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ベルカントの時代。 [2007]

ロッシーニは、侮れない...
いや、侮って来たわけではないけれど、ロッシーニ、最後の大作、『ギヨーム・テル』の全容を、今さらながらに知り、衝撃を受けてしまう。最後の最後で、さらなる進化を遂げていたロッシーニ。『ギヨーム・テル』は、「集大成」ではなく、「進化」であることが凄い。そして、進化したロッシーニに触れて、霞が掛かっていたオペラ史を、よりしっかりと捉えることができたような気さえする。捉えることができて、改めて、19世紀のオペラ、ヴェルディ(1813-1901)、ワーグナー(1813-83)の黄金期へと至る過程を興味深く感じてしまった。
ということで、『ギヨーム・テル』(1829)の頃のヨーロッパのオペラ・シーン、ベルカント全盛の頃を探る、2007年にリリースされた2タイトル... チェチーリア・バルトリが、19世紀、伝説のプリマ、マリア・マリブランをフィーチャーしたアルバム、"MARIA"(DECCA/475 9078)と、そのマリブランも歌った、ベッリーニのオペラ『ラ・ソナンブラ』を、ナタリー・デセイが歌う、リヨンのオペラによる全曲盤(Virgin CLASSICS/395138 2)を聴き直す。いや、ベルカント尽くし!やっぱり、ベルカントは美しい!


マリブラン、バルトリ... 時空を越えて、プリマ、共鳴!

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1830年代、一世を風靡したプリマ、マリア・マリブラン(1808-36)を再発見するアルバム、"MARIA"。彼女がスターとして活躍した頃の、ヨーロッパのオペラ・シーンを垣間見ることのできる興味深い1枚は、まさに、バルトリならではのアルバム... で、ベッリーニのお馴染みのオペラからのアリアが並び、音楽史的に俯瞰するならば、ロッシーニは引退したもののベルカント全盛、ヴェルディ、ワーグナーが出現する前夜、といったところか。そして、その時代を代表するプリマが歌ったナンバーというのが、おもしろい。
ベッリーニの他に、フランスのアレヴィ(1799-1862)、モーツァルトに師事したフンメル(1778-1837)、それからメンデルスゾーン(1809-47)まで!これまでのクラシックでは考えられないような組合せで。いや、これこそが、1830年代のリアルな姿なのだけれど... 教科書的なクラシックに慣れてしまった耳には、ひどく刺激的!さらには、マリブランの父で、ロッシーニの『セヴィーリャの理髪師』初演のアルマヴィーヴァ伯を歌ったと言うマヌエル・ガルシアのオペラに、マリブラン自身の作品まで... そこに、スペイン風やら、スイス風やら、個性際立つナンバーも加わり、当時のスペイン・ブーム、スイス・ブームまで楽しめたりと、驚くほど盛りだくさん。
そうした中で、特に印象に残るのは、メンデルスゾーンのシェーナとアリア「不幸な」(track.4)。ヴァイオリン・ソロ(ヴェンゲーロフが弾く!)も加わる、立派なコンサート・アリアなのだけれど、これが見事!メンデルスゾーンならではの律儀さで、モーツァルトのセリアの進化系、ベートーヴェンのコンサート・アリアを思い起こさせる古典派的な展開を見せつつ、どこからともなくワーグナー?アリアが盛り上がって来て、金管のパルスが聴こえて来ると、ん?!その後の音楽に大きな影響を与えたワーグナーも、先人たちの音楽の新鮮な響きを目ざとく捉えていたのかなと... こういうちょっとした瞬間に、連綿たる音楽史の壮大さを垣間見るようで、変に感動してしまう。
で、もちろん、バルトリ!改めて聴き直して、バロックものでないバルトリもやっぱり最高!その至芸たるや、有無を言わさず聴く者を圧倒して来る。何より、バルトリによるマリブラン... 2人が同じ声域だったということもあり、妙にしっくり来るようで... いや、ちょっと憑かれたような感覚も無きにしも非ず... 時空を越えて共鳴する2人のプリマの輝きが、凄い!そして、その輝きをさらなるものとするアダム・フィッシャー+ラ・シンティッラの、ピリオドならではの演奏がキレていて、気持ちいいぐらい。アルバムを盛り上げる!

