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幻想交響曲をピアノで弾いたなら... [2011]

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リストが、ベートーヴェンの9つの交響曲、全てを、ピアノ用に編曲しているのは知っていた。が、ベルリオーズの幻想交響曲も編曲していたとは... 今頃、驚いている。いや、これ以上、はまる組合せがあるだろうか?!「死の舞踏」や「メフィスト・ワルツ」のイメージからか、どこかデモーニッシュさも漂うリストという存在。伝説のヴィルトゥオーゾの、「ピアノの魔術師」というキャッチ・コピー(?)も助けて、独特の雰囲気がある。そして、その魔術師が、阿片による悪夢の中に立ち現れたサバト(魔女たちの饗宴)で締め括られる、異形の交響曲を、ピアノ用に編曲したとならば、期待を込めて、何やらただならなさを感じてしまうのだが...
そんな、リスト版、ピアノによる幻想交響曲を、フランスの鬼才、ロジェ・ミュラロが、リストの巡礼の年、第1年、「スイス」からの3曲とともに取り上げるアルバム(DECCA/4764176)。リスト、ベルリオーズ、ミュラロと、この個性のぶつかり合いも刺激的な1枚を聴く。

物語性を持たせるという禁じ手で、交響曲の新たな可能性を広げた奇想の作品、幻想交響曲。この作品で、標題音楽を提唱したベルリオーズ。その影響を受けて、「交響詩」というジャンルを生み出したリスト。リストが幻想交響曲を編曲するということは、実は大きな意味を持つことなのかもしれない。それは、交響曲から交響詩が分化する原点を見つめるということになるのか?よくよく考えると、とても刺激的だ。が、最初は、そのあたりのことよりも、異端児、ベルリオーズ(1803-69)を、魔術師、リスト(1811-86)が、どんな風におもしろく響かせてくれるのだろう?ということばかり期待していた。
その、リストによる幻想交響曲、1楽章(track.2)。オーケストラではなく、ピアノで捉えられることで、ベルリオーズの私小説(?)、多少青臭い青春物語が、瑞々しく、そしてセンチメンタルに疾走し始めるあたりが好印象。2楽章(track.3)のワルツは、リストにとってはお手の物か?サロンの華やかさを軽やかに描いて、とても魅力的。で、はっとさせられるのが3楽章(track.4)。途端にアルカイックになって、オーケストラで描かれるには、あまりに余白が多過ぎるようにも感じる3楽章(コンサートなんかじゃ、多少、眠くもなる?)が、ピアノというスケール感に見事にはまり、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンといった、古典的な表情を見せ、どこかノスタルジックでもあり、その儚げな表情に惹き込まれてしまる。いや、ベルリオーズ以上にイマジネーションは広がってゆくよう(もちろん、そこには、ミュラロの音楽性も相俟ってのことだが... )。まさに編曲の妙を感じる。
そして、一気に盛り上がってゆく後半、4楽章(track.5)。見せ所、断頭台への行進。ベルリオーズのケレンと、リストのケレンのスパークを期待してみたりもしたのだが、ピアノに落とし込まれたその音楽は、オーケストラで響く仰々しさが削ぎ落されて、感覚が次第に研ぎ澄まされてゆくような、ストイックさに驚かされたり。いや、ちょっと肩透かしを喰らうようでもあったり。なのだが、丁寧に音を追ってゆくと、ベルリオーズに真摯に向き合うリストの姿を見出すようで。それは、5楽章(track.6)で、より感じられて。死神やら、メフィストたちとは親しいリストだけに、5楽章のサバトこそ、おもしろく盛り上げてくれるはず!なんて、あまりに安易だったと反省する。冷徹に作品を見つめるリストの目が鋭く光り、どこかまとまり切れないようなイメージもある幻想交響曲の終楽章から、徹底して音を選び抜いて、より確固とした存在感を与えるかのよう。ファンタジーとしてのおどろおどろしさではなく、猟奇殺人の現場を覗き見るような、緊張感がたまらない。
それにしても、ミュラロのピアノが凄い... 魔術師が弾くために編曲したであろうスコアを、徹底してカヴァーしてゆくそのテクニックやら、精緻さやら、気迫やら。リストもベルリオーズと真っ向勝負を掛けていたと思うが、そこにミュラロも真っ向勝負を掛けていて、何か、負けていない。そんな、ベルリオーズ、リスト、ミュラロの存在を感じながら、幻想交響曲という奇想の作品が、いや物語が進み... それは、この三者が、綱引きをしながら進んでゆくようでもあって、スリリング。そんな幻想交響曲の前に、ウィリアム・テルの礼拝堂(track.1)、後に、泉のほとりで(track.7)、オーベルマンの谷(track.8)も取り上げられるのだが、その対比もまたおもしろい。リスト自身による作品のナチュラルな佇まいの中で、幻想交響曲には、何か、必死さが漂い。いい具合に、それぞれが互いに引き立て合ってもいるようで。そのあたりを巧みに弾き分けるミュラロ。幻想交響曲では、近現代のスペシャリストとしての怜悧さが発揮され、リスト自身による作品では、繊細さと色彩感が印象的で、美しいピアノを聴かせてくれる。そして、こういう組合せも刺激的で。いや、まさに、リスト、生誕200年のメモリアルに相応しい1枚なのかも。

BERLIOZ / LISZT ROGER MURARO

リスト : ウィリアム・テルの礼拝堂 S.160-1 巡礼の年 第1年 「スイス」 から
ベルリオーズ/リスト : 幻想交響曲 Op.14/S.470 〔ピアノ版〕
リスト : 泉のほとりで S.160-4 巡礼の年 第1年 「スイス」 から
リスト : オーベルマンの谷 S.160-6 巡礼の年 第1年 「スイス」 から

ロジェ・ミュラロ(ピアノ)

DECCA/4764176




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