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明日への連祷。 [2007]

明日で、9.11から10年、3.11から半年...
まず、心ならずも失われた全ての命に、冥福を祈りたいと思います。

しかし、時が経つのは早い。あっという間の10年であり、あっという間の半年であったような... そして、この10年を振り返れば、地球規模で「欲望」が剥き出しとなり、その「欲望」たちが激しくぶつかり合い、欺き合い、秩序を壊しながら暴走を続け。この半年を振り返れば、その「欲望」を越えた何かを求め、惑いつつ、手探りで生きつないだ半年だったように感じる。そして、これからどうなってゆくのだろう?節目の日を前に、明日からの半年が、明日からの10年が、より人間的で、明るいものとなることを願い、祈りの音楽を聴いてみようかと。
2007年にリリースされた3タイトル... マルセル・ペレス率いる、アンサンブル・オルガヌムが歌う、テンプル騎士団の聖歌集、"Le Chant des Templiers"(ambroisie/AM 9997)。ヒムリシェ・カントライが歌う、宗教改革から間もない頃のドイツの讃美歌を集めた"Music of the Reformation"(cpo/777 275-2)。スティレ・アンティコが歌う、イギリス、テューダー朝の時代の夕べの祈りの音楽、"Music for Compline"(harmonia mundi FRANCE/HMU 907419)を聴き直す。


中世のヴァイブレーション、アンサンブル・オルガヌム、"Le Chant des Templiers"。

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『ダ・ヴィンチ・コード』などで、俄然、注目を集めたテンプル騎士団。十字軍により奪回された聖地エルサレムで誕生、数々の対イスラム戦で活躍しつつ、金融業でも成功して大きな資産を築き、が、その資産を狡猾な権力により狙われ、異端の烙印を押されて火炙りに... やがて秘密結社へ?特異な発展とその後の悲劇が伝説を生み、伝説は謎を呼び、今や史実を越えて想像を掻き立てられる存在に。そのテンプル騎士団の聖歌ということで、興味津々で聴いた、ペレス+アンサンブル・オルガヌムによる"Le Chant des Templiers"。アンサンブル・オルガヌムならではの、クラシックのイメージから完全に逸脱してゆく、圧倒的なる中世の姿に、慄きつつ強く魅了されたのだが、今、改めて聴いても、やっぱり圧倒的!
まるで、地の底から発せられるような男声の、粗削りで荒ぶる歌声の異様な迫力!半端ないオリエンタルさ。そこから発せられるただなららないミステリアスさ。それはまるで呪術的ですらあってプリミティヴ。キリスト教会の聖なるイメージを完全に裏切るその姿は、とにかく衝撃的。なのだが、その唸りに似た唱和の、不思議なエモーショナルさ... アンサンブル・オルガヌムの歌声が生み出すヴァイブレーションに、魂を揺さぶられる。揺さぶられて、他では得難い癒しがもたらされるよう。その後の音楽の、美麗なるサウンドでは体験し得ない中世の神秘に、酩酊感さえ覚えてしまう。聴くための音楽とは違う、恐るべきスピリチュアル...
こういう音楽に触れると、中世のスケール感に驚かされる。シンプルな音楽でありながら、底知れなさを感じる不思議さ。ネットが世界を結び、あらゆることが地球規模で動き、我々が生きている21世紀こそ、壮大なスケール感の中にあると思って来たが、生々しく中世の音楽に触れると、我々が生きている21世紀こそ、高度に発達した技術に埋没して、そのスケールを委縮させてしまっているのではないだろうか?と思えて来る。しかし、「祈り」と言う行為が、上っ面でなかった頃の、本物の「祈り」とは、祈りに留まらない実際のパワーを持ち得るようで。いや、音楽でこうも非日常を味あわせてくれるものかと舌を巻くばかり。

Ensemble Organum Le Chant des Templiers

アンティフォナ "Crucem sanctam"
レスポンソリウム "Benedicat nos Deus"
レスポンソリウム "Honor virtus et potestas"
アンティフォナ・アド・マニフィカト "Te Deum patrem ingenitum"
マニフィカト
アンティフォナ "Media vita in morte sumus"
ヌンク・ディミッティス
キリエ・エレイソン
アンティフォナ "Da pacem Domine"
詩篇 "Fiat pax in virtute tua"
アンティフォナ "Salve Regina"

