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ボルジア家、諸行無常... [2011]

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ボルジア家... ルネサンスが崩れ始めようとした頃、最も聖なる教皇座から、手段を選ばず、イタリアを牛耳り、ヨーロッパを動かそうとした一族。気難しい歴史書に登場したとしても、多くの逸話に彩られ、その存在は、毒々しく、何とも言えない魅力を発する特異な一族だ。そんな一族を、音楽で綴る... サヴァール、恒例の、ブック型CD。今年は、"DINASTIA BORJA(ボルジア王朝)"(Alia Vox/AVSA 9874)。
中世フランスの異端の歴史を、淡々と、かつ恐ろしく丁寧に紹介して、そのマニアックさに慄いた昨年のカタリ派(Alia Vox/AVSA 9873)から一転、爛熟のルネサンス、権謀術数に満ちた聖堂で、荘厳に、清らかに歌われた教会音楽... あるいは、毒も盛られたであろう饗宴を彩った華やかな宮廷音楽... なんて、期待したのだが、サヴァールのマニアックさは相変わらず。ステレオ・タイプに留まらない、徹底してボルジア家と向き合う3枚組。音楽以上に歴史を響かせてしまうサヴァールに、また付き合ってみる。

憂いを帯びたオウド(イスラム圏のリュート?)に導かれて、アル・アンダルスのエキゾティックな歌(ずばり、アラブの... )で始まる"DINASTIA BORJA"。ローマ・カトリックの総本山、ヴァティカンの頂点に立ったボルジア家を綴るわけだ、聖都、ローマの聖堂に響いたであろう、ルネサンスのポリフォニーで壮麗に始まるかと思っていたから、驚かされる。が、そのエキゾティックなあたりが、あまりに浮世離れしていて、何とも魅惑的で、歴史の彼方へと、一気に連れ去られるような感覚もあっておもしろい。ボルジア家の起源に遡り、中世、イスラム支配下のイベリア半島から始まる"DINASTIA BORJA"は、とにかく、徹底して歴史に迫ってゆく。
まず、一族を飛躍させることになる教皇、カリストゥス3世(在位 : 1455-58)を追い、デュファイ、バンショワといった、フランドル楽派の作品が歌われる。そうした中で、コンスタンティノープル陥落(1453)では、トルコの行進曲(disc.1, track.10)が。レコンキスタ(キリスト教勢力による対イスラム、イベリア半島支配回復戦争... )が完遂したイベリア半島でのユダヤ人の追放(1492)では、セファルディのロマンセ(disc.1, track.22)が取り上げられ、様々な文化が混在する、中世ヨーロッパの最後の時代を響かせて、興味深い。
そして、悪名高き教皇、アレクサンデル6世(在位 : 1492-1503)が登場。そのこどもたち(がいる不思議... )、権謀術数に長けた希代の政治家、チェーザレ、ルネサンスを彩る伝説の美女、ルクレツィア(ドニゼッティがオペラにした... )の兄妹のエピソードが、教皇庁聖歌隊にも参加し、後に、ルクレツィアが嫁いだ、フェッラーラの宮廷の楽長を務めたジョンスカン・デ・プレの作品を中心に、ルネサンスの様々な音楽でまとめられ描かれる2枚目。盛者必衰... 的に、アレクサンデル6世の死によって、力を失ってゆく一族の行き着いた先を捉える3枚目は、イベリア半島へと帰った家系(ガンディア公爵家)から、やがてイエズス会の総長を輩出し、列聖までされるという、ローマでの所業からは考えられない、驚くべき結末を、スペインのルネサンス、モラーレスらの教会音楽で綴る。
いや、そのあまりにドラマティックな一族の物語に、唸ってしまう。これは、ある種の"平家物語"かもしれない。サヴァール特有の枯れたトーンが、全体を、何とも言えない「哀れ」感で包み。ルネサンス・ポリフォニーならではのヘブンリーさは控え、どこか常にうら悲しい。権力や栄華の儚さが、3枚組で滔々と歌い綴られるかのようで、それは、どこか東洋的?にすら感じられる。また、実際に、東洋的な要素が、大胆に挿まれて... トルコからの亡命者、ジェム王子(オスマン・トルコ皇帝、バヤズィット2世の弟... )や、スペインを追放されるモーロ人(イスラム教徒たち... )を描く音楽は、まさにオリエントそのもの。ルネサンスの揺籃たる、古代以来の地中海文化圏的な、多様な文化の混在が丁寧に拾い上げられていて、スパイスとして耳を楽しませてくる。そして、多文化主義を否定した歴史の歩みに、某かのメッセージを籠めるサヴァールの姿勢が見て取れもし、興味深い。
相変わらずマニアックで、音楽以上に歴史を響かせてしまうサヴァールなのだけれど、いわゆるボルジア家ばかりでなく、その起源から、その後までを捉えることで、スキャンダラスな一面だけでない、ボルジア家とボルジア家を取り巻いていた時代を響かせて、壮大な大河ドラマを見せてくれたような... 深い聴き応えが印象に残る。

DINASTIA BORJA
LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ HESPÈRION XXI
JORDI SAVALL


権力への径/家門の起源と伸長(1238年頃-1492年)
I. ボルジア一族の起源と勃興
II. 3つの文化の終焉と権力の獲得、ヴァティカン

栄華を極めることは儚く/絶頂と夢の終焉(1492年-1509年)
III. 絶頂と夢の終焉
IV. 社会変動と人文主義の時代 : シビラ(巫女)と黙示録の預言

アレクサンデル6世の騒然とした治世から聖フランシスコ・デ・ボルハの宗教的勝利まで(1510年-1671年)
V. 交戦と休戦/軍事的及び政治的責任
VI. 断念(放棄)と宗教的変容
VII. 最後の年月、フランシスコ・デ・ボルハの死と列聖

ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ
ジョルディ・サヴァール/エスペリオン XXI、他...

Alia Vox/AVSA 9874




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