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秘密のパート。 [2011]

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スウィーツ... sweets... suites...
小さなケーキが4つ、何気なく置かれたジャケット... フランスを拠点とする近現代音楽のスペシャリスト集団、ディオティマ四重奏団の、新ウィーン楽派による弦楽四重奏と声による作品集(naïve/V 5240)。シェーンベルク、ヴェーベルンの後で、アルバムの最後にベルクの抒情組曲(リリック・スウィート)を取り上げるのだけれど、まさか「スウィーツ」を掛けてやしないよね?なんて、つい余計なことを考えてしまうのだが... それはともかく、このアルバムの最も気になるところ、その抒情組曲を、オリジナル版の歌付きで取り上げること...
弦楽四重奏団にとって、近代音楽のレパートリーでは、最も重要な作品のひとつになるわけだが、その最後の楽章、6楽章(track.17)には、もともと歌が付いていた... という話しは、クロノス・クァルテットが、その歌付きオリジナル版を世界初録音(Nonesuch/7559-79696-2)したことで、知ってはいたのだけれど、聴くのは初めて... ということで、ワクワクさせられる1枚。

さて、どんな感じだろうか?となる前に...
久々に聴く、新ウィーン楽派!無調に、12音技法と、伝統を破壊し、音楽史を大きく前進させたその音楽に、何とも言えず、中てられるような、痺れるような、酔うような... その濃厚(と言うべきか?も迷うところなのだけれど... )なサウンドは、やっぱり独特。何が独特かと言えば、無調に、12音技法と、過去を断ち切ったようでいて、断ち切れていない。先に進もうとしても、伝統が追いすがるようでいて、またそういう展開を待っているような、新ウィーン楽派の面々の優柔不断さが生み出す、澱み?と言うか。
1曲目、シェーンベルクの2番の弦楽四重奏曲(track.1-4)は、まさにシェーンベルクが無調へと第一歩を踏み出した作品だが、妻に駆け落ちされたシェーンベルクの恨み節でもあって。2楽章(track.2)の「いとしのアウグスティン」の引用は、どうしようもなくシニカル... 金も、恋人も消えたと歌うアウグスティンは、シェーンベルクそのもののカリカチュア。で、その妻に献呈されているから、粘着質。そして、ベルクの抒情組曲(track.11-17)は、ベルクの不倫が複雑に織り込まれていて... こうして見ると、このアルバムというのは、新ウィーン楽派の情けないあたりを綴るのか?フロイトの時代の、ロマン主義の慣れの果て、この感情のドロドロとしたあたりが音楽となって、とぐろを巻きながら燻ぶる感じは、好き嫌いはさて置き、本当に独特だなと、変に、改めて感心させられる。
一方で、ディオティマ四重奏団の演奏は、その独特さに流されない。近現代音楽のスペシャリスト... という、機能主義的(と、安易に言ってしまうわけにもいかないのだけれど... )な性格が、ある意味、素っ気なく作品を捉えるのか。フランスから、遠い目で見つめるウィーン?新ウィーン楽派との距離感は、絶妙に良かったり。ドロドロとしたあたりを冷徹に響かせて、作品そのものの形をきちっと見せてくる。が、そうすることで、新ウィーン楽派の独特さは、よりインパクトを強め、聴く者の耳にぶつかってくる印象もあったり。そんな誤魔化しのないダイレクトな姿に、何とも言えず、中てられるような、痺れるような、酔うような... で、そこに声が加わる。
シェーンベルクの2番の弦楽四重奏曲、後半の2つの楽章(track.3, 4)では、サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)が。ヴェーベルンの「ゆっくりと」(track.11)と、ベルクの抒情組曲の6楽章(track.17)で、マリ・ニコル・ルミュウ(コントラルト)が歌うのだが。ピオーのクリーミーな声には仄暗さが漂い、ルミュウの艶やかな深い声は、ディオティマ四重奏団を地の底から包み込むような存在感があって、新ウィーン楽派の独特さを盛り上げる。「女」に振り回されながらも、「女」が作品を昇華する?ピオー、ルミュウが加わって、魅惑的に変化する響きが興味深い。
さて、抒情組曲の歌付きオリジナル版だが... その歌のパートは、ベルクが不倫相手に手渡していた手稿譜に書かれていたとのこと。それが公になるのが、抒情組曲が作曲されて半世紀も過ぎてから... 弦楽四重奏団にとって、近代音楽のレパートリーでは、最も重要な作品のひとつ... のはずが、ベルクにとっては極めてプライヴェートな作品であったことに驚かされる。そして、その歌のパートなのだが。やっぱり、歌ってこそ完成形なのか。歌が乗った抒情組曲は、より活き活きとした表情が生まれ、そうあることの方が自然。弦楽四重奏の緊張感のある響きに、艶やかな光沢を与える。より印象的だった。

SCHOENBERG WEBERN BERG Quatuor Diotima Sandrine Piau Marie-Nicole Lemieux

シェーンベルク : 弦楽四重奏曲 第2番 嬰ヘ短調 Op.10
ヴェーベルン : 6つのバガテル Op.9
ヴェーベルン : ゆっくりと 〔弦楽四重奏と声のためのバガテル/未出版〕
ベルク : 抒情組曲 〔オリジナル版〕

ディオティマ四重奏団
ユン・ペン・ツァオ(ヴァイオリン)
ナーマン・スルチン(ヴァイオリン)
フランク・シュヴァリエ(ヴィオラ)
ピエール・モルレ(チェロ)

サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
マリ・ニコル・ルミュウ(アルト)

naïve/V 5240




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