マルセル・ペレス/アンサンブル・オルガヌム

ambroisie/AM 9997




初々しさと素朴さと、ヒムリシェ・カントライ、"Music of the Reformation"。

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長い中世を経て、ヨーロッパ世界が新たな時代へと踏み出そうとした頃... マルティン・ルター(1483-1546)によって始まった宗教改革(1517)。カトリックからの離脱により、ラテン語ではなく自分たちの言葉で歌う、独自の教会音楽を模索したルター。新たな教会の、新たな教会音楽の黎明を綴る"Music of the Reformation"。輝けるルネサンス・ポリフォニーの時代にあって、あまりに素朴なそのサウンドに、ぼんやりと物足りなさを感じたのだが、今、改めて聴き直してみると、その素朴さにこそ魅了されてしまう。
ルターのコラール(作曲家、ルターというのが、また新鮮で... )に始まって、そのコラールをアレンジしたヨハン・ヴァルター(1496-1570)の作品が続き、そして、ドイツ語圏にとってのシンボリックなメロディ、バッハもメンデルスゾーンも用いた、ルターの定番コラール「神はわがやぐら」をアレンジしたカスパル・オトマイヤー(1515-53)の作品(track.5-7)が取り上げられる。やがてバッハの膨大なカンタータへと繋がってゆく、プロテスタントの教会音楽の黎明期、ルターとその周辺で行われていた新たな音楽の模索は、とても興味深い。普段、フランドル楽派の、その影響下の壮麗なルネサンス・ポリフォニーに隠れてしまっているだけに、新鮮であり、同じルネサンスの音楽でありながら、壮麗なルネサンス・ポリフォニーとはまた違う素朴さが初々しい。
キャッチーなメロディを基に、シンプルで、何より透明感を湛えた美しいアンサンブル... 素朴とはいえ、けして泥臭いわけではなく、仰々しくラテン語を使わず、大聖堂を声部で埋め尽くすでもなく、宗教改革の原点の姿というのか、身の丈サイズの輝きが、何とも心地良く。また、ヒムリシェ・カントライの澄んだ歌声が、そうした音楽によく映えて。また、作品によって付けられる、リュート、オルガンの伴奏が、声をやさしく支えて。何か、人間的な温かさ、やさしさに溢れた響きを紡ぎ出す。史実は、宗教改革によって始められる、血で血を洗う宗教戦争が延々と続くわけだが、一方で、こういうやさしい響きが生まれていたことに、少しホっとさせられる。

Music of the Reformation ・ Himlische Cantorey

ルター : "Nu bitten wir den heiligen Geist" 〔コラール〕
ヴァルター : "Nun bitten wir den heiligen Geist" Du wertes Licht 〔5部による〕
ヴァルター : "Nun bitten wir den heiligen Geist" Du sube Lieb 〔5部による〕
ヴァルター : "Nun bitten wir den heiligen Geist" Du Hochster Trost 〔5部による〕
オトマイヤー : "Ein feste Burg ist unser Gott" Ein feste Burg 〔4部による〕
オトマイヤー : "Ein feste Burg ist unser Gott" Mit unsrer Macht 〔2部による〕
オトマイヤー : "Ein feste Burg ist unser Gott" Und wenn die Welt 〔4部による〕
ヴァルター : "Der christliche Glaub" In Gott glaub ich
オトマイヤー : "Verba Lutheri ultima" Mein himmlischer Vater
ルター : "Mitten wir im Leben sind" Mitten wir... 〔コラール〕
オトマイヤー : "Mitten wir im Leben sind" Mitten in dem Tod 〔2声部〕
ヴァルター : "Mitten wir im Leben sind" Mitten in der Hollen 〔5部による〕
オトマイヤー : "Epitaphium D. Martini Lutheri"
ヴァルター : "Das Vater unser" Vater unser
ルター : "Durch Adams Fall ist ganz verderbt" Durch Adams Fall... 〔コラール〕
オトマイヤー : "Durch Adams Fall" Wie uns nun hat 〔2声部〕
ヴァルター : "Durch Adams Fall" Ich bitt' o Herr 〔5部による〕
ルター : "Mit Fried und Freud ich fahr dahin" Mit Fried und Freud 〔コラール〕
オトマイヤー : "Mit Fried und Freud" Das macht Christus 〔2声部〕
ヴァルター : "Mit Fried und Freud fahr ich dahin" Hier ist das Heil 〔4声のための〕
ヴァルター : "Verleih uns Frieden" 〔5声のための〕
オトマイヤー : "Verleih uns Frieden" 〔4声のための〕

