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ヴァシリー・ペトレンコ、研ぎ澄まされる世界... [2011]

この夏と言えば、世界のオザワの健康状態に一喜一憂...
連日、サイトウ・キネン・フェスティバルがニュースで取り上げられた。が、伝えられたのは音楽そのものではなくて、巨匠の健康状態。そうした報道を見ていると、まるでマエストロが、関係者やファンに引っ張り回されているように感じて、複雑な気持ちに。みんな大好き!みんなが聴きたい!のは、よくわかる。まったく以って替え難い存在に違わない... けれど、あまりに一辺倒にも思えて... どうなのだろう?
一方、ニュースで連日取り上げられるなんてことはけして無いが、近頃、若い世代の台頭が著しい。特に、旧ソヴィエト圏出身の指揮者が、シーンに存在感を示しており、とても気になるのだけれど。そうしたひとり、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、ヴァシリー・ペトレンコ(b.1976)。N響定期に客演したりと、日本においてもじわりじわりとその名が浸透しつつある?そんな、ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲のシリーズから、第5弾となる最新盤、1番と3番(NAXOS/8.572396)。第4弾となる、10番(NAXOS/8.572461)。それから、昨年のリリースになるのだが、遅まきながら、第3弾、8番(NAXOS/8.572392)の3タイトルを一気に聴く。


青年ショスタコーヴィチ、充実の交響曲、1番と3番。

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「第九」以降、交響曲における"9番"は、どういうわけか壁として立ちはだかっている。が、その壁を乗り越えたシンフォニスト、ショスタコーヴィチ。一方で、交響曲が15番までもあったりすると、何となく把握しづらいようでもあり... 振り返ると、あれ、どんなだったっけか?なんて思う番号の方が多い。ような。若い頃の交響曲となると、特に... そこで、ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルによるショスタコーヴィチの1番と3番の交響曲を聴くのだけれど。こんなだったか?!と、新鮮な思いで作品と向き合うことに。聴いてなくはないのだけれど、その後の大作、奇作に比べると、やっぱり馴染みは薄い。
ということで、まずは1番(track.1-4)。卒業制作だった!というショスタコーヴィチの早熟ぶりがまず印象に残り... そして、この卒業制作を裁定したレニングラード音楽院の先生たち(グラズノフ、シテインベルク... )の拒否反応に、この交響曲の新しさ、まもなくソヴィエトが全体主義へと堕ちて失われる、ロシア・アヴァンギャルドならではのやんちゃさを感じて来たはずなのだけれど、改めて聴いてみると、でもない?思いの外、きっちりと作り上げられた交響曲の姿を見出し、イメージが少し変わるよう。
ソヴィエトに辛酸を舐めさせられた世代とは違う、若いヴァシリーだからこその、ショスタコーヴィチ作品へのニュートラルな視点が、1番という作品を力むことなく、熱くならずに、丁寧にまとめ、独特の味わいを引き出す。もちろん、ロシア・アヴァンギャルド的な盛り上がりもきっちり捉えてはいるのだけれど、この作品が、挑戦的な学生のケレンで聴かせるばかりでない、伝統をも踏まえた充実ぶりをじっくりと響かせて興味深い。一方、よりショスタコーヴィチ的サウンドを展開することになる3番(track.5-10)では、その後の大作、奇作に負けない魅力を丁寧に拾い上げ、その存在をアピールするかのような、確固たる演奏が印象的。
しかし、その終楽章(track.10)でのコーラスが、何ともいい味を醸していて... ソヴィエトが消滅し、意味を成さなくなったプロパガンダの音楽の、劇画調の能天気さ、キャッチーさは、21世紀の今においては、何だか、クール!こういうの好き!

SHOSTAKOVICH: Symphonies Nos. 1 and 3

ショスタコーヴィチ : 交響曲 第1番 ヘ短調 Op.10
ショスタコーヴィチ : 交響曲 第3番 変ホ長調 Op.20 「メーデー」 *

ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー合唱団 *

NAXOS/8.572396




ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルの充実ぶりを思い知る、10番!

