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編曲師。 [2007]

クラシックの世界において、「アレンジ」という行為は何とも微妙だったりする。もちろん、ありだし、それが当たり前だった時代(録音技術が存在しなかった頃、規模の大きい作品を、手軽に楽しむために... 実用的アレンジの時代?)もある。が、クラシック=古典音楽というしっかりとした枠組みができてしまってからは、下手にアレンジしてしまうと、ヒンシュクものだったり?今や、オリジナルを生み出すより、アレンジする方が難しい?
そうした中で、気になる存在... 合唱のために様々なアレンジを試みた、クリトゥス・ゴットヴァルト(b.1925)と、様々なオペラをピアノ用にアレンジした、イヴァ・ミカショフ(1941-93)。オリジナルを新たな次元へと解き放って、また違う、魅力的なサウンドを紡ぎ出す、その独特の感性は興味深く... そんなアレンジにスポットを当てた2007年のアルバム、マーカス・クリード率いる、SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトが歌う、クリストゥス・ゴットヴァルト編曲集(Carus/83.181)と、ジャン・イヴ・ティヴォーデが、ミカショフらのアレンジでオペラを弾く、"Aria ― Opera without Words"(DECCA/475 7668)を聴き直す。


ゴットヴァルト・アレンジ、パレットの多彩さ...

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クリード+SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトによるヴィラ・ロボスによる合唱作品集(hänssler/93.268)を聴いての、彼らによるクリトゥス・ゴットヴァルト編曲集。なのだけれど... 正直に言うと、このアルバムを初めて聴いた時は少しがっかりしたことを覚えている。ステレオタイプなイメージかもしれないが、期待していたドイツの室内合唱ならではのハイテク感、ちょっと冷たいくらいの怜悧さ、に欠ける?ようなところがあって、少し、ユルい?ようにも思えて... しかし、ヴィラ・ロボスでのほんわかしたハーモニーを聴いてから、ゴットヴァルトによる多彩なアレンジに触れると、クリード+SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトの持つトーンや、ほどよい温もりが、また魅力的なのだと、イメージは変わる。
1曲目、ラヴェルの「ため息」の、フランス印象主義ならではの色彩感に、重ねられる声=色の混じり合いから、ため息そのものの生温かさのようなものをハーモニーに乗せてくる。色彩感にどこか濁りのようなものを見せ、どこか生々しく、独特の存在感を漂わせる。前半はフランスの近代音楽、後半はドイツの近代音楽を歌うのだけれど、クリード+SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトのトーンは、より前半で活きるのか?フランス印象主義の美しい作品、ゴットヴァルトの美しいアレンジに、室内合唱、特有の透明感ではなく、マッドな仕上がりが、ちょっと魔術的にも感じられ、幻惑され。一方、後半では、それがまた翳となり、湿度となり、どろりとメランコリーが滴って... 情念が渦巻くようなあたりが、前半といい具合にコントラストを描く。が、最後は、マーラーの「私はこの世に捨てられて」(track.15)を持ってきて。その厭世感が、アルバムを見事に浄化もし、おもしろい。
ゴットヴァルトのアレンジというと、室内合唱という機能を最大限に活かして、作品に籠められている輝きを、人の声を用いて解き放つような、そんな印象がある。また、そうした輝きを目ざとく見つけて来るのがゴットヴァルトでもあり。輝きをすくい上げることこそ、ゴットヴァルト・アレンジの魅力のように感じて来たのだが、クリード+SWRヴォーカルアンサンブル・シュトゥットガルトのハーモニーを以ってすると、そればかりでない、独特の彩色を見出すようで、ゴットヴァルトが持つ、パレットの多彩さを知る。そして、やはり、オリジナルを越え来てしまう、ゴットヴァルト・ワールドに深く酔い痴れる1枚だった。

Clytus Gottwald ・ Transkriptionen
SWR Vokalensemble Stuttgart ・ Marcus Creed


ラヴェル/ゴットヴァルト : ため息 〔『ステファン・マラルメの3つの詩』 より〕
ラヴェル/ゴットヴァルト : 鐘の谷 〔『鏡』 より〕
カプレ/ゴットヴァルト : オラトリオ 『イエスの鏡』 からの 3つの断章
メシアン/ゴットヴァルト : イエスの不滅性への賛歌 〔『世の終わりのための四重奏曲』 より〕
ドビュッシー/ゴットヴァルト : ため息 〔『ステファン・マラルメの3つの詩』 より〕
ベルク/ゴットヴァルト : ナイチンゲール 〔『7つの初期の歌』 より〕
ベルク/ゴットヴァルト : 室内にて 〔『7つの初期の歌』 より〕
ベルク/ゴットヴァルト : 夢に見た栄光 〔『7つの初期の歌』 より〕
ホリガー/ゴットヴァルト : 憂鬱な鳥
ホリガー/ゴットヴァルト : 秋
ワーグナー/ゴットヴァルト : 温室にて 〔『ヴェーゼンドンクの5つの歌』 より〕
ワーグナー/ゴットヴァルト : 夢 〔『ヴェーゼンドンクの5つの歌』 より〕
マーラー/ゴットヴァルト : 私はこの世に捨てられて 〔『リュッケルトによる5つの歌』 より〕