ヒムリシェ・カントライ

cpo/777 275-2




ルネサンスの終わりに、スティレ・アンティコ、"Music for Compline"。

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中世以来のポリフォニーを、美しく滑らかに変身させたのがイギリスのダンスタブル(ca.1390-1453)... それは音楽におけるルネサンスの始まりだったわけだが、ここで聴くのはルネサンスの終わり、テューダー朝の時代、イギリスで歌われた終課の音楽。タリス(1505-85)、シェパード(ca.1515-58)、バード(1540-1623)らの作品に、プレイン・チャントを挿み、一日の終わりの祈りを再現した"Music for Compline"。そして、ルネサンスの終わりもまた、イギリスは美しく滑らかだった...
陽は傾き、空が次第に青さを濃くし、星は瞬き出し、一日の終わりの、穏やかな風景の中に、そっと佇み、圧倒的な自然に包まれるような、そんな心地にさせてくれる、スティレ・アンティコが歌う終課の音楽(終課は最後の祈りであって、すでに夜も更けた頃のものではあったろうが... )。改めて聴いてみて、よりその美しさに深く感動してしまう。ステレオ・タイプなルネサンスのポリフォニーからは、すでに新たな一歩を踏み出しつつあるテューダー朝の作曲家たち、その作品の、ハーモニーを美しく揃えて生まれる、より甘美な響きに、心地良く酔わされ。それは、イギリスのルネサンスの頃、一日の最後の祈りに、得も言えぬ安らぎをもたらしてくれたのだろう。複雑なポリフォニーで管を巻くのとは違う、人にやさしい音楽... そのやわらかな広がりは、21世紀を生きる我々にとっても、安らぎに充ちたものとなり、理屈抜きの美しさがある。
そして、その理屈抜きの美しさを紡ぎ出すスティレ・アンティコ... このアルバムはデビュー盤であったわけだが、デビュー盤にして最高傑作か?イギリスの若手が結集し紡がれるアンサンブルの、若いからこそのピュアな歌声に、気持ちの良いものを感じ。そのピュアな声が生み出すフレッシュな透明感は、イギリスのルネサンス・ポリフォニーの魅力を引き立たせる。何より、ひとりひとりの声が綺麗にアンサンブルに融けて、得も言えずナチュラル... それでいて、ほのかな温もりを感じさせて、心をぽっと温かにしてくれるようでもあり。彼らのハイ・クウォリティに息を呑みつつ、深い安らぎも、もたらしてくれる、"Music for Compline"。やはり、おやすみ前に聴きたい1枚。明日が良い一日であることを祈りつつ...

MUSIC FOR COMPLINE ・ STILE ANTICO

ジョン・シェパード : われらを解き放ちたまえ I & II
プレイン・チャント 「主よ、われらを救いたまえ」
バード : 主にして日なるキリストよ
シェパード : 平安のうちに
タリス : あなたの御手に
シェパード : 世の救い主であるイエス、御父の言葉よ
シェパード : あなたの御手に I
シェパード : あなたの御手に II & III
プレイン・チャント 「主よ、われをあわれみたまえ」
タリス : 主よ、われらをあわれみたまえ
バード : 主よ、われをあわれみたまえ
タリス : 平安のうちに
ホワイト : 主にして日なるキリストよ
プレイン・チャント 「主よ、来てください」
バード : 今こそ去らせたまえ
タリス : 光の消ゆる前に
アストン : 喜べ、処女なるキリストの母

スティレ・アンティコ

harmonia mundi FRANCE/HMU 907419




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