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Accordion, S'il vous plaît ! [2011]

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アコーディオンというと、凄く重い... というイメージがある。
それは、小学生だった頃の記憶なのだけれど... こどもの肩にはずっしりと重く。その重さのせいで、蛇腹を思うように操ることはできず、音は鳴っているんだか、どうなんだか... そんなことに気を取られてしまえば、鍵盤を押さえるなんてことは、どうしようもなく困難で... そういう全てをひっくるめて、アコーディオンは凄く重い... というイメージを、未だに引き摺っている。そうしたところから聴く、アコーディオン... その響き、実はとても軽やかで... 毎回、その軽やかさに驚かされる。そして、またさらに、さらに驚かされる1枚に出会う!
日本を代表するアコーディオニスト、御喜美江による"S'il vous plaît"(BIS/BIS-CD-1804)。バロックから現代まで、タンゴに、映画に、アニメに... 多彩過ぎるほどの小品を、ぎゅっと集めて、軽やかにアコーディオンを奏で、心地良く驚かせてくれる1枚を聴く。

ダカン、ラモー、ドメニコ・スカルラッティ、ヘンデルと、まずはバロックから始まる"S'il vous plaît"。チェンバロのための作品が、アコーディオンに置き換わると... 何と軽やかな!金属の弦を引っ掻いて音を出すチェンバロから、蛇腹で作る風が鳴らすアコーディオンによる演奏は、余分な力が完全に抜け切って、まさに風そのもののようであり。「バロック」、さらには「クラシック」という重力から解き放たれ、耳の傍を心地良く吹き抜けてゆく。そして、ロマン派の作品、モダンな作品と、時代をざっくり下って。おもしろいのは、それぞれ、オリジナルの楽器から離れることで、作品そのものの魅力に触れるようなところもあって、聴き馴染んだメロディも、瑞々しく...
クラシックという重々しいジャンルからすると、アコーディオンという楽器は、軽く、チープな印象すらあるかもしれない。が、その軽やかさを以ってクラシックを捉えると、その意表を突くあたりが、効果絶大... まさに異化効果... それは、クラシックのパロディにして、クラシックという権威を外された作品、ひとつひとつの、音楽としての力が試されるようなスリリングさもあったり。一見、風に吹かれるような、心地良いサウンドに溢れている"S'il vous plaît"だが、そこには、クラシックとアコーディオンの、刺激的な駆け引きが隠されている?御喜美江のキレ味鋭いタッチが、軽さの一方で、クラシックの必要以上の重々しさ、仰々しさにドスを効かせるのか... 緊張感も孕んで。そういういい緊張感があるからこそ、心地良さも際立つ。
アルバムの後半は、クラシックを脱して、まず、アコーディオンの時代の作品が並ぶ。フランスのミュゼット、ピアソラのタンゴでは、まさに水を得た魚。アコーディオンの音楽が、その魅力をはじけさせる。そうした中、際立って個性的な... というより異様な?ジョン・ゾーンのロード・ランナー(track.21)。それまでの心地良さの一方で、インパクトを生む。フリー・ジャズ的な即興の中に、多様な音楽の断片が亡霊のように浮かんでは消え... ハンガリー狂詩曲、ダバダバダ... いや、ロード・ランナーが、ワーナーのアニメのキャラと知って、納得。そして、笑う!いや、まさに効果音的な世界を、きっちりカヴァーして来る、御喜師の超絶技巧、恐るべし。その後で、ワイダ監督の映画『灰とダイヤモンド』のテーマに使われた、オジンスキのポロネーズ(track.22)が、あまりに飄々としていて... これが絶妙過ぎる!いや、アルバムの隅々に至るまでが、絶妙過ぎる!
バロックに始まって、スーっと、次から次へと良いように導かれるようなところもあって、気が付けば、アコーディオンの魅力に取り憑かれている?ちょっと想像がつかないようなヴァラエティに富む音楽を並べながら、魔法を掛けたように、スムーズに、ナチュラルに、1枚のアルバムに編まれていることに、驚かされる。もちろん、アコーディオンが映える、絶妙な選曲も際立っていて。『楽興の時』、3番(track.6)なんて、アコーディオンという楽器がはまり過ぎるほど。また、はめてしまう御喜美江の恐るべきテクニックと、フレキシブルな音楽性があって... 相当に超絶技巧でありながらも、あまりにさり気なく弾かれてしまうことに、後になって息を呑む。いや、そういうさり気ないあたりに粋を感じて、唸らされる。のだが、"S'il vous plaît"から響いて来るサウンドというのは、あくまで軽やかで。それは、5月の軽やかさにぴったりで。なんて、素敵な1枚だろう!

S'il vous plait ・ VIRTUOSO MINIATURES ON THE ACCORDION ・ Mie Miki

ダカン : かっこう
ラモー : リゴドン 1 と 2
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ハ短調 K.11
ヘンデル : 調子の良い鍛冶屋
ジャコビ : セレナード
シューベルト : 『楽興の時』 D.780 Op.94 より 第3番 ヘ短調
シューベルト : 『楽興の時』 D.780 Op.94 より 第5番 ヘ短調
ブラームス : 一輪のばらは咲きて
イベール : 『物語』 より 年老いた乞食
イベール : 『物語』 より 白い小さなろば
ストラヴィンスキー : タンゴ
グラス : モダン・ラヴ・ワルツ
アスティエ/ロケ : ミス・カーティング
アスティエ/ロッシ : ノヴェルティ・ポルカ
ルグラン : シェルブールの雨傘
ピアソラ : S.V.P. (シル・ヴ・プレ)
ピアソラ : バチンの少年
ピアソラ : チャオ・パリ
ピアソラ : 白い自転車
ゼズ・コンフリー : ディジー・フィンガーズ
ゾーン : ロード・ランナー
オギンスキ : ポロネーズ イ短調 「祖国との別れ」
ショスタコーヴィチ : 別れのワルツ

御喜 美江(アコーディオン)

BIS/BIS-CD-1804




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