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ロシア革命直後の先鋭的な気分に乗って、挑戦的に独自の音楽を開拓し、注目の新進作曲家となっていったショスタコーヴィチだったが、やがてスターリンが幅を効かせ始めると、苦しい立場へと追い立てられる。「社会主義リアリズム」という名の検閲下、綱渡りの創作活動を続け、スターリン時代をサヴァイヴ。そうして、スターリンの没後、すぐに発表された10番の交響曲。若い頃の交響曲を聴いた後だと、その交響曲然とした堂々たるサウンドに、これぞショスタコーヴィチという確立されたサウンドに、今さらながら魅了されてしまう。
そして、ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィル!何と見事な!いや、彼らのショスタコーヴィチのシリーズは、これまでもおもしろかった。ヴァシリーの現代っ子感覚が、20世紀の激動からショスタコーヴィチという作曲家を巧みにサルヴェージして、ステレオタイプとは一線を画す新鮮な姿、洗練すらされた姿を示して、驚かされたわけだが。この10番では、さらなる進化を見せて、圧巻!やはり、何となくのステレオタイプで聴かせるショスタコーヴィチではない。ソヴィエトがこうだった、ああだったという記憶やら、安易なイメージをスコアから洗い出して、染みひとつないまっさらな上に乗った音符をストイックに追う。それも執拗に追って、追い切って、迫真の音楽を切出して来る!2楽章(track.2)、冒頭の弦楽器による鋭いエッジでドスを効かせるあたりは、本当に衝撃的。そして、衝撃的なまま疾走するスリリングさ!いや、2楽章に限らず... 丁寧に音楽を読み解く秀才肌というだけでない、ヴァシリーの、その秀才のキレっぷりが恐い... いや、この人はタダモノではない...
また、そういうヴァシリーについてゆくロイヤル・リヴァプール・フィル。ただついてゆくのではない、スコアにあるものを完璧に音にして、さらに研ぎ澄まされたサウンドを響かせて。鮮烈で、雄弁で、なおかつ深い... いや、こんなにも凄いオーケストラだった?なんて、目を丸くしてしまう。ちょうど6シーズン目に入ったヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルのコンビだが、想像以上に充実したリレーションシップを結べているのか... すでに、黄金コンビである。そして、彼らのショスタコーヴィチに、10番の交響曲に、ノックアウトである。

SHOSTAKOVICH: Symphony No. 10

ショスタコーヴィチ : 交響曲 第10番 ホ短調 Op.93

ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS/8.572461




結晶と化したショスタコーヴィチに貫かれる快感... 8番。

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こういう曲だった?!と、まず、びっくりしてしまった。
何だかんだで、イメージに捉われているのかもしれないけれど... 「戦争交響曲」の真ん中にある8番は、ショスタコーヴィチならではの沈鬱さと、戦争という非常事態の異様なテンションが、20世紀のヘヴィーなあたりを抉り出すように綴られて... 第2次世界大戦下、スターリン支配下という厳しい状況にありながらも、これぞショスタコーヴィチ的な世界を展開する。その分、イメージは濃密に出来上がってしまっていたのか、ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルの8番を聴いた最初のインパクトは、同じ曲には思えない... というもの。そして、作品のスケール感が小さくなってしまったような、軽くなってしまったような、そんな印象を受けて、妙な感じだった。これも、ヴァシリーならではの現代っ子としてのニュートラルな視点なればこそか?
が、聴き入って感じるのは、音楽としての密度の濃さ... ヴァシリーがロイヤル・リヴァプール・フィルを駆って生み出すサウンドというのは、スコアを隅々まで解析し切って、音符のひとつひとつをきっちり捉え、丁寧にまとめ、強力に圧縮を掛けて結晶としてしまうような。隙の無さはもちろん、硬く、鋭い輝きを見せる研ぎ澄まされた感覚は独特で、この8番は、初めて味わうショスタコーヴィチかもしれない。そうしたあたりから聴く3楽章(track.3)の冒頭の弦楽が刻む怜悧なリズムなどは、切れ味のあまりの鮮やかさに息を呑む。
茫洋と広がる戦場の陰惨な光景... だったはずのものが、ひとつの結晶となって、独特の透明感を湛えて存在し、聴く者に突き刺さって来る。この突き刺さる痛さというのか、ひんやりと鋭く硬い音楽で貫かれる快感は、何なのだろう?ショスタコーヴィチから、その醍醐味たるステレオタイプを奪われて、より恐るべき姿を見せられて慄きつつ、魅せられてしまう。結局、ヴァシリーの感性というのは、「現代っ子」云々では語り切れない。その研ぎ澄まされた感性に驚愕し、また、その感性に導かれ、ただならず研ぎ澄まされたサウンドを紡ぎ出すロイヤル・リヴァプール・フィルのパフォーマンスにも圧倒される... いや、衝撃的な8番だった...
さて、ヴァシリー+ロイヤル・リヴァプール・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲のシリーズ、次回は6番と12番とのことで、大好きな6番が楽しみ!

SHOSTAKOVICH: Symphony No. 8

ショスタコーヴィチ : 交響曲 第8番 ハ短調 Op.65

ヴァシリー・ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

NAXOS/8.572392




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