピリオドで... その突拍子の無さに、懐疑的な思いも無くはなかったが、インマゼール+アニマ・エテルナがプーランクを取り上げる意味は十二分にある!
田園コンセールが1927年、2台のピアノのための協奏曲が1932年、フランス組曲が1935年... となると、このアルバムで再現されているのは、第1次世界大戦(1914-18)と第2次世界大戦(1939-45)の間の時代(ピリオド)。そう昔のことではないはずだが、その感触はこうも違うかと驚かされる。これまで、クラシックというジャンルは、ピリオドかモダンかを巡って議論されて来たわけだが、今や、モダン(近代)とコンテンポラリー(現代)の間にも線引きが可能となりつつあるのかもしれない。そして、我々が一般的に耳にしているモダンのオーケストラ、いや、コンテンポラリーのオーケストラというものが、如何に洗練されていて、クリアで輝きに満ちたサウンドを放っているかを思い知らされる。と、同時に、ピリオドの無骨さを露骨に曝け出して得られる表情、雰囲気、何より、そこから広がる様々なイマジネーション... そうしたものは失われてしまったのだなと寂しく感じる。

FRANCIS POULENC | Anima Eterna Brugge | Jos van Immerseel

プーランク : 2台のピアノとオーケストラのための協奏曲 **
プーランク : フランス組曲
プーランク : 田園コンセール *

クレール・シュヴァリエ(ピアノ : 1905年製、エラール) *
ジョス・ファン・インマゼール(ピアノ : 1896年製、エラール) *
カテジナ・フロボコヴァー(チェンバロ) *
ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ

Zig-Zag Territoires/ZZT 110403




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