マーカス・クリード/SWR ヴォーカルアンサンブル・シュトゥツトガルト

Carus/83.181




ミカショフとヴィルトゥオーゾたち。オペラへの愛。

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まずは、ティボーデ自身のアレンジによる『サムソンとデリラ』から... それは、メロドラマチックな甘い響きで... ティボーデは、随分、前になるが、リストによるオペラ・トランスクリプション集(DECCA/436 736-2)をリリースしている。が、その時の雰囲気とは一線を画す"Aria ― Opera without Words"。リストという、その当時、ある種の、アレンジへの免罪符だったろうものを取っ払って、もっと自由に、趣くままに、オペラに、アリアに、たっぷりと身を浸して弾くピアノは、クラシックのアカデミックさを完全に逸脱し、魅惑的な輝きを放つ。
オペラが好き... で、オペラの舞台(METにて、ジョルダーノのオペラ『フェドーラ』のピアニスト役... もちろん、歌いはしません... )にまで立ってしまったティボーデだけに、オペラへの愛に溢れた"Aria ― Opera without Words"。テイボーデ好みなのであろう、グレインジャー(track.2)、グリュンフェルト(track.4)、スガンバーティ(track.8)など、往年のヴィルトゥオーゾたちのアレンジを、たっぷりと並べて... そこには、もはやオペラの形は残っておらず、愛だけが存在するかのよう。まるで、オペラの幻影。しかし、幻影としてのオペラの美しさはただならない!そして、ミカショフによるアレンジなのだが... 『ジャンニ・スキッキ』(track.3)、『トスカ』(track.6)、『ノルマ』(track.7)、『蝶々夫人』(track.9)の4つのアレンジが取り上げられる。が、さらに増して美しく、魅惑的!
ミカショフというと、ケージ作品に欠かせないピアニスト... 現代音楽のスペシャリストというイメージがある。編曲においても、ナンカロウのプレイヤー・ピアノのためのスタディを、室内アンサンブル用に編曲し、秀逸な音の選び方で、ナンカロウのキテレツさも何のそのと、洗練した音楽を紡ぎ出した見事な仕事ぶりが忘れ難い。そして、オペラでもそのセンスは如何なく発揮され。やはり、愛が溢れている。多少、チープ(現代音楽の最前衛からすると、イタリア・オペラなどは... )なのかもしれないオリジナルを、如何に美しく響かせるか?愛するからこそ受け入れられない部分(?)、規模の大きいドラマをバッサリ切り込んで、改めてミカショフ趣味で、徹底してデコレーションを施し、それが、絶妙なサウンドにまとめられる。さらに、そのアレンジを、ティボーデが、今につないで...
オペラが好きなピアニストは、ニューヨークに住み... それから... それから... と、通じるところも多いだろう、ティボーデとミカショフ。オペラへの偏愛が、生み出す結晶?クラシックという枠を越えて、オペラでも無く、メロドラマの美が残り香る1枚は、いつ聴いても魅了されてしまう。

JEAN-YVES THIBAUDET
Aria ― Opera without Words


ティボーデ & カーバー : 『サムソンとデリラ』 からの 2つのテーマによる幻想曲
グレインジャー : 『ばらの騎士』 の 最後の愛の二重唱によるランブル 〔改訂 : ティボーデ〕
プッチーニ/ミカショフ : オペラ 『ジャンニ・スキッキ』 から 「私のお父さん」
コルンゴルト/ティボーデ & カーバー : オペラ 『死の都』 から 「私に残された幸せは」 (マリエッタの歌)
グリュンフェルト :
   ウィーンの夜会 ヨハン・シュトラウスのワルツの主題によるコンサート・パラフレーズ (オペレッタ 『こうもり』 から)
プッチーニ/ミカショフ : オペラ 『トスカ』 から 「歌に生き」
ベッリーニ/ミカショフ : オペラ 『ノルマ』 から 「清き女神よ」
グルック/スガンバーティ : メロディ (『オルフェとユリディス』 の 精霊の踊り から)
ミカショフ : 蝶々夫人の肖像 プッチーニの4つの断片を主題とするオペラティック・ソナタ・ファンタジー
ワーグナー/ブラッサン : ヴァルキューレの騎行 (楽劇 『ヴァルキューレ』 から)

ジャン・イヴ・ティボーデ(ピアノ)

DECCA/475 7668




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