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グラミー賞受賞作曲家、ドアティの、いともアメリカンな世界。 [2011]

アメリカの作曲家、マイケル・ドアティ(b.1954)。
近頃、何となくその名前が視野に入ってきていて、どんな感じの音楽なのだろう?と、ぼんやり気になっていたのだけれど... 驚いた!今年のグラミー賞、クラシックのあらゆる部門に、ドアティの名前が... アメリカじゃあ、そんなにも注目される作曲家なの?!と、遅ればせながら、より具体的に注目してみることに。
NAXOSの"American Classics"のシリーズから、2タイトル。まずは、春にリリースされた、マリン・オルソップ指揮、ボーンマス交響楽団による「ルート66」(NAXOS/8.559613)。そして、今年、グラミー賞を受賞(リリースは一昨年で、新譜ではないのだけれど... )した、ジャンカルロ・ゲレーロ率いるナッシュヴィル交響楽団の「メトロポリス・シンフォニー」(NAXOS/8.559635)。アメコミの世界がオーケストラで奏でられたなら?そんな破天荒さが、現代音楽の堅苦しさをブった切る、ドアティの管弦楽作品をたっぷりと聴く。


ルート66から、サンセット・ストリップへ...

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アメリカの現代音楽というと、かなりイってしまっている「前衛」か、スタイリッシュなミニマル、ポスト・ミニマルというイメージがあるのだけれど、また違う方向性を示すドアティの音楽。B級SF映画のテーマ音楽?なんて言ってしまったら、怒られてしまうだろうか... こどもの頃、テレビから流れていたお気に入りのメロディやら何やらを、オーケストラというツールを素直に使って、胸すくダイナミックさで繰り出す、男の子の"夢"の音楽(ばかりでもないのだけれど... )。そんな印象。しかし、一通り音楽を体験した大人にとっては、それはチープかもしれない。が、ドアティは、それを、確信犯的に現代音楽という場所で響かせてしまう。で、かえってクール!で、いろいろ考えることなく、そのまま楽しめてしまうあたり、これこそがアメリカン?
ということで、1曲目、「ルート66」。アメリカの歴史、文化において、シンボリックな存在だという、国道66号線(日本だったら、東海道=国道1号線みいな?)を音楽で捉えた作品は、ビッグ・バンド的なサウンドで、ジャジーでもあって、クラシックという枠組みをするりと抜け出すキャッチーさで、楽しませてくれる。続く、「ゴースト・ランチ」(track.2-4)は、アメリカを代表する女流画家のひとり、ジョージア・オキーフの絵画にインスパイアされた作品。オキーフの鮮やかで、ドライな空気感と、どこか呪術的でもあるような雰囲気が、丁寧に音楽に盛り込まれて、チープさばかりでない良質のモダン・ミュージックも楽しませてくれる。かと思うと、「サンセット・ストリップ」(track.5-7)では、1960年代にヒットした『サンセット77(77 Sunset strip)』という、探偵の活躍するドラマ・シリーズが基になっているとのこと。で、往年のスリリングさと、ムーディーさが、いい味を醸していて魅力的。最後の「タイム・マシーン」は、3群のオーケストラによる2つの部分からなる作品で、アメリカンのモダンと、ヨーロッパのクラシカルさを重ねたような"past"(track.8)と、ヒナステラ流の新表現主義?どこかプリミティヴな"future"(track.9)の対比がおもしろく、骨太なサウンドも魅力的。
そんなドアティ作品の紹介に力を入れて来たというオールソップの指揮... 彼女が2008年まで率いたボーンマス響との演奏は、やはり息が合って、ドアティのやんちゃも、きちっと仕上げる。そうして、活きて来る、ひとつひとつの作品のおもしろさ。オールソップ、ボーンマス響の丁寧さが、ドアティのもうひとつのアメリカの現代音楽、いや、これぞアメリカンな気分を、生気に溢れるものとしている。

DAUGHERTY: Route 66 ・ Ghost Ranch ・ Time Machine

ドアティ : ルート66
ドアティ : ゴースト・ランチ
ドアティ : サンセット・ストリップ
ドアティ : タイム・マシーン 〔3人の指揮者と管弦楽のための〕 *

マリン・オールソップ/ボーンマス交響楽団
陳 美安、ローラ・ジャクソン(指揮) *

NAXOS/8.559613




メトロポリスから、モダン・ワールドへ...