MARIA CECILIA BARTOLI

パチーニ : オペラ 『イレーネ、あるいはメッシーナの包囲』 から 「もし私の願いに... この悲嘆に折れてください」 「天の怒りよ」 *
ペルシアーニ : オペラ 『イネス・デ・カストロ』 から 「いとおしい日々よ」
メンデルスゾーン : シェーナとアリア 「不幸な」 〔声、ヴァイオリンとオーケストラのための〕 *
ガルシア : モノドラマ 『計算ずくの詩人』 から 「我こそ華の密輸入者」
ベッリーニ : オペラ 『夢遊病の女』 から 「ああ!花よ、お前がこんなに早くしぼんで」 「ああ!私がひたっているこの喜びは」 *
フンメル : チロル風エールと変奏曲
ガルシア : オペラ 『風の娘』 から 「でも彼は見えない... 私は女王」 *
マリブラン : ラタプラン
パチーニ : アリア 「多くの苦しみのあとに」 〔ロッシーニのオペラ 『タンクレーディ』 のための〕
ベッリーニ : オペラ 『清教徒』 から 「わたしに希望をお与えくださるか... ここで優しい」 「おいでください、最愛のお方」
アレヴィ : オペラ 『クラリ』 から 「なんと甘くわたしに語りかけること」
ロッシ : オペラ 『アメーリア、あるいは変わらぬ真心の八年』 から 「流れよ、涙よ」 *
マリブラン : アリア 「お取りなさいな、わたしのお陰であなたは自由よ」 〔ドニゼッティのオペラ 『愛の妙薬』 のための〕
ベッリーニ : オペラ 『ノルマ』 から 「清らかな女神よ」 *

チェチーリア・バルトリ(ソプラノ)
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン) *
インターナショナル・チェンバー・ソロイスツ(コーラス) *
アダム・フィッシャー/オーケストラ・ラ・シンティッラ

DECCA/475 9078




全てが、みな、夢の中... ドリーミン!デセイの『夢遊病の女』。

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『夢遊病の女』、大好きなオペラのひとつ...
何だか、訳のわからない内にハッピー・エンド!で、そのハッピー感がたまらなく。聴いているだけで幸せになれそうな、そんな気分にさせてくれるベッリーニの『夢遊病の女』。ストーリーのみならず、夢遊病の女、アミーナに限らず、どこか夢の中をフワフワと漂うような、不思議な心地良さを感じるその音楽。ベッリーニならではの、ベルカントの麗しさ、そこから生まれる独特のメロディックさが、浮世離れした感覚を響かせるようで。どうもしっくりこないストーリー、その脚本の出来の悪さすら、かえっていい方に転ばせてしまうベッリーニの音楽というのは、やっぱり凄い... 改めて、デセイが歌う『夢遊病の女』を聴き直して、感じる。
とはいうものの、デセイによる『夢遊病の女』を最初に聴いた印象は薄かった。エヴェリーノ・ピドの指揮の淡白さのようなものが、このオペラの魅力を弱くしているように感じて... このマエストロにいつも感じる不満が、ここでも... となると、デセイの印象すら弱くなるようで... 期待が大き過ぎたのか?しかし、今、改めて聴き直してみれば、また違った印象を持つ。楽しげな始まりから、誤解を乗り越えて、ハッピーでいっぱいのフィナーレまで、ピドによる丁寧に隙なくきっちりと仕上げられた音楽の、無理をしない佇まいが、全体をかえって幻想的に見せる?クリアなはずなのに、輪郭がぼやけるような、不思議さ。オペラとしてのパンチには欠けるかもしれないが、その儚さこそ、夢!ピドの一歩引いた姿勢が、ベッリーニそのものをより浮かび上がらせ。その音楽が魔法を掛ける。
そして、デセイのアミーナだが... バロックもので見せる、驚異的なテクニックに裏打ちされた圧倒的な存在感とはまた違う、デセイならではのクリーミーな声そのままに、やわらかで、夢見がちな、実際に夢の中にいる女の子の心許無げなあたりを、まさにベルカントで聴かせてくれる。もちろんアミーナというと難役であって、その"狂乱の場"こそ聴かせ所なわけだが、そういう部分を強調しない抑えたデセイの歌が、より全体のドリーミンなあたりを際立たせていて。だからこそ、デセイに感嘆... やっぱりこの人は巧い... また、デセイのアミーナのみならず、エルヴィーノを歌うメリ(テノール)らも、すばらしいベルカントを披露。それでいて、アンサンブルのひとりとしての立ち位置をきちっと意識し、単なるベルカントの声の競演にせず、『夢遊病の女』そのものの魅力を堪能させてくれる。リヨンのオペラのオーケストラ、コーラスも、ピドの指揮の下、いい仕事ぶりを聴かせて、全てが好印象。
いや、全てが、みな、夢の中... ドリーミン!このハッピー感、最高!

BELLINI
LA SONNAMBULA
DESSAY / PIDÒ


ベッリーニ : オペラ 『夢遊病の女』

アミーナ : ナタリー・デセイ(ソプラノ)
エルヴィーノ : フランチェスコ・メリ(テノール)
ロドルフォ伯爵 : カルロ・コロンバラ(バス)
テレサ : サラ・ミンガルド(アルト)
リーザ : ジャエル・アッツァレッティ(ソプラノ)
アレッシオ : パウル・ガイ(バス・バリトン)

エヴェリーノ・ピド/リヨン歌劇場管弦楽団、同合唱団

Virgin CLASSICS/395138 2





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