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ECHOES of TIME. [2011]

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フィラデルフィア管が破産した?!いったい、クラシックは、どうなってしまうのだろう?
なんて、今さらでもあるのだけれど... クラシックはますます弱体化している。いや、こういう時代に、最も影響を受けるのがクラシックであって。そもそもクラシックとは、極めて弱い体質のジャンルであることを認識しなくてはいけないと思う。いや、否が応でも認識せざるを得ないか... という危機を反映して?なのか、近頃、リリースされるクラシックのアルバムは、いろいろ試行錯誤の跡が見受けられ、興味深いものが何気に多い。という点で、実は、今、これまで以上に、クラシックを楽しみ尽くす機会に恵まれているのかも?
ふと、そんなことを思った1枚。グルジア出身の逸材、異彩を放つ、リサ・バティアシヴィリのヴァイオリンが、20世紀、旧ソヴィエト圏の、暗い歴史が負う傷跡をなぞり、音による癒しを施す、"ECHOES OF TIME"(Deutsche Grammophon/477 9299)を聴く。

ショスタコーヴィチの1番のヴァイオリン協奏曲に、カンチェーリ(独奏ヴァイオリンに、テープによるサウンドと弦楽オーケストラによるなかなか興味深い編成の"V & V")、ペルト(ゴージャスにもグリモーのピアノ伴奏で、「鏡の中の鏡」)に、ラフマニノフのヴォカリーズ(やはりグリモーのピアノ伴奏による)まで... という盛りだくさんさ。いや、ちょっと思いも付かない組合せ。それは、旧ソヴィエト圏出身で、それぞれにソヴィエトと大なり小なり因縁を持つ4人の作曲家たち... という組合せだが、その作風はまったく異なっていて、ヘヴィーなショスタコーヴィチ、アンビエント(ばかりでないのだけれど... )な東欧の現代の作曲家たち、甘くロマンティックなラフマニノフ... 果たして1枚にまとまるのだろうか?と、不安にもなる組合せだが、見事にまとめてしまったバティアシヴィリ。
その1曲目、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲(track.1-4)。苦悩と狂気を行き来する恐るべきコンチェルトは、そのままソヴィエトの過酷な歴史のルポルタージュ(作品そのものも「社会主義リアリズム」という検閲にさらされ、作曲当時、ショスタコーヴィチ自身も危機的な状況下にあった... )。ただならずヘヴィーに響くわけだが、バティアシヴィリのような若い世代(1979年生まれのリサ... 彼女が12歳の時にソヴィエトが崩壊。彼女の祖国、グルジアは、これを以って独立... )にとって、ソヴィエトはリアルに圧し掛かって来ない?作品の拭い去り難いはずの背景を突き放して、純音楽として改めて捉え直すような、新鮮なアプローチ!この作品は、こういう音楽だったのか?!と、驚かされるようなところも(それを可能とするバティアシヴィリのテクニックにも驚かされる!)。また、バティアシヴィリを支えるサロネン(指揮)の存在も大きく、これまでのイメージに流されない明晰なアプローチは、独特の軽快さ、透明感を生み出していて、バティアシヴィリとともに、不思議な洗練をショスタコーヴィチに響かせる。それは、どこか達観したようなショスタコーヴィチで、生々しく強烈な存在感を示すはずのこのコンチェルトが、これまでとは一味違う体験をもたらしてくれるよう。
という、ショスタコーヴィチの後で奏でられる、カンチェーリ、"V & V" (track.5)。ショスタコーヴィチと並べてしまっていいものだろうか?というイメージもあるカンチェーリだったが、その、静かにしてエモーショナルな音楽は、見事にはまって。あの世から過去の傷跡を見つめるような、ちょっとスピリチュアルな雰囲気も広がり... 達観したようなショスタコーヴィチがあって、そこに切なさをカンチェーリが加えて、ソヴィエトの時代を、少しセンチメンタルに振り返る。すると、どこか懐かしさを漂わせるショスタコーヴィチのワルツ(track.6)が聴こえてきて。その後で、全てを包み込むような、やさしさに充ちたペルトの「鏡の中の鏡」(track.7)が続き。そのシンプルな音楽に、生々しく心に残っていた記憶が、遠く思い出の中に融けてゆき、癒しがもたらされるよう。最後は、少しメランコリックに、ラフマニノフのヴォカリーズ(track.8)。その演奏は、まるで、映画のエンドロールを送るような印象があって。アルバムを聴き終えれば、何か、1本の映画を見たような、そんな感覚も。
ショスタコーヴィチの1番のヴァイオリン協奏曲に、カンチェーリ、ペルトに、ラフマニノフのヴォカリーズまで... 個性際立つ作品を並べながら、見事にひとつの流れを作り出すバティアシヴィリ。彼女の演奏はもちろんだが、こういうチャレンジングな聴かせ方に挑み、ひとつひとつの作品から、時代の負った傷と、現在からの癒しの視点を見出し、ひとつのトーンで結び、1枚のアルバムに仕上げたそのセンスに感服させられる。何より、美しい音に導かれながら、ただ音楽を楽しむだけに留まらない静かなドラマが、深く心に響いてくる。それは、バティアシヴィリのヴァイオリンに導かれて、20世紀の傷跡をなぞる、癒しの旅(線路に佇み、足下には旅行鞄... というジャケットが物語る通り... )、時を遡る、不思議なロードムービー。のようだ。

LISA BATIASHVILI | ECHOES OF TIME
GRIMAUD | SYMPHONIEORCHESTER DES BR | SALONEN


ショスタコーヴィチ : ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 Op.77 *
カンチェーリ : V & V *
ショスタコーヴィチ : ピアノのための7つの小品 『人形の踊り』 から 第1曲 「抒情的なワルツ」 *
   〔オーケストレーション : タマーシュ・バティアシュヴィリ〕
ペルト : 鏡の中の鏡 *
ラフマニノフ : ヴォカリーズ Op.34-14 *

リサ・バティアシュヴィリ(ヴァイオリン)
エサ・ペッカ・サロネン/バイエルン放送交響楽団 *
エレーヌ・グリモー(ピアノ) *

Deutsche Grammophon/477 9299




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