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ピー!というホイッスルの第一声に、びっくり。で、さらに、ピー!ピー!ピー!っと、ホイッスルの応唱(っていうのか?)に、ナンジャアコリャアとなってしまう、グラミー賞受賞の「メトロポリス・シンフォニー」。スーパーマン、生誕50周年にオマージュを捧げた作品ということで、まさに劇画的!いや、好きなんだろうなァ。というのが、透けて見えてしまうドアティの音楽が、ラヴリー!まさしく、アメコミの世界をオーケストラで表現すると、こんな感じになるのだろうなァ。という音楽。サティの『パラード』を思い起こさせるような、街の喧騒を巧みにオーケストラに取り込んで、アグレッシヴに、キャッチーに展開してゆく。
で、最高なのが、最後の"Red Cape Tango"(track.5)。あのハバネラのリズムに乗って、あのディエス・イレが浮かび上がり、またまたびっくり。こういう組合せって、ありなわけ?!と、ギョっとさせられるも、個性の強い2つを大胆にまとめてしまう勇気に感心させられもし。で、それは、見事なカクテルになっていて、やさぐれたハバネラに、ディエス・イレの黙示録的なダークな雰囲気が広がり、単純にカッコいい!絶対に他の作曲家だったらしない。というより、思い付かない。けど、そういう音楽をやってのけてしまうドアティ、恐るべし。
という、何でもあり?なスーパーマンから一転、ヘヴィーに鉄道の世界を描く、ピアノとオーケストラのための「デウス・エクス・マキナ」(track.6-8)。ピアノの疾走感と、オーケストラの重厚さが、見事なモダン・テイストのピアノ協奏曲を繰り広げていて。バルトークのピアノ協奏曲を思わせるような、20世紀を強く意識したそのサウンドからは、鉄と油の臭いがしてきそう。鉄道はもちろん、あらゆる技術が高度に発達し、なおかつ洗練されてもいる21世紀の現代には、リアルな「近代」が、おもしろい存在感を放つ。
また、演奏もすばらしく... テレンス・ウィルソンのピアノの力強さと鋭さが、機械のダイナミズムを響かせて。ゲレーロ+ナッシュヴィル響のヴィヴィットな感覚が、リアルな「近代」の生々しさを際立たせるよう。もうひとり忘れてならないのが、「メトロポリス・シンフォニー」でヴァイオリン・ソロを弾くメアリー・キャスリン・ヴァン・オズレイル。スーパーマンの宿敵、レックス・ルーサーを担うのがヴァイオリン・ソロなのだが、そのどこか飄々としてスリリングな演奏は、「メトロポリス・シンフォニー」を大いに盛り上げている。
それにしても、独特な個性を放つドアティ作品。それでいて、硬軟含めて多彩な音楽のパレットを持っているのも注目すべき点で。そのパレットを使い、屈託無く、やりたいように作品を紡ぎ出すその姿は、この人こそアメリカ的な作曲家なのでは?と、思えて。グラミー賞受賞というのも、納得。

DAUGHERTY: Metropolis Symphony ・ Deus ex Machina

ドアティ : メトロポリス・シンフォニー 〔オーケストラのための〕 ***
ドアティ : デウス・エクス・マキナ 〔ピアノとオーケストラのための〕 *

メアリー・キャスリン・ヴァン・オズレイル(ヴァイオリン) *
エリック・グラットン(フルート) *
アン・リチャーズ(フルート) *
テレンス・ウィルソン(ピアノ) *
ジャンカルロ・ゲレーロ/ナッシュヴィル交響楽団

NAXOS/8.